
ふしぎの国の犯罪者たち
山田正紀
文春文庫
悪くはないが突き抜けたところがない
4つの短編から構成される連作短編集です。どの話も水準以上の面白さを保っていると思いますが、テクノロジーに頼るトリックは時代とともに古びているものもあるようです。 小さなバーにあつまる人々が気軽な気持ちで犯罪に手を染めるものの、凶悪な犯罪を実行するのは拒むといった、ゲーム感覚の危うさがアクセントになっていて、物語に+αの魅力を与えてくれていると思います。 しかし、最初の3つの話のトーンと4つ目の話のトーンにだいぶ開きがあることと、紙面の都合からか伏線の書き込みが不足しているようで、最後の作品で花開くはずのインパクトがぼやけてしまったようです。
1投稿日: 2017.04.26THE MIDAS CODE 呪われた黄金の手【上下合本版】
ボイド・モリソン,阿部清美
竹書房文庫
第1作より話がうまくなっている
第1作に比べて、筋立てがだいぶうまくなっていました。 前作の荒唐無稽さがトーンダウンしているのは残念ですが、伝説のお宝をめぐる勢力を3つ巴にしたり、主人公の父の脱出話をサイドストーリーに含めたりと、話の幅を広げてくれています。 また、個人的にこの作者の作品を気に入っている一番の理由は、ミダス王の黄金の手をめぐる真相に、もっともらしい(物語内での)真相を提示している点です。技術者という主人公の設定を活かしたストーリーなので、この真相がボヤッとしていると興ざめですが、それなりに説得力があるので、満足感があります。
0投稿日: 2017.04.07THE ARK 失われたノアの方舟【上下合本版】
ボイド・モリソン,阿部清美
竹書房文庫
この手の作品としては、良作
類書がたくさんあるような物語ですが、頭一つ抜けていると思います。 技術者という主役の属性を活かした危機からの脱出方法、(細かいことをいえばおかしいところがあるかもしれませんが)ノアの方舟に関する謎解きなど、ともすれば無敵のスーパーマンがむやみに銃を乱射したり、説明を放棄したりする作品が多い中で、誠実なつくりといえるのではないでしょうか? 物語としては、若干、クライマックスの置き場所について、バランスが悪いと思いますが、全体としては読む価値が十分あると思います。
0投稿日: 2017.04.07ラヴェンダーの丘
半村良
角川文庫
うーん
同著者の、○○伝説やその他伝奇小説の諸作品を想定すると戸惑うでしょう。 当時はやっていたのか、冒険小説のフレームで描かれた作品ですが、物語の展開と、(私が思う)作者の書きたかったことの乖離が大きかったようです。その結果、冒険小説としてはハラハラする感じや困難を乗り越えた際のカタルシスに乏しく物足りなく感じました。 半村良氏の作品を初めに読むなら、本作品ではなく、例えば「黄金伝説」や「楽園伝説」あたりを読んだほうが良いと思います。
0投稿日: 2017.04.06サンディエゴの十二時間
マイクル・クライトン,浅倉久志
ハヤカワ文庫NV
悪くはないが良くもない
タイムリミットの設定を活かしたサスペンスなのですが、敵役の書き込みが甘く、物足りなさを感じました。 主人公と敵役の知恵比べの感じを出したかったようですが、両者(特に敵役)の天才ぶりを示す書き込みが少なく、独りよがりの主人公が自問自答しているだけのようにともすると思えてしまいます。 短い作品で冗長ではないので、読んでも悪くありませんが、他のスリラーを試したほうが良いかもしれません。
0投稿日: 2017.04.06最後の敵
山田正紀
河出文庫
小松左京+光瀬龍っぽい
読後、タイトルの表現に同意してもらえるか微妙な感じですが、小松左京の「果てしなき流れの果てに」と光瀬龍の「百億の昼と千億の夜」を足して、いくらか引いて、割ったような、SFらしいスケールの作品だと思います。 導入部が若干読みにくい点と、良い伏線になりそうな要素が活かされていないといったマイナス要素がありますが、山田正紀作品らしい、ワイドスクリーンバロック的な想像力の大きな広がりは、マイナスを補って余りあると思います。 先にあげた両SF巨匠の代表作に比べれば、完成度が落ちるかもしれませんが、「果てしなき流れの果てに」の壮大さ、「百億の昼と千億の夜」の寂寥感を併せ持った作品として、読み継がれてほしいと思います。
0投稿日: 2017.04.03宇宙の孤児
ロバート・A・ハインライン,矢野徹
グーテンベルク21
前半最大の大ねたを作品紹介でばらしていますが
あとがきによると、ハイライン初期の作品だそうです。 物語は大きく、(作品紹介でネタをばらしている)世界が実は宇宙船であることを知った主人公が仲間を集めていく話と、後半のその後の船内の変革と到着地を目指す話に分かれています。 主人公が船の外に広がる星空に圧倒されるシーンなど印象的な場面もいくつかありますが、ハイラインは社会制度への関心が強いのか、クラークなどと比べて、センスオブワンダーよりも、社会制度に関わるストーリーの比重が高いようです。 後半部分にひねりを加えて予定調和を外して物語にサスペンスを加えているあたりは、ハイラインの物語作りのうまさを感じさせます。 古いSFですが、比較的古びていないほうではないでしょうか。
0投稿日: 2016.07.21Mr.スペードマン
アダムスターンバーグ,山中朝晶
ハヤカワ文庫NV
掘り出し物
あまりに話題にならなった小説ですが、かなりの大当たりでした。 決して饒舌な作品ではないので、行間を読み解くことを読者は求められていますが、その分、徐々に大きな絵が見えてくるサスペンスフルな展開が楽しめました。 文章も決して晦渋ではありません。シンプルな単語を重ねた短い文なので、文章の意味を取りにくいということは無いと思います。 小説を読み解くという楽しみを手軽に味わうことのできる良作だと思います。
0投稿日: 2016.07.21ボーン・アナリスト 骨を読み解く者
テッド コズマトカ,月岡 小穂
ハヤカワ文庫SF
ひさびさに記憶に残るほどの駄作
危害を与える前に警告を与えるなり穏便に進めようと努力?する敵役に対して、問答無用で相手をぶちのめす主人公。ご都合主義的展開の数々。 小説としての面白さのため、無理なストーリー、キャラクター設定の小説は良くありますが、これはあまりにひどかった。 いろいろとアイデアを詰め込もうとしていますが、どれも消化不良で、思いつきの域を出ていないように思えました。 あまりに酷くて、かえって記憶に残るほど。 ゲテモノ好きの方なら、話のタネに読んでみては
0投稿日: 2016.07.21亜空間要塞の逆襲
半村良
角川文庫
技巧的だが、愉快な物語
作家「半村良」が登場人物として登場し、その「半村良」が書いた「亜空間要塞」の物語は、フィクションではなく、現実の物語だった・・・ というメタフィクションの構成を用いた物語で、(どの程度意識したかは分かりませんが)他の作品に比べて、技巧的な作品になっていると思います。 とはいえ、そこは物語作りに長けた半村作品で、ややこしいことよりも、面白さのほうが前面に出ています。 おそらく作家自身も楽しんで書いたのではないでしょうか。そんな気がする楽しい物語です。
0投稿日: 2016.04.04