くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
参考にされた数
861
このユーザーのレビュー
-
小説 兜町(しま)
清水一行 / 徳間文庫
かの時代の日本経済史
0
私実は、昭和34年生まれであります。この小説は、ちょうどその頃が舞台となっており、とても興味深いものがありました。とは言え、株の専門用語が飛び交うので、完全に理解したとは言い難いとは思います。
…それにしても、これが相場といわれるものの実態だったのですね。文中にもでてきますが、「証券界は資本主義のゴミ捨て場だからな」とか、「株は人間心理の反射鏡である。浅ましさや愚かしさや貪欲さを、極めて正確に映し出してくれる。」等と言うフレーズは、やはりギャンブルの一つなのかもしれませんね。
読み出した始めは、なぜ主人公・山鹿の愛人を登場させる必要があるのかなと思いました。特にこの愛人千佐子の恋人まで登場し、物語の本質に関係ないような気がしておりました。しかしおそらく、この恋人西沢が結局ギャンブルで身を持ち崩していく姿を、対比的に描きたかったのかなと、思いました。
フィクションとは言え、一時代を築いた山一証券も今はなく、株もネットで売り買いする時代になっておりますが、やはり投資家というよりも、投機家といったほうがハマるようなスタイルで資本主義が成り立っているとしたら、正しいとは言えないんじゃないかなぁ。 続きを読む投稿日:2020.10.31
-
花祭
早川孝太郎 / 講談社学術文庫
奥三河の奇祭「花祭」の学術調査書
0
私自身は、別々の地域の花祭を2回ほど見に行ったことがあります。勿論、泊まり込みであります。花祭会館にも足を運んだことがあります。実は我が家の壁には「ざぜち」も飾ってあります。
この本は、その祭の…解説書というか、調査書でありまして、それぞれの地域の祭りの違いや特色について書かれてありました。また奥三河独特のものだと思っていましたが、天竜川水系に伝えられたものとは、全く知りませんでした。
時に文学的な表現もありながら、読みごたえのあるレポートなのですが、あの独特のメロディーが文章では表現できないのが残念ですね。まぁ、そちらはYouTubeで楽しめば良いでしょう。て~ほへ、てほへ。 続きを読む投稿日:2020.12.03
-
ひねくれ一茶
田辺聖子 / 講談社文庫
ひねくれている?イヤイヤ大変な人生でした
0
勿論小林一茶の名前はよく知ってますし、おそらく日本人ならば、芭蕉の次に有名な俳人でありましょう。でも、その人となりは全く知りませんでした。どの程度脚色されているかは判りませんけれど、大変な人生だった…んですね。かなりの長編ではありますが、読みごたえがあり、その内容に引き込まれます。
タイトルどおり、ひねくれているのは前半部分かな。遺産問題も解決し、若い嫁さんももらって、絶倫一茶、俳句も子作りも大車輪。これで幸せになるんだねと思って読んでいると、あに図らんや、次々と不幸が訪れます。子供を次々と亡くし、若い嫁さんも看取ることとなり、次にもらった嫁さんは意に沿わず、3番目にもらった嫁さんの腕の中で息を引き取る人生。彼は幸せだったのかなぁ。このラストシーンは目頭が熱くなりました。
それにしてもです。一茶が信州で落ち着くまでの間、このようなことで生計が成り立つとは驚きです。これも経済格差の所以なのでしょうか。ものすごく余裕のある人々もいたのですね。長いこと留守をしていると、どぶ板を盗まれるなんていうエピソードも出てきました。
一方、食事のシーンは、読んでいるこちらも涎がたれます。鰯の描写は見事でしたね。
また、様々な雑学的知識も身につきますよ。まぁ、私に教養がないからなのですが、「南鐐」なんてものも初めて知りましたし、「温柔郷」(言い得て妙ですね)「玉水練り」「鍋屋紐」「十徳」なんて言葉も初めて知りました。しかし1番驚いたのは、「おかうなぎ」ですかねぇ。たしか昔、映画「野生の証明」の中でヘビを食べるシーンがあったかと思いますが、あれは空腹を満たすため、やむを得ずだったと思います。ただ、信州でも一般的ではないのか、一茶の2番目の奥さんは知らなかったですよね。いや~マムシならば精力剤になるのかもしれませんけど、シマヘビは、う~ん。ちょっとねえ。 続きを読む投稿日:2021.01.06
-
ワイルドサイドをほっつき歩け ――ハマータウンのおっさんたち
ブレイディみかこ / 筑摩書房
第1章は泣いて笑える英の現状、第2章はまさに社会学
0
第1章は、へぇ~、イギリスの現状はこうなんだぁ。悲劇なのか喜劇なのか、判らないくらい面白く、かつ興味深い話でありました。でも、いずれ日本もこういう状況になるのかなぁと思わなくもありません。
一番…ビックリしたのはNHSという医療制度。日本とかなり異なるのに驚きましたが、いずれ日本もそうなるのかもしれません。やたら最近、「自助」を強調していますからね。ただ、この本が書かれたときは、コロナが蔓延していたわけではありませんから、少々変わってきているのかもしれません。
第2章は、社会学でありました。生まれた年による幾つかの分類が紹介されていました。それによると、1959年生まれの私は、ベビーブーマー世代とジェネレーションXの間にあたります。この括り方は米英のメディアでは主流とのことでありますが、一番驚いたのは、ジェネレーションX世代は、実際に戦争を知っている世代であるとの指摘でした。フォークランドで、ボスニアで、アフガニスタンで、イラクで、末端の兵士として戦った軍人が友人の中にいたりする世代であるとのこと。そして、激しい反戦抗議活動をした人々がいる世代でもあるとのことです。こうして考えると、いずれ先進国の中で、ホントの戦争を知らないのは日本だけとなるでしょう。これでは国際感覚にズレが生じるのも判る気がします。
また、現在の差別意識とは、「自分より得をしている気がする者」をぶっ叩きなる感情というのは、的を射ている気がします。ではどうすればよいか。社会学は直接処方箋を書いてはくれません。まずは一人一人が現状を認識することから始めるしかないのかも。 続きを読む投稿日:2021.01.06
-
再雇用警察官
姉小路祐 / 徳間文庫
ドラマ化したくなるのも判る面白さ
0
文句なく面白かったです。ドラマは残念ながら見ていませんが、これは映像化したくなりますよねぇ。推理小説的な面白さもありますが、それ以上に含蓄がありました。
また、尾行するときは、背中ではなく、足下…の靴を見ながら追うと相手に気づかれないなんて、とても役に立つ、ま、どこで役に立つかは判りませんけど、そんなトリビアなんかも嬉しいですね。また試作品の評判が良かったら商品化して、まず静岡県で売り出すというのも、初めて知りました。その理由は本文を読んで下さいな。なるほどと思いますよ。
苦労人である主人公の豊富な経験をいかした推理と捜査。そしてまさに脚を使ってかせぐという、派手さはないけど、おそらく刑事の基本に基づく展開。読みごたえがあります。それに最初は、出世欲旺盛な上司かと思っていた室長も、色々と。。。この人間描写も深みがあります。これは続編も期待できますね。 続きを読む投稿日:2021.01.06
-
笛師
新田次郎 / 講談社文庫
逆らえぬDNAに導かれた人生、読みごたえあり
0
この作者らしいスケールの大きな話でありました。幕府の隠密?とか城の抜け穴などの話は、少々脇道にズレすぎかなとも思わなくもありませんが、流石に見事な筆致で引き込まれてしまいます。特に、名古屋城は私の地…元でもあり、また昔から抜け穴の話は伝説としてありますので、大変興味をそそられました。
そして、笛づくりの本質である「古いかたちを真似ること」とか「いかにして同じかたちのものをつくるかということが笛師の生命なのだ。」ということも至極納得いくものでありました。というのも、かつて私の上司だった方に能面づくりが趣味の人がおりました。その上司は現役の頃から京都に通って先生に師事し、退職してからは能面教室を開いています。その方の話に寄れば、すべての能面は過去の名品の写しであるとのこと。いかにそっくりの面を作ることに血道を上げているというわけです。確かに能面展に行くと、タイトルに〇〇写しと記載してある物ばかりであります。
ここが、伝統を守りつつ新しいものを生み出していくという芸術・芸能とは一線を画すものなのでしょう。それにしても、日本古来の伝統を引き継いでいく方々の生活が保証されないという日本は、これでいいものなのでしょうか?それが心配であります。 続きを読む投稿日:2021.02.01