
彼女はもういない
西澤保彦
幻冬舎単行本
後味の悪さ以上に…
この物語に出てくる人物すべてが不幸である(難を逃れた女性も嫌な記憶が残るという意味では不幸)。後味はこれ以上ないくらい悪い。 だが、それより面白くないのは物語全体に伏線がしっかりしていない。 予想外の結果を提示するにはそれなりの伏線が必要であろうが、なにかその全てが曖昧でこじつけがましく、「あーそうだったのか、そう言われればそうだ」が良い伏線とすれば、特にラストに至る伏線は「そう言われても、そう取れば取れるかもしれないけど、ちょっと違うんじゃないかな、そうは考えないだろう、そんな描写あった?」ばかりに読んでしまう。 西澤氏の伏線の張り方は比較的わかりやすく、それでいて面白さを削がないのが良いところと思っているので、この物語はなにか別の意図を持って書いているようにも思われる。あるいは体調が良くなかったとか。 ちなみに、城田理会は「Monsterz」の押切奈々(藤井美菜)で再生された。
0投稿日: 2018.08.14
終末のフール
伊坂幸太郎
集英社文庫
悪い人はいない。
昔はやった言葉で言えば、「終わりの始まり」ではなく「終わりの終わりの方」の世界の話。そこでであがく人々、ではなくてのんびり過ごす人々、のんびり過ごそうとする人々の話。 この話には悪い人は出てこない。なぜならすでに悪い人々は淘汰されているから。となればこれは理想郷を描いた物語かと思いきや、そんな状況とは思えない。終点が決まっている理想郷などありはしないだろうが、登場人物たちの振る舞いは皆とても落ち着き払い、むしろ人生を楽しんでいるかのようだ。これが達観というものか。
0投稿日: 2017.06.28
悪魔の辞典
アンブローズ・ビアス,奥田俊介,倉本護,猪狩博
角川文庫
うーん
こんなにウイットとユーモアに溢れ、社会に鋭い風刺を与える辞典はない。 ただし、西洋における歴史、文化、宗教、社会、価値観、その全てに精通していればの話。 東洋人としてはいくら注意書きがあってもアナグラムや単語にまつわる歴史的背景にはピンとこないのです。
1投稿日: 2017.02.21
ストーリー・セラー
有川浩
幻冬舎文庫
ラノベっぽい手法。
最近のラノベっぽい手法があちこちに。特にSide-Bは文章自体入れ子っていうのか、行ったり来たりする部分があったりどこからどこまでがひとつの流れ?って感じ。白昼夢的といえばよいのか。実験的なんだろうか。 他の方も書いているが、どちらも夫が出来過ぎ。あと他の作人には感じなかった、ここは泣かせようとしているんだな、風に感じる部分がいくつか気になった。もしかしたら罠かもしれないが、いずれにせよおっさんは充分泣けたから良しとする。
0投稿日: 2016.05.19
聖者は海に還る
山田宗樹
幻冬舎文庫
リアリティ
人間の心理をコントロールすることの是非を隠れ蓑に本当の幸せとは何か、にまで踏み込んだ佳作。何も知らないほうが幸せなのか、すべてを知ることが正しいのか、答えは出ないまま物語は終局に向かう。 小説中で精神が崩壊していく描写が数か所あるが、非常にリアルに感じる。まるで実体験を追っているかのように真に迫っている。「黒い春」でも見られたが医学分野の描写が非常に正確かつリアリティあふれるのは、取材や勉強の賜物だろうか。医学関係者として驚嘆に絶えない。 この小説でも、「百年法」でもあった『実際(文面)には登場しない人物』がキーパーソンとなっている。すでに過去の人物として描かれているがその影響力は非常に大きく、人々の人生を蹂躙していく。その人物像の描写は非常に少なく、得体の知れない人として物語の奥底にベッタリと居座るのが気持ち悪く、また謎を大きくふくらませるのに一役買っている。 読書中に映画「バタフライエフェクト」のシーンがいくつか想起されたが、エヴァンと比留間はだいぶ違うだろうなぁ(ビジュアル的に)。
1投稿日: 2016.04.25
黒い春
山田宗樹
幻冬舎文庫
キャラ立ち
未知の病原に立ち向かう者、怯える者、そして倒れる者。それぞれのキャラクターをしっかり描き分けていて、誰だかわからなくなることがない。「百年法」も多くの登場人物を間違えることなく認識できる。山田宗樹氏の文章は脳内ビジュアル化しやすい。ラストはちょっと不満、というか消化不良。 昔読んだ何かの書評に「良い小説は頭の中で鮮やかに映像化出来る。書中に記載がなくても登場人物の服装、癖や好み、そして利き腕さえも容易に脳内に再現される」みたいなことを書いてあったが、山田氏の文章は特にそれを感じる。従って、脳外映像化は必要ない。「ギフテッド」は逆に映像化が難しいように感じたが、山田氏の読み始めの初期だったからだろうか。
1投稿日: 2016.04.12
百年法 上下合本版
山田宗樹
角川文庫
構成の勝利
SFを下敷きにした国取り物語、に見せかけた命や生きることとは何かを問う話。 まるで史実に基いて話を紡いでいるような構成がすばらしい。「三国志」や「宮本武蔵」みたいな感じか。 しかも重要なエピソードをバッサリ省いておいて、後から登場人物に過去の出来事のように語らせるとか、何十年も経過していて既成事実化しているとかが多くて、この世界の歴史の流れがどうなっているのかを常に意識してないと迷子になりそう。それでいてわかりにくさは一切なく、もちろん破綻もない。 登場人物は誰も魅力的であり、キャラクター付けがしっかりしているので、その数は多いが途中で『この人誰だっけ?』となることはまずない。 「ギフテッド」もそうだったけど、物理的な長さを全く感じさせない、一息で読んでしまいたくなる良作である。
2投稿日: 2016.03.20
クジラの彼
有川浩
角川文庫
先に読んではイケナイ
自衛隊系の激甘短編集だが、「空の中」「海の底」を読む前に読んではイケナイ。これらの番外編(=後日談)は特にイケナイ。 キャラの掘り下げ方が本編を読んでいる前提で書かれているので、”あーわかる”とか”奴なら言いそう”が減る。従って楽しみが8割減となる。 しかもネタバレ的にその後の経過が書かれているから、後で読む本編の新鮮感が8割減となる。 従って、先に「空の中」「海の底」「塩の街」などを読んでおくことを強くおすすめする。そうすれば有川ワールドを堪能できることまちがいなしである。 ついでに「植物図鑑」も読んでおけば、この甘さに慣れておけるかもしれない。
0投稿日: 2016.02.02
OUT OF CONTROL
冲方丁
ハヤカワ文庫JA
狂気
一言に狂気と言ってもたくさんあるようで、この短編集では7種類の狂気を扱っている。 執念も端から見れば狂気、愛情も行き過ぎれば狂気、内面に潜む狂気、少しずつ染みこんでいく狂気。 どれも短編でよかった。これを長編で読まされるとこっちまで…。 「天地明察」は読まねばなるまい。
0投稿日: 2016.01.28
新装版 瞬間移動死体
西澤保彦
講談社文庫
軽妙かつ緻密。
SFをトリックに組み込むときには、ともすれば何でもありの世界になってしまうのを抑えこみ、あくまで道具の一つとして利用するのがマナーであろうが、本作はそういったマナーを十分理解された上で上質のミステリにSFを組み込んでいる。別に理論的な説明や実証実験などはしていないが、「あぁそういうことが出来るならこういう結果になるだろう」と納得させる使い方と、何よりSF的な部分を徹底的にただの道具に落とし込んでいるのが秀逸。人物描写も親しみが湧く人ばかりで、嫌な気分にさせられないのも西澤氏の特徴か。 ただ、そういった部分に感動する以前に、「面倒を回避するためならどんな努力も厭わない」を旨とする主人公に非常な親近感を覚えてしまうのは情けないことかもしれない。
1投稿日: 2016.01.01
