ポトトさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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麦の海に沈む果実
恩田陸 / 講談社文庫
小説の評価を「好き」か「嫌い」かで量る人向け(良い意味で)
3
この作家の作品は、いつも魅力的な謎と舞台設定でぐいぐい惹きつけておいて、最後にパッと読者を突き放し呆然とさせて終わる。
これは、大湿原の真ん中にぽつりと建つ、閉ざされた全寮制の学園での約半年間の物語。…それぞれが何かしら秘密を抱えた、才能に満ちて美しく、でも年齢相応の悩みも持つ生徒たち。過去から現在まで相次ぐ、生徒の失踪と死亡事件。その舞台となる図書館や薔薇園や尖塔といった「場」。たぶんここには作者の好きなものがたっぷり詰め込まれていて、その「好き」を共有できる読者(私のように)にとっては、しばしそこに身を置くことができただけでも、幸せな読書体験になるだろう。
だからこそ、結末でポンと突き放された時の衝撃とカタルシス、そして何よりの納得感もひとしおだと思う。「ごめんね、これはあなたの物語じゃなかったのよ。でもひょっとしたらこれもあなたなのかもしれないよ」と。 続きを読む投稿日:2015.10.07
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皇帝の密使(上)
ジュール・ヴェルヌ, 江口清 / グーテンベルク21
ヴェルヌの「歴史冒険大活劇ロマン」!!
3
ユーラシアの草原地帯を舞台に、謹厳実直で強靭な主人公(皇帝の密使)のロシア青年ミハイル君のハードな大活劇と、陽気なフランス人&カタブツ英国紳士というどうにも憎めない凸凹新聞記者コンビのドタバタ劇が交錯…。
この二組の旅人たちは、目的は違いながらも同じ道をたどり、別離と再会を繰り返しながら進んでゆきます。ヒロインであるナージャとの”Boy meets Girl”の要素もあり、とにかく王道的冒険活劇小説だと思う。他のヴェルヌの作品と比べて日本でマイナー扱いないのは、現地の歴史や地理にたいする知識(少なくとも興味)が多少必要だからかなあ。もったいない。 続きを読む投稿日:2014.05.30
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続あしながおじさん
ジーン・ウェブスター, 北川悌二 / グーテンベルク21
有名作品の続編を侮るなかれ!
3
『あしながおじさん』ほどには知られていない、その続編。大人になってから初めて読んでみたけど、すごく面白い!前作が大人になりかけの女学生の話ならば、今回は慣れない仕事に奮闘する職業婦人の物語。
これまた…私の大好きなお話である『ジェイン・エア』へのオマージュというか、パロディ?みたいな要素も見受けられます(ウェブスターも多分『ジェイン・エア』が好きだったらしいことは、前作で分かります)。
『あしながおじさん』の終わり方が見事だったので、続編必要?なんて思って読みはじめたら・・・いやいや、参りました!どっちも甲乙つけ難い。こちらの男性もまたとっても魅力的です。
・・・この作者、可愛い大人の男性を書く天才なんじゃないだろうか。
※残念なことにこの電子書籍版は誤字脱字が非常に多いです。他の作品でも時々見受けられますが、この作品は特にひどい。ちょっと読書に支障が出るレベルです。無料の青空文庫ならまだしも、有料の書籍である以上、チェックはしっかりやっていただきたいですね。
とはいえ、作者および訳者に罪はありませんので、★は5つのままにしておきたいと思います。 続きを読む投稿日:2013.10.30
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ドイツ中世英雄物語IIIディートリヒ・フォン・ベルン(上)
A・リヒター, 市場泰男 / 現代教養文庫ライブラリー
「若殿と世話焼きじいやの大冒険」
3
私の専門分野なので何度もくりかえし精読中。この訳、特に冒頭の辺りが、「若(バカ)殿と世話焼きじいやの冒険」という感じになっていて味があるんだよねえ・・・。だってあのディートリヒとヒルデブラントがですよ…?『ニーベルンゲンの歌』を読んだ人ならその意外性が楽しめることでしょう。ニーベルンゲンの歌のパロディみたいな話(『薔薇の園』)もあるし。ヒルデブラントの弟・イルザンの破戒僧っぷりが豪快。中世文学の持つハチャメチャっぷりが、専門の学者ではない訳者の、いい意味で俗っぽい訳によってかえって引き立って、結果的には大成功だと思う。
というか、ディートリヒを研究する一学生として、少しでも興味を持ち、ここをご覧になった皆様に直球で次のことをお願いします!「読んでください!!」(笑) 続きを読む投稿日:2013.09.24
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あしながおじさん
ジーン・ウェブスター, 北川悌二 / グーテンベルク21
読書好き・妄想好き少女の「聖書」です!
3
ジュディから「おじさま」に送られる手紙の文面だけで進んでいくお話。・・・なのに、それを読んでいるだけで、不思議とそこに描写されている人たちの内面が(とくに受け取り手である「おじさま」の心の動きが)活き…活きと伝わってくるところがすごい。
何年間も、ほとんど毎週のようにこんなキラキラした手紙を受け取り続けてたら、そりゃあもうそういう気持ちになりますよねえ、おじさま・・・笑!
本を読む歓び、自分の世界が広がっていく喜び、そしてそれを伝える人がいるということの楽しさを、これほど感じさせてくれるお話はありません。この先何度でも読み返したい本のひとつです。 続きを読む投稿日:2013.10.30
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若草物語
L・M・オルコット, 吉田勝江 / 角川文庫
善良でありたい、と素直に願いたくなる。
3
全体に漂う「善良さ」の中に身を浸す心地よさ。
それでいて、ただ説教くさいのではなく、可愛い年頃の女の子たちの「お話し」としても純粋に楽しめる。個人的にはこの続編である二作目が大好き(特にジョーとエイミ…ーのそれぞれの恋の流れが!)で読み返したくなり、それならちゃんと、まず一作目から・・・ということで、この機に以前とは違う訳でまた読んでみた。そしてまた耽溺。やっぱりいいなあ。 続きを読む投稿日:2013.09.28