
ネアンデルタール人は私たちと交配した
スヴァンテ・ペーボ,野中香方子
文藝春秋
ディープな科学論から伝わってくる熱量が半端ない一冊でした
ジュラシック・パーク以来、古代の遺伝子をめぐるファンタジーに慣れっこになっている感があるけれど、ここに記されているのはゲノム解析技術を黎明期から現在まで真面目に牽引してきた科学者の控えめな自叙伝です。アイデアからストーリーを作るのでなく、ファクトからストーリーを構築するアイデアと技術と蓄積のスパイラルが、結果としてドラマチックで素晴らしい。 汚染され変成し欠損しているDNAが、どんなチームで解読されてきたか、という観点でも興味深い一冊でした。
4投稿日: 2015.07.25「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告
エマニュエル・トッド,堀茂樹・訳
文春新書
論理建てと翻訳が良くて読みやすい情況論
「ヨーロッパはドイツのリーダーシップの下で定期的に自殺する大陸なのでは」という人類学者のインタビュー集。日本とドイツは直系の家族構造から権威主義的なメンタリティが似るなどの指摘が興味深い。一方、地政学的には置かれている立場が全く違い、それがもたらしている状況の違いもうまく捉えられているように感じた。
11投稿日: 2015.07.08来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題
國分功一郎
幻冬舎
住民投票はポピュリズムに陥りにくい。
町の雑木林を無くそうとする道路整備計画に対する住民投票は、単なる反対運動ではなかった。そして、その運動を叩き潰す策動が却って、民主主義とは何かという本質への問を招来します。主権が立法にあること自体の課題と、その乗り越えが具体的に思考される興味深い一冊でした。ただ難解だと思い込んでいたデリダの論が沁み入るのも素敵です。
0投稿日: 2015.06.18しんがりの思想 反リーダーシップ論
鷲田清一
角川新書
たまたま「鹿の王」のあとに読みました
グローバリズムと膨張国家の狭間でコミュニティが縮んでいく勢いが収まらないなか、いかに生きやすくあれるかをめぐる様々な思考の現在地。現状を言い表す「押しつけとお任せの合わせ鏡」という言葉がじわじわくる。期せずして上橋菜穂子著「鹿の王」とテーマが近く、そういう時代認識が生活感覚ともフィットしていて興味深かった。
2投稿日: 2015.06.12原発と大津波 警告を葬った人々
添田孝史
岩波新書
こんなことをしていたら、ああもなるわなぁ(溜息)
津波対策がされないまま311を迎えてしまった経緯を、国会事故調に参加されたことを契機に、後知恵に陥らないように注意してまとめられている。たまに見る「その場しのぎ能力の抜群に高い人たち」が続々登場し呆れるとともに恐怖した。その1つ、地震の警告を幸いに津波対策を先延ばしにした結果がいまの姿の一因のようだ。次に、火山で同じことをしてはならないのだが… ジャーナリズムの限界も明らかで、市民の当事者意識も薄い中、また考え込んでしまう本でした。
3投稿日: 2015.04.30再生可能エネルギーの政治経済学―エネルギー政策のグリーン改革に向けて
大島堅一
東洋経済新報社
これも顧みられなかった問題提起のひとつ
一橋での学位論文を元に、一般向けに整理して2010年に出版されたものです。再エネ導入を巡る議論(固定枠・固定価格など)が世界でどう成されてきたか、そして日本の原子力発電を巡る数字(安さなど)がどういうカラクリで出されているかなどが、福島第一原発事故前に解き明かされていました。複雑怪奇な原子力会計も、普通の会計の言葉で整理し直されているので、ある程度「会社の数字」を勉強したことがあれば理解しやすいと思います。 ただ、電子化がリフロー型でなくスキャンなのが残念で、電子ペーパーのReaderで読むのは辛かったです。
0投稿日: 2015.03.21スマホに満足してますか?~ユーザインタフェースの心理学~
増井俊之
光文社新書
面白い教科書みたいな面白さ
大学の講義録なのかな。スライドを前に滔々と語る姿が浮かぶ一冊です。機器やソフトのUIを設計する人に知っていて欲しい心理学や、実用と実験の歴史がばらまかれています。 例えば、クリップボードから想定外のものをペーストしてしまった時に感じるガッカリ感は、クリップボードの中身を教えないUIが悪い。実験的にはこんな提案があった。(さて、君ならどうする?)という感じ。みずから考えれば考えるほど、楽しめると思います。
4投稿日: 2015.03.12虚構の法治国家
郷原信郎,森炎
講談社
日本司法の歴史が生んだ内在的論理の一端が、ここに
99.9%の有罪率を「誇る」日本の司法とはどうなっているのか。裁判官には「綺麗な有罪判決」を書きたいというモチベーションがあるらしい(優等生にありがちな心理かも)。それがアイデンティティ危機などで失われると「壊れた」といい、実は無罪の0.1%は壊れた裁判官によるものがほとんど。あらためて恐ろしい話だと思う。 しかし、裁判員制度や検察審査会などの司法改革によって、徐々に意識が変わってきつつあるともいう。そこに単に安心することはできないとしても、あるべき姿に近づくよう期待したい。
1投稿日: 2015.02.26アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか
佐々木正人
講談社学術文庫
気付いてみたら当たり前、の連続でした
運動・知覚そして知性を個が獲得していくプロセスは、個が持つ動きの可能性と環境の受け止めの可能性との相互作用であること。例えば歩けるようになるのは地面の固さと平たさのおかげ。もぐらの穴は地面の柔らかさの連なりが探り当てられた結果。これらのベースになった、ダーウィンの徹底した観察から立ち上る発想に脱帽した。
3投稿日: 2015.02.20これからの防災・減災がわかる本
河田惠昭
岩波ジュニア新書
「ジュニア新書」のシリーズではありますが、ハイレベルでした
自然災害をはじめとする様々なリスクに対して備えることと、被災後に対応することの両面から、被害を最小化するための知識と考え方が詰め込まれています。 東日本大震災や原発事故を経験した今日では、ここで書かれた内容から数段高いものが求められていると思います。その土台になる力のある書だと感じました。
2投稿日: 2015.02.06