ポトトさんのレビュー
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皇帝の密使(下)
ジュール・ヴェルヌ, 江口清 / グーテンベルク21
ユーラシアの大冒険活劇、大団円!
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まさにページをめくる手がとまらないという感じで一気に読了。
読んでいてフランス人の書いたものだということをしばしば忘れてしまうほど、ロシア的魂を感じさせる物語だったと思う。プーシキンの『大尉の娘』とテ…イストが似ているような気がした。もちろんどっちもおもしろい。
シベリア・ユーラシアの草原地帯に対しては、アジアとヨーロッパの間にまたがる巨大で不思議な「中間地帯」というイメージがある。貧しいようで肥沃でもあり、昏いようで開放的でもあり、不動でもありダイナミックでもある、そういう場所。アジアとヨーロッパを往来する際には不気味な障壁のようにさえ感じられるのだが、それゆえにまた妙に惹きつけられるものがある。 続きを読む投稿日:2014.05.30
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新訳 少女ポリアンナ
エレナ・ポーター, 木村由利子 / 角川文庫
こんな話だったのか!
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昔アニメ版を見ていたと思うけど、「よかった探し」という言葉と、その時のポリー叔母さんの声で野沢雅子さんが成人女性の役をやっているのを初めて見た(聞いた)ことしか覚えてなかった。なので、新鮮な気持ちでわ…くわく読むことができました。
安心の古き善きアメリカのオンナノコ小説です。年に数回ほど、精神がこういう物語を必要とするのです。続編の『ポリアンナの青春』もぜひ新訳で出してほしいな。 続きを読む投稿日:2015.09.03
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細雪(上)
谷崎潤一郎 / 新潮社
憧れの時代。
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ふたつの大戦に挟まれた、近代日本史上もっともハイカラで華やかだった時代の物語。結婚をめぐる四姉妹のお話というとオースティンや若草物語を思い出すけど、日本にもこんな「娘さん文学」があったのですね。
大き…な事件が起こるわけでもないけど、関西弁の会話でまったりはんなり綴られる当時のお嬢さんたちの日常や、昭和モダニズムの魅力的な文化の描写を眺めているだけで愉しくてどんどん読めちゃいます。祖父母の若者時代だと思うとそんなに遠い話でもなく、自分の幼い頃にはまだこんな空気が少し残っていたように思います。 続きを読む投稿日:2015.09.03
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嵐が丘
エミリー・ブロンテ, 鴻巣友季子 / 新潮社
失くしたものへの執着を持つ人なら共感必至。
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新訳ということで確かに読みやすいけど、ちょっと訳が「軽すぎる」気がするかなあ。英語の分かる人に言わせると、誤訳に近いものも多いようです。なのでこの版としての評価は★三つ。原作に対しては文句なく四~五つ…なのですが。
でも正直、姉であるシャーロットの『ジェイン・エア』が病的に好きな私としては、妹エミリーのこの作品は、出てくる人物がみんな激情的でヒステリックで始終叫んだり怒鳴ったりしてるので、ちょっとばかし苦手意識があります。でもやっぱりおもしろくて読んじゃう。
いつもガツンとくるヒールクリフの台詞、 「この世は丸ごと、あいつが生きていたことを、俺がそれを失ったことを記す、膨大なメモみたいなものなんだ!」 。
失ったものへの執着が捨てきれない人なら、このセリフはグサッときます。 続きを読む投稿日:2015.09.03
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この闇と光
服部まゆみ / 角川文庫
耽美と倒錯と衒学、そして世界の反転。
1
よかった。偶然に手にした本だったのに、また作家読みすべき作家が増えてしまった。
この耽美と倒錯と衒学の世界、皆川博子さんの作風と似てる気がしてたら、解説が皆川さんだった。やはり。絶対読者層かぶってるだ…ろうな。
ぼんやりとほの暗く、「閉じた」雰囲気を持つ物語。終盤、半ば無理矢理に開かれた物語世界の枠が最後に再び閉じられたようでもあり、あるいは枠そのものが溶けてしまったようでもあり。そこから広がる新たな世界の色は、眩しい光なのか甘い闇なのか。不安と希望が融け合うことなく綺麗にくっきり半々づつな幕引きが見事。
・・・と、感想がやたら抽象的になってしまうのは、何を書いてもネタバレになってしまいそうなので・・・。 続きを読む投稿日:2015.12.18
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きのうの世界(上)
恩田陸 / 講談社文庫
「身近な地理」好きにはたまらない
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小さな田舎町で起こる不可解な殺人事件と、ひとつひとつは「なんだか不思議だけどそういうこともあるよね」というレベルの幾つもの小さな事件とが、次々と提示されてゆく上巻。それらが一体今後どんなふうに関わって…くるのか。
子供の頃から、大した理由もなく地図(特に自分の町の住宅地図!)を眺めるのが好きだった私のようなチズスキーさんには、物語全体の雰囲気だけでも魅力的だと思う。 続きを読む投稿日:2015.09.03