金さんさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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幻想郵便局
堀川アサコ / 講談社文庫
霊界郵便局
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タイトルに付く「幻想」って気がしませんね、ダサくて売れないかも知れないけど「霊界郵便局」の方がしっくり来ます。ただしホラーではなく、ファンタジー。
軽い文体で内容もふんわり、上手に伏線散りばめて回収し…っかりしてるので、なかな面白い。
テーマ性もそれほど強くなく、無理矢理感動させてやるぞ感も薄いので、気楽に読める良作だと思います。
次々事件が起こる単発事件集積型だと一章読んだ後に一息付いちゃって、そのまま放置ってこともあるんですが、この作品は全体で一つの物語なので最後まで一気読み。
大作を読んだ後の息抜きなんかにはお奨め。 続きを読む投稿日:2017.02.07
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天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道
浅田次郎 / 集英社文庫
大正ダンディズム
1
大正時代を活躍した盗賊たちのダンディズム。
主要キャラクターの心意気や義理、人情の物語。
そこから得られる感動は、大家 池波正太郎の作品に似ているかも知れない。
ただ、悪を討つ物語と、静かなる悪(弱者…に冷たい世間)に抗おうとする物語との差がある。
大悪のための小悪、やはり何かしら「陰」や「矛盾」を内包している。
いくら大盗賊とはいえ、すっぱりと悪を断てないだけに、なにかしらむなしさ、やり切れなさが残る読了。
大正時代という侍の時代とも現代とも違う狭間の時代だけに、その情景を想像するのは少々苦労する。時代小説を読み慣れていて、いろいろな古い文化を知っていなくては、辞書を引かないと分からないかも。 続きを読む投稿日:2017.02.12
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キッチン
吉本ばなな / 幻冬舎
時が解決してくれるまでの間はこの本で。
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大切な誰かを亡くした後の空虚感。大小あれど誰しもが経験する、そして時が癒してくれるのを待つしかない、そんなキモチに寄り添う本。
誰かの死をあつかう話、あの嫌な空虚感なんて思い出したくない、読みたくな…い、そんな人も居ると思います。
でもこの本は、軽くて読みやすく、優しく、何より深刻に落ちていく感が無いので、大丈夫です。
読者を底に引きずり込んで、その後、引っ張り上げて光を見せ、無理矢理感動させるって乱暴なドラマでは御座いません。
いつのまにかそっと寄り添って、
ガンバレと声をかけるでなく、肩を叩くでなく、、、
気付かない程度に、優しくそっと背中に手を置いてくれる、
そんな感じの本。
ひとつ注文をつけるなら、どうしてもオカマの設定の意味が分からない。
これがずーっと頭の隅に引っかかって、どうにもジャマなこと。
「あとがき」でいいから、誰かにしっかりとこの辺は解説して欲しい。 続きを読む投稿日:2017.02.13
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新装版 不祥事
池井戸潤 / 講談社文庫
小説も痛快
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ドラマもなかな痛快であったが、あのイメージを残して読んでいても痛快。
キャストのイメージは微妙に違う気がするものの、すかっとする結末はどの短編も気持ちいい。
こんなきっちり作られた話、ドラマ化なん…て楽でしょうがなかっただろう。
ドラマとの違いはオチが付いたところで、ストンと終わる。無駄な後日談的説明はいっさいない。この辺もスピード感を維持して読み続けられる良さ。
読んでいて次から次へと面白い話が続く短編集。もの凄く濃い短編集だと感じる。その割りに読み進むのも早いという不思議。
ドラマなんて気にせず読んで、最高に楽しめる作品。
続きを読む投稿日:2018.02.22
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恋は光 1
秋★枝 / ウルトラジャンプ
理屈っぽいと思う人にはお奨め
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自分の中で「思考」を悶々と巡らせることの多い人にはお奨めの作品。
まとめ買い、一気読みが良い。
ただし面白い発言やぐるっと回った思考が多く、決して素早く読める作品ではないので、腰を落ち着けて。
…コマ内に部分的にしか見えなくても、中に出てくる交換日記を拡大して拾い読みすると更に楽しい。
一人のキャラに感情移入してしまいすぎず、皆を応援する気持ちで読んだ方が後々良いでしょう。
実際に「光」が見えたとしたら、、、便利と言うより、やはりかなり難しく、ますます人前(異性の前)では無口になってしまいそう。同時にアタマの思考能力加速も付くんならなんとか捌けそうですけど。
欲しい能力では無いですね。どちらかと言うと、いろいろ哀しくなる能力かも。光でこれなら、テレパスってもっと哀しいでしょうね。
尤もこの作品での「光が見える」は、人間の意識外での「勘」が本人には視覚化されて感じられる、そういう意味だろう。ムダに非現実的な設定でないあたりが、よりリアルさを出し、ついつい作中の登場人物と一緒になって考えさせられてしまう。 続きを読む投稿日:2018.02.07
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君の望む死に方
石持浅海 / 祥伝社文庫
彼女の知性は抜き身の刀
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あまりに切れすぎる碓氷優佳。
一作目ではいろいろ不満もあり終わり方疑問もあったが、本作でその後にもちらっと触れている。「やはりそうだったのか」と、そこからは碓氷優佳の狂気を感じた。
本作は、殺…してやろうと本気で思う者(梶間)、是非殺されてやろうと思う者(日向)、たまたま居合わせてしまった知ることへの追求者(優佳)、この三人が繰り広げる心理戦を楽しむという趣向。
一作目とは違い、それぞれの動機はマシになっているので、違和感はない。しかしそれでも弱いと言わざるを得ないのだが、この辺りは著者も分かっているようで、「動機というのは、他人がどうこう言うべきことではないと思っています。」人それぞれなんだからと、なにやら言い訳っぽい台詞を優佳に言わせている。
前半は日向と梶間の心中を中心に、それぞれが間をうろちょろする優佳にどぎまぎされられる話が続く。
後半残り2割で一気に謎解き、クライマックスを迎える。
一作目に比べ、心理戦という意味でも種明かしという意味でも、良い出来に成っていると思う。
それにしても聞けば聞くほど「碓氷優佳」はその知力を無作為に無造作に使い続けているのだと知れる。何もかもを見透かしてしまう、そんな力を振り回してまともな生活が出来ているのだろうかと思いもする。
「あんなことはもうたくさんです。あなたが死ぬのは勝手です。好きにすればいい。でもそれは、わたしのいないところでやってください。」そんな優佳の奥にはちゃんと感情があるのだ。
あらゆる事象を論理的に見通し冷静に行動してしまう、そんなAIのようなロボットのような優佳と、その陰にかくれた普通の女性としての優佳。
感情の優佳が望むことも、論理の優佳があらゆる感情を排除して実現する。
そう理解すれば、一作目の結末も納得出来る。
ちなみに、今回も結末は謎含みのままである。
続きを読む投稿日:2018.02.10