弓ム日月さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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新装版 瞬間移動死体
西澤保彦 / 講談社文庫
軽妙かつ緻密。
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SFをトリックに組み込むときには、ともすれば何でもありの世界になってしまうのを抑えこみ、あくまで道具の一つとして利用するのがマナーであろうが、本作はそういったマナーを十分理解された上で上質のミステリ…にSFを組み込んでいる。別に理論的な説明や実証実験などはしていないが、「あぁそういうことが出来るならこういう結果になるだろう」と納得させる使い方と、何よりSF的な部分を徹底的にただの道具に落とし込んでいるのが秀逸。人物描写も親しみが湧く人ばかりで、嫌な気分にさせられないのも西澤氏の特徴か。
ただ、そういった部分に感動する以前に、「面倒を回避するためならどんな努力も厭わない」を旨とする主人公に非常な親近感を覚えてしまうのは情けないことかもしれない。 続きを読む投稿日:2016.01.01
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いらかの波 1
河あきら / 別冊マーガレット
姉はいないが。
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何故か少女漫画に没頭していた時期があった。特に別冊マーガレット。おそらく「紅い牙」あたりから迷い込んだんだと思うが、この頃の別マはそりゃ面白かった。「伊賀野カバ丸」なんか最近また名前を聞くし…。
そ…んな別マ黄金時代で一番記憶に残っているのがこの「いらかの波」。今見でも少女漫画らしさが全く無い。何が面白かったかといえば、リアリティあふれる楽しい学生生活。後で知ったが当時は結構重いテーマ(孤児の問題とか受験や就職の問題とか)を扱ったマンガとして評価されていたとか。それはともかく渡と茜の掛け合いが面白い。気が合うってこういうことなのね。
将来女の子の三つ子ができたら、茜、葵、翠にしようと思っていた。もちろんこの茜からだが、三つ子もできなければ茜と名付けるのも忘れてしまった。 続きを読む投稿日:2015.10.18
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空の中
有川浩 / 角川文庫
+ほろ苦さ。
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自衛隊三部作の第二だそうな。
SFと評する向きもあるようだが、相手が未知であるという設定ゆえのSFであり、物語を描くための道具にすぎないだろう。いわゆるSFらしさは文中には見られない(ハードなSci…enceを期待するものではない)。ただ、有川氏の世界ではそれが「白鯨」であろうが町内会のおっさんであろうがあまり問題とならないように思われる。
今回は「第一の」と違って主人公は2✕2で四人。強面と軟弱(風)が入れ替わってるが、甘酸っぱさは同じ。今回はこれにプラスして、若者特有の未熟であるが故の迷いや悩みが加わっており、したがって途中までは少しほろ苦い。結局そのほろ苦さも良いアクセントとなり物語は終わるが、今回一手に悪役を引き受けた彼女にも幸あれ、と思う。 続きを読む投稿日:2015.11.15
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海の底
有川浩 / 角川文庫
第三の矢。
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自衛隊三部作の三。映画的な同時進行多視点の構成。
例によってツンデレである。何だ最後のデレ具合。わかっちゃいるけど(読むのを)やめられないね。大人のラノベばんざい。
主人公の一部と舞台の一部…は確かに自衛隊だが、今回はむしろ機動隊などの警察機構の活躍に目を奪われる。したがって今回大活躍し、かつ今後もぜひご登場願いたいのは、もちろん明石烏丸の警察コンビ。カミサマと王様、これに権威芹沢博士を加えれば、五作ほど後にはオキシジェンデストロイヤーの勇姿を見ることができるのではないかと期待している。
三部作を通じて忘れてはいけない視点。こどもは成長する。このテーマがキレイ事だけでなくきちんと描かれているのがこの三部作が凡百のラノベと一線を画している部分であろう。実に好感が持てる。
さて三部作を連読したわけだが、この順番でいいのか、と思わないでもない。物語の騒がしさで言うと1<2=3、ツンデレ度では1=2=3、恐怖という視点では1>3>2、グロ度はもちろん3>1>2(人が塩になるって相当グロいと思うが)、ジュブナイル度では2>3>1、オトナ度は1>2=3。大人視線では3→2→1が良いような気がするし(だんだん成長していくこどもを見ていく視点)、自衛隊度では甲乙つけがたい(陸が少ない!)。世界観的には2→3→1がベストか。まぁ出会った順に読むのが良いか。
最後に、その二の途中からちょっと思っていることがある。あとがきなどには一切出てこないけど、有川氏はウルトラQが好きなの?そのうち映画監督をし始めたりして。 続きを読む投稿日:2015.11.27
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塩の街
有川浩 / 角川文庫
なれない。
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読み終わってまず思ったことは、俺は秋葉にはなれない、入江はちょっとわかるけどあそこまでにはなれない、もちろん真奈にはなれない、正は全くタイプが違うし(由美は好みだが^^;)・・・などと人物と自分を重ね…てしまい、読後の感慨がどこかに行ってしまった。もしかして世界に没入していたのかもしれない。
物語の下敷きはSF、起承転結の承から始まる。これは映画「Pacific Rim」と同様。極限状況での人間模様ということになるが、そこは有川氏、どんな状況でも甘酸っぱくしてくれる。おっさんには目の毒だ。
この絶望混じりの甘酸っぱさは、コミック「最終兵器彼女」を思い浮かばせた。あれは全くかけらほどの希望もなく、絶望の中の安寧という形で幕を引いたが(未読の方には失礼)、こちらは未来への希望があちこちから湧いて出そうなところで終わっている。やっぱり物語はハッピーエンドがいいなぁ。 続きを読む投稿日:2015.10.18
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OUT OF CONTROL
冲方丁 / ハヤカワ文庫JA
狂気
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一言に狂気と言ってもたくさんあるようで、この短編集では7種類の狂気を扱っている。
執念も端から見れば狂気、愛情も行き過ぎれば狂気、内面に潜む狂気、少しずつ染みこんでいく狂気。
どれも短編でよかった。こ…れを長編で読まされるとこっちまで…。
「天地明察」は読まねばなるまい。 続きを読む投稿日:2016.01.28