N.Yokoyamaさんのレビュー
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工学部・水柿助教授の解脱 The Nirvana of Dr.Mizukaki
森博嗣 / 幻冬舎文庫
理想的な生活
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森博嗣水柿助教授シリーズ第3作
水柿家にシェルティのパスカルがやってきた。最終作の本書は、結構パスカルのことが中心に描かれていた様な気がする。まあ、著者の日常の話を小説にしたということで、脈絡の…ない話だが、なんだか面白いというのが全体を通しての感想だった。よくわからないが、とにかく面白かった。
ただ、「お金があればないより良い」ということ、「お金がないと出来ないこともお金があればできる」ということは、非常に印象的だった。考えてみれば、自分は仕事をしているのは確かに生活のためで、食べていくに困らないお金があれば、仕事などしなくてもいいのにとは常々思っていることだ。また、どれだけ収入があっても、もっとお金が要ると思っている人は実はお金持ちではない、というのも魅かれる言葉だった。
著者の様な生活は理想的なのだろうな。 続きを読む投稿日:2021.06.06
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真理の探究 仏教と宇宙物理学の対話
佐々木閑, 大栗博司 / 幻冬舎新書
大先生お二人の興味深い対談
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理論物理学者の大栗先生と仏教学者の佐々木先生による、トークセッションの内容を本にして出版したもの。
最初に「宇宙の姿はどこまで分かったか」と題して佐々木先生を聞き手に、最近の宇宙論について述べられる…。続いて「生きることはなぜ「苦」なのか」と題して、大栗先生が聞き手となり仏教の本質を説かれる。そして、「よく生きる」というテーマで対談が行われ、最後にそれぞれの特別講義が収録されている。
大栗先生のお話については、日頃から本など読んだり以前は朝日カルチャーセンターの講座にも参加したことがあるので割と馴染みのあるものだが、佐々木先生の仏教の話、特に学術的な面からのお話はほとんど聞いたことがなかったので、非常に興味深かった。本書の内容から、仏教とは宗教の中でも結構特殊な成り立ちや特色を持っていることが分かった。高校時代に社会の先生が、「仏教はどちらかというと宗教というよりは哲学だと思う」ということを言われたのを覚えているが、本書を読んで、本来の仏教は宗教というのとはちょっと違うようなものではないかと感じた。
本書では、やはり第三部の内容で、世界を正しく見るということが生きるためには非常に重要であること、科学的なものの見方はそれを教えてくれるということが一番印象に残っている。
佐々木先生は仏教学者であり僧侶ではあるけれども、仏教徒ではないというようなことを述べられている。この辺りは自由な発想をされていると感じたが、仏教が他の宗教と異なる自由さみたいなものもあるのではないか。そういえば、ダライ・ラマ猊下も科学に興味があり、その重要性を説いておられたと思う。
仏教が科学と親和性があるというのが興味深い。両者の関係をもっと知りたいと思うようになった一冊だった。 続きを読む投稿日:2020.05.23
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言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー
小谷太郎 / 幻冬舎新書
意外なことも書いてある。
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物理学の7大タブーと言われるものを紹介している。
どれも面白い内容だったが、量子力学の解釈問題はまだ、波動関数の収束ということを問題にしているとは思わなかった。波動関数は物理的実在を示すものではなく…、収束は観測者の持つ情報の変化であるという考え方だと認識しているが、ペンローズ博士などは、知識の変化ではなく物理現象だという見方をしているらしい。波動関数が示すいくつかの世界から、意識が時事刻々と一つの事象を選ぶメカニズムを物理的に説明することが出来ない限り、量子力学は完全ではないということなのだろうか。最近、ペンローズ博士が脳関係の著書を出していると聞いたが、そのことに関するものだろうか。
実験が技術的にできそうにないような理論も、いづれは何らかの方法で別の検証方法が提示され、本書に書かれている疑問が解かれていくのを期待している。
多分、当面は一般相対論と量子論が統合されるところが焦点となるのだろう。 続きを読む投稿日:2021.06.06
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ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)
宮口幸治 / 新潮新書
衝撃的な内容
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タイトルに興味をそそられて購入したが、衝撃的な内容だった。自分には簡単に出来ることが、出来ない人に対して「どうしてこんな簡単なことが...」と感じることは多いと思うが、この本の内容はそういうレベルでは…なく、多くの人にとっては信じがたいものではないだろうか。
本書に登場する非行少年の行為は、普通なら「わざとふざけているのではないか」と思えるようなレベルなのだが、実際にケーキを切ることが出来ないのが事実で、自分でもどうしようもない苛立ちが湧き上がるというのは、読んでいてなんとも言えない気持ちになった。
自分でも指摘されてわかっているのに、出来なくてもどかしい気持ちは何度も経験したことがあるが、非行少年たちはたえずそうした感情に苛まれているのかと考えると、当人たちにとってはまさに精神的な拷問としか受け取れないのも当然だろう。しかし、人間社会には歴然としたルールが存在し、本質的に守れない人間だからといってルールを無視した行為が許されるわけではない。
非行少年の問題は、非常に奥の深い問題だと提起している。しかも外からではわからないわけだから、早期の対処なども難しいことがわかる。こういうのは、周りの人間の理解と早期の専門的な訓練によるしかないような気がする。
本書を読んで、非行少年に対する認識が少し変わったが、自分の日常生活に影響が出てくるようなことになった時、何が出来るかはわからない。 続きを読む投稿日:2020.03.15
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天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow?
森博嗣 / 講談社タイガ
カンナはどうなるのか。
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森博嗣Wシリーズ第9作
今回も面白かったが、キガタにどうも思い入れをしてしまう。結構重要な役割で活躍したのだが、何と無くウォーカロンという立場からなのか、スキルに比べて危険度の高い役割になってい…る様にも感じられた。確かにウグイよりは適任かもしれんが...。ドキドキしながら読み進めるところだ。
前回から登場しているモロビシだが、あまり目立つ存在でもないかなと感じていたところ、読み返してみると案外活躍している。描写が地味なのか、ウグイやアネバネなどの様な強い印象を受けない。まあ、局員はあまり目立たない方がいいのだろうか。ハギリ先生とのコミュニケーションが、まだ少ないからかな。
今回もミステリー要素が盛り込まれた作品だった様に思う。ドンパチが始まるのかと感じたが、全く静かなもので、人工知能の奇想天外な振る舞いでタネを明かされた感じだった。
情報局の秘密のキョートの博物館での出来事は百年シリーズに繋がる興味深い内容だった。
今後、カンナはどうなるのか、登場するのか。 続きを読む投稿日:2020.12.27
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ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity?
森博嗣 / 講談社タイガ
ツェリン博士が,,,
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森博嗣Wシリーズ第7作
今回も非常に面白かった。北極の次はインドに出張なのかと思ったが、行く先行く先でこれほどトラブルに見舞われるハギリ先生という人物は実に興味深い。
まあ、先生のせいではない…のだろうが、どうも余計なことに首を突っ込んでいく展開になってしまう様だ。
今回も少しミステリー仕立ての作風が、過去の森博嗣作品を振り返らせ、また以前のシリーズを読んでみたい気持ちにさせる。
ところで、ウグイの後任が彼女だとは、今後の展開が楽しみである。
ツェリン博士のことは少し衝撃的だった。何と無くそういう雰囲気を感じさせない人だと思ったのだが、せっかくナクチュから再登場してきたのに、ちょっと残念な気もする。
ところで、ウグイはしっかり登場していたので、今後もこんな感じで活躍して欲しいと思っている。
今回はまたペガサスという新しい人工知能が登場したが、これから毎回増えて行くのかな。 続きを読む投稿日:2020.12.27