くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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ペンギン鉄道 なくしもの係 リターンズ
名取佐和子 / 幻冬舎文庫
あのほっこり話を再び!
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まさしくリターンズ!短編が最後に一つにまとまるのは、前作と同じ。今回は、ペンギンそのものよりも、登場人物達自身が、より主人公だったかな?
内容もさることながら、所々、面白い表現がありましたよ。「…ペンギンの肩が-どからどこまでが肩なのか今一つわからないけど-しゅんと下がったのを、真之介はたしかに見る。」確かにどこが肩なのかはわからんよね。それにペンギンが、外から水族館内ペンギンを見つめていたら面白い図になるよなぁ。
なんにせよ、ホントにこんな鉄道と遺失物保管所があったらいいよね。
忙しさにかまけて、どこかへ忘れてきてしまった物をこの小説を読んで取り戻してみませんか?
それにしても、なぜペンギン座ってないのでしょうか?確かカメレオン座ってのは、あったと思うんだけどな。 続きを読む投稿日:2019.09.09
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蜜蜂と遠雷(下)
恩田陸 / 幻冬舎文庫
自然は心の中に、音楽は自然の中に
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確かこれは、シンセサイザー奏者の喜多郎の言葉だったと思います。
この小説の中にも、こんな記述がありました。「元々音楽はそこらじゅうにあって、それを聞き取って譜面にする。音楽家は、預言者である。」…
話の展開は、コンペティションに臨む様々な人の想いを描いた群像劇ですが、おそらくこれが、この物語の根底に流れる物なのでしょう。
話が話だけに、クラシックの楽曲は勿論、フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン等それ以外も数多く出てきます。私はとくにクラシックファンというわけではありませんが、それでもLPだけみれば、最も多いジャンルがクラシックです。しかし、全く知らない楽曲も数多くありました。この本はガイドブックとしても使えるかもしれませんね。
とは言え、やはり気になるのは「春と修羅」でしょう。どんな楽曲なのでしょうか。この曲の途中にアドリブ部分を設けたという設定がいいですよね。
音楽家の感性というものは、我々凡人とは全く異なります。以前テレビで辻井伸行氏の即興演奏を聞いたことがあります。勿論、彼の既成楽曲の演奏も言うまでもありませんが、彼の弾く自然の描写、小川のせせらぎ、鳥のさえずりを表現した音楽には驚愕いたしました。演奏よりも創作に力を入れた方が良いのではと思ったほどです。彼のような音楽家達が奏でる即興部分の演奏は、いったいどのようなものなのでしょうか。その一方で、それを余すことなく描写する恩田陸の力量たるやスゴイと思わざるを得ません。
巻末の解説で編集者の方が寄稿しておらせますが、綿密な取材と絞り出すような努力によって書かれた小説とのこと。そうなんでしょうね。
とくに楽器演奏をしたことのある人ならば、いやスポーツ等でも同じかもしれませんが、この小説で書かれているとおり、一生懸命練習していると、今まで全く弾けなかったフレーズがある日突然、スムーズに出来るようになったりするものです。また、オレって天才かも?なんて思ったり、ぜ~んぜんダメだ!と落ち込んだりするのも、小説に書かれているとおりです。
登場人物達はいずれも個性的な面々で、若者の熱情あふれる群像劇ですが、そこに家庭を持つコンテスタントを一人入れるという設定もいいですよね。物語に厚みが出ていました。彼が予選で落ちてしまって、ちょっと寂しいなと思っていたら、最後に嬉しい出来事がありましたね。ホント良かったと思います。
この物語は、音楽に魅せられた人々を描きつつ、作者のあふれ出る音楽に対する愛情が沢山詰まった傑作だと思います。
で、これが映画になり、もうすぐ公開とのこと。映像化は不可能だと言われていたのも、読み終えた今では、まったくその通りだと思います。どんな作品になっているか今から楽しみであります。 続きを読む投稿日:2019.09.09
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虹の彼方に
高橋源一郎 / 講談社文芸文庫
正直言って、まったく意味不明
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これがポストモダン文学なのでしょう。このような小説を一体化して書くことの出来るのは、やはり源一郎さんただものではありません。
でも、やっぱり、わかんないなぁ。でも、最後まで読んでしまいました。
…
続きを読む投稿日:2019.10.04
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勁草
黒川博行 / 徳間文庫
読めないこのタイトルは何を言い表しているのかな?
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正直言って、タイトルは読めませんでした。「けいそう」と読むそうな。広辞苑によれば、「風雪に強い草。節操・意志の強いことのたとえ」とありました。さて誰を指しているのでしょうか。
物語は、貧困ビジネ…スにも触れながら、詐欺グループと警察の息詰まる攻防を描いたものです。双方の視点に立って描かれているのが、大変興味深いものでした。
しかし、単なる詐欺グループであった主人公が、殺人死体遺棄に巻き込まれたというか、その隠蔽工作に加担したところから、読者は、唾棄すべき詐欺犯の一人である、この「橋岡」という男に感情移入するようになるところが、作者のうまさですよね。
なんとか逃げ延びてくれと、願いながら読んでいる自分がいることに気がつきます。しかし。。。。。
きっと、この「橋岡」の相棒?であった「矢代」のような男は、な~も感じず、図太く、したたかに生き延びていくのでしょうね。と考えると、勁草とは、この男のことだったのかなぁ。
それにしても、あの私書箱代行会社における張り込みについては、あまりに警察はお粗末だよねぇ。あんなに簡単に見破られてはいけませんよね。大体、なぜ一人くらい社員として中で待機していなかったのかなぁ。どーも読んでいて、そこに引っかかりました。 続きを読む投稿日:2019.10.04
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人質オペラ
荒木源 / 講談社
実にリアルな展開。でもオペラって?
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さあて、どうなるどうなると、着地点が気になる展開でした。でも、この着地点しかなかったでしょうね。このような事例、危険地帯に入り込んだ人が人質になると、自業自得と言われるのも世間の常。でも、国のトップ…がそんなこと言うわけにもいかず、対応に苦慮するでしょう。でも、本当のところ、どうなんでしょうかねぇ。使い道をオープンにする必要のない予算あることですしね。
綿密な取材によって書かれたであろうストーリーで、それぞれの立場、外務省、政府、そして家族等の思惑と思いが錯綜する展開は、なかなか面白かったです。とくに、影の総理と言われる官房長官を女性としたところは興味深く、読ませて頂きました。ただ、なぜ乳がんとなる設定にしたのかなぁ、と思いました。結局、作者は、強いままの女性ではなく、どこか弱いところを設けたかったのでしょうか?
そしてタイトルですが、なぜオペラとつけたのでしょう。読み終わった感じでは、全ての人々が、それぞれの立場で右往左往する様を見ると、狂想曲とした方がしっくりくるような気がしました。 続きを読む投稿日:2019.10.04
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一切なりゆき 樹木希林のことば
樹木希林 / 文春新書
何気ないつぶやきが心を打つ珠玉の人生論
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悠木千帆と名乗っていた「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」の頃から親しんでいた女優さんです。正直言って、亡くなってしまったことが残念でならないというよりも、寂しさを感じる人になるとは、その時は勿論知る…よしもありませんでした。
この本に関しては、よくぞこれだけ言葉を集めたなぁと思います。そしてありがたいことに、目次には実に細かく一項目毎に、それぞれタイトルが付いています。つまり、どこからでも、また、いつでも、名言を読み返すことが出来ます。
もっとも樹木希林さんにしてみれば、名言なんておこがましいわよ、と言うかもしれません。
樹木希林流生き方のエッセンス?それは依存症というものよ。う~ん、確かにそうですね。でも、一切なりゆきと言いながらも、実はそうではないところが、樹木希林流の生き方だったのでしょう。
大上段に構えた哲学書を読むよりも、これからの人生、生きていく上で、何かしらの参考になりそうな一冊でありました。 続きを読む投稿日:2019.11.03