
虹の谷の五月 上
船戸与一
集英社文庫
これが船戸作品か? 舞台こそフィリピンだが、一人の少年の成長譚。良い意味で船戸氏の超異色作品。
船戸氏にしては異色の小説。舞台はフィリピン・セブ島、ジャピーノ(日系二世)・トシオの13歳から15歳までの多感な時期の成長譚(上巻しか読んでいないので多分だが)。上巻は14歳前半までで、紛争あり、恋愛あり、近親相姦あり、貧困な地区でのインチキ選挙あり、この地域独特の闘鶏ありなどなど、読んでいて飽きさせない。良い意味で、これが船戸作品かといった感じ。虹の谷の住人・ホセ・マンガハスのかつての恋人クイーンによる“ホセ狩り”が、唯一の船戸色。総評は下巻を読んでから。
0投稿日: 2015.08.22
炎 流れる彼方
船戸与一
集英社文庫
北米(合衆国)を舞台とした船戸氏には珍しい小説。一味違って面白い。
20年以上前に読んだ本の再読。船戸氏の作品で北米を舞台にした物は少ないと思うが、『炎流れる彼方』は合衆国・カナダが舞台で、しかも前半はボクシングが話題、いきなり紛争地帯で始まらないところも珍しい。この意味では、他の作品と背景そのものを異にしている。それでも、最後は船戸ワールドらしく大部分が死んでしまうが、かってダイナマイト・クイーンと異名をとった女性活動家ヘレンが育てた子供達に希望が残される。ランディー・バトラー(旧黒人解放戦線の闘士)の過去・現在から未来に向かう橋を掛けろという言葉が印象的。今年亡くなった船戸氏に合掌!
0投稿日: 2015.08.14
山猫の夏 【新装版】
船戸与一
講談社文庫
船戸氏初期の作品にして、氏の最高傑作のひとつ
30年ぶりくらいに再読した『山猫の夏』(今回は新装版)。途中まで読めば、結末くらいは思い出すかなと読み進めたが・・・、何の記憶も無いまま新刊書を読むように読了。船戸与一の初期の作品で、とにかく面白かった。いわゆる滅びの文学の萌芽はあるものの最終的に“山猫”の空白の時間がアマゾンインディアンの開放にあったことで、明るい予兆(主人公の“おれ”に言わせれば、悪党なのに透明感)で終わるところなど、氏の後期作品とは一線を画している。この本はお勧め、そして今年お亡くなりになった船戸氏に合掌!
0投稿日: 2015.08.14
恋文・私の叔父さん
連城三紀彦
新潮社
連城氏の繊細な感性に感服 / 本書のどの短編も読み応え十分
十年以上も前に読んだ連城三紀彦の短編集『恋文』をリーダーで再読。こんなにも繊細なタッチを表現できる作家だったんだとあらためて実感した。表題の恋文はテレビドラマ化され(これ自体が結構前の話し)、渡部篤郎・水野美紀・和久井映見が演じたと記憶している。ものすごく勝手だが、少年のままの純粋さを捨てきれない主人公を渡部篤郎がうまく演じていた記憶がある。『私の叔父さん』は、恋文とは逆に、姪とその娘の二人の女性に翻弄される男を描いており、これも秀逸。
0投稿日: 2015.07.28
始祖鳥記
飯嶋和一
小学館文庫
時代に迎合しない幸吉の人生(風来坊)とエスタブリッシュメントに真っ向から戦いを挑んだ廻船業者たちのそれぞれの人生に乾杯
飯島和一作品の初読。感想は一言『痛快でおもしろかった!』。第一部は、江戸期天明の暗黒の時代に幸吉が大凧(いわゆるパラグライダーか)を使って空を飛ぶ話であり、人々の尾ひれがついて幕府に逆らった咎で追放。第二部は、がらりと変わって、幸吉に刺激を受けた塩問屋や廻船業者たちが、幕府・特定の大問屋達に果敢に戦いを挑む痛快この上ない話になり(この重層構造が良い)、第三部に入り、幸吉の後半生を描くことになる。最後は、祝!長距離滑空。この幸吉という人物には、お奉行の使った『風来坊』という言葉がよく似合う。 時代を超越した人生にも、良かれと思い既成概念に立ち向かった人たちにも祝福を捧げたい。
3投稿日: 2015.07.17
土漠の花
月村了衛
幻冬舎文庫
紛争地帯に前線も後方支援も無い。イマジネーションの欠落した政治家の集団的自衛権=交戦論に厳しい目を!
『土漠の花』を読んで、まず考えるのは集団的自衛権。USとの友好関係は、日本の安定的平和にとって最重要ではあるが、CIA,MI5/6,モサドといった諜報機関を持たない(インテリジェンスが得られない)日本が、無条件でUSに追従するのは危険。集団的自衛権とは、まさにUSに対する盲目的追従に等しいもので、この本をあまりにも想像力に乏しい“安部君とその仲間のバカ自民党議員達”に捧げたい。日本としてのグランドデザインをきちんと議論すれば、集団的自衛権をもちださなくても、国際貢献に寄与する方法はいくらでもあると思う。 確かに本書に書かれている通り、紛争に巻き込まれて戦わざるを得ない人たちの死に物狂いの奮闘・他人を生かそうとする気遣いは感動もの(登場人物の全てが格好良かった、よ過ぎたというべきか/思わず涙した場面も多々あり)だが、それでも誰もこんな戦いはしたくないと思う。将来不幸にして集団的自衛権が発動された場合、まずは安部キャビネットの数人を総責任者にして紛争地帯の前線に立ってもらいたい。それでこそ政治家魂だと思う。これレビューになってないですね!
2投稿日: 2015.07.07
死都日本
石黒耀
講談社文庫
筆者の豊富な火山知識を背景に描かれる日本のDoomsday : 叡智を結集してポスト日本は造れるか!
火山が大規模に爆発すると地震の破壊力とはケタが違う事が良く分かった。そして周期はともかく、日本は地震も火山噴火も起こる国であり、この自然に合わせた国の形づくりが重要との筆者(本文では菅原首相)の主張もうなづける。霧島の加九藤火山の破局的噴火に遭遇して壊滅的な打撃を受け、神の手作戦で経済破綻だけは免れた日本だが、誘発された東海地震が迫るところで本書は終了する。Doomsday / カタストロフともいえる超巨大災害後の日本の再生は可能か?是非とも本書の続編を書いて頂きたい。
0投稿日: 2015.06.07
64(ロクヨン)(下)
横山秀夫
文春文庫
警察官が警察官らしく頑張るとは? マスコミ・上級庁である警察庁・他部署との虚々実々の駆け引きが面白い。
上巻読了後にあえて一呼吸入れてから(他作家の短編集を読んでから)、下巻のページをめくった。いきなり上巻からの重苦しい雰囲気が蘇る。相変わらず、マスコミ・警察庁・他部署と主人公・三上(広報官)との駆け引きがつづき、紙面の多くが三上の思索・思いで占められているが、スピード感を削ぐことなく、むしろストーリーのテンポは上巻よりさらに上がっていく。そして14年前の誘拐殺人をなぞった新たな誘拐事件発生でピークを迎える。かっての誘拐事件で娘を無くした雨宮の執念、これに準じた元警察官・幸田の人間臭さが良い。松岡参事官(一課長)も渋い。しかしながら、何重にもテーマを抱えたストーリーの最後はあっけなく終わる:失踪した三上の娘は?、14年間引き籠った日吉は?、64真犯人・目崎を送致できたのか?、雨宮・幸田の刑は?、憎まれ役で登場した二渡のこの先は?人によっては欲求不満の残る終わり方であるが、それでもこの小説の終わり方はこれで良い。
4投稿日: 2015.04.16
ユニット
佐々木譲
文春文庫
ユニットとは、そういう意味だったのか?
最後は無難に纏めたという終わり方だったが、ストリーとしては面白く迫力があった。主役の二人を凌ぐ程の名脇役を演じた波多野社長に“お疲れ様”と言いたい。ただし、刑事・門脇英雄、妻子殺人犯の川尻及武夫のそれぞれの過去をもう少し深掘りして、何故そうなったのかという必然性みたいなものをクリアにしてほしかった。読み物としてはお勧め。
0投稿日: 2015.04.10
伝説なき地 【新装版】
船戸与一
講談社文庫
伝説なき地に新たな伝説は生まれない / ベネズエラの地で衆愚の民を引き連れて戦った二人の日本人
南米三部作の第三弾。ページ数はかなり多かったが、ストーリーにテンポがあり、複数場面が並行して展開するなど、最後まで飽きずに読めた。そして、最後はやっぱり“船戸流破滅の文学”。後から読む人のためにラストは語らないが、船戸作品のどれにもまして、ここまできれいに消し去るとは・・・そもそも伝説なき地に、新たな伝説は生まれないということか。強いて挙げれば、コロンビア解放戦線のゲリラ・マルチネスの散り際は見事だったし、丹波・鍛冶の二人の日本人も良かった。不毛な戦いから逃れた老人・女性・子供たちが、この地でこの戦いをどう語るのか?それとも黙して立ち去るのか?
0投稿日: 2015.02.28
