Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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そうだったのか! 現代史
池上彰 / 集英社文庫
POST TRUTHの時代を乗りこなすために
1
トランプ大統領が誕生し、アメリカファーストの保護主義のもとさまざまな政策を大胆に断行しています。そうしたことは一体どんな積み重ねの果てにあることなのでしょうか。
池上彰が、政治、経済、宗教まで歴史を…丁寧に紐解いていくシリーズの現代史版。個人の発信する情報量が圧倒的に増え、情報の真偽の精査も難しくなってきました。POST TRUTHと言われる時代、自分の頭と人の意見を混ぜながら上手に判断するために知識と知恵と経験が必要です。
「湾岸戦争を米露冷戦との関係は?」「オイルマネーは世界の何を握っているの?」「「結局、イスラエル・パレスチナ問題ってどういうこと」などなど、当然知っているけど、人に説明できるほどには知らないいろいろを、噛み砕いて誰にでもわかるように池上彰が解説します。 続きを読む投稿日:2017.04.19
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恋と問 1
羽生生純 / ビームコミックス
『恋の門』のまさかの続編!
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松田龍平と酒井若菜主演で松尾スズキによって映画化された、鬼才のマンガ家、羽生生純による主人公蒼木門のマンガ家としての自己実現と証恋乃の恋を壮絶に(おかしく)描いた『恋の門』に、まさかの続編がやってくる…とは思いませんでした。それも漢字は違えどほとんど同じ名前の作品として。もちろんそれには相当な理由があるのですが…。
前作を読んでいる人は、タイトルと登場人物の名前から設定を想像できてしまうかもしれません。今回もマンガと恋についてのマンガです。「わたしは漫画」だと叫ぶ、ねじれ系腐女子の恋糸(こいと)とゆとりな男子の問(とい)というふたりのキワモノ男女の出会いによって交錯し始める過去といま。問は問いであり、TOY。
人生そのものが漫画である人たちの過剰な欲望と自己実現の夢。失われた過去を取り戻すがごとく恋は止まりません。 続きを読む投稿日:2017.04.17
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パブリック 開かれたネットの価値を最大化せよ
ジェフ・ジャービス, 小林弘人, 関美和 / NHK出版
閉じこもったままでは、価値は目減りしていく
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オリンピックロゴ問題や築地の移転などが大きな話題となるなど、この本が発売されてから何年も経ってなお、なかなか“パブリック”という概念は更新されていきません。
なぜ企業や組織はパブリックにならなければ…生き残れないのか、というのはいまとても大切な考えです。フェイスブックからオープン・ガバメントまで、ソーシャルメディア革命と3.11を経て見えてきた、“パブリック”=公に外に対して開いていくこと。誰もがアクセス、発信できるデジタル時代が成熟するに連れて、新たに考えてみませんか。
“ステマ”などに敏感になってきても、広告はさらなる手段でわたしたちの日常に入り込んできます。ですが、そうした敏感さに対して、企業は公にしっかりと情報を公開し、オープンマインドで行う顧客への誠実な対応こそが、信頼を勝ち取るためいまにいちばん必要なこと。「情報へのアクセスをコントロールするだけではなく、それがどのように使われ、どう解釈されるかをコントロールする」能力が、パブリック時代には求められています。 続きを読む投稿日:2017.04.13
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まかろにスイッチ 1
川田大智 / HARTA COMIX
これ、押したらどうなるんだろう…という好奇心そのもの
4
これはなんというジャンルでくくってよいのか難しいマンガです。オムニバス形式のショートストーリーギャグマンガなのですが、どこでもないようなペラペラな背景に特殊なシチュエーションが与えられ、多くはセリフな…し、登場人物はちいさな発見/気づきと行動によって、その不思議さに笑いと納得を与えていきます。マンガという方法論をメタ的に遊びながらつくられた特殊な状況に与えられる、オチとしての笑いと納得。
そもそもタイトルの「まかろにスイッチ」という言葉からして何かよくわかりませんが、メガネをかけるとブスに、外すと美人に変わる「メガ澤」も、ネガネというスイッチひとつで見事に作品の世界と笑いのきっかけをつくっています。上質なコントを見ているようでもある、注目の書き手です。 続きを読む投稿日:2017.04.06
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「学力」の経済学
中室牧子 / ディスカヴァー・トゥエンティワン
いくら子どもに投資して、いくら戻ってくると思います?
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小さな子どもがいる家庭には、何よりも子どもの未来が楽しみであり、心配でもあります。経済学者の中室牧子は、子どもの学力をいかにして獲得していくかという問題について、「ご褒美で釣ってはいけない」「ほめ育て…はしたほうがよい」「ゲームをすると暴力的になる」というようなこれまでの常識を、経済学に基づいて覆していきます。
子どもの教育にかけるお金を「投資」として考えたとき、どんなタイミングでお金を使うと将来リターンできる大人に成長できるのか、様々なデータを基に分析。一般論として語られがちな「ゲームは教育によくない」という言葉の多くは、個人のイメージであり、全体の統計から見てそれは正しいのか、親の思い込み教育で子どもの可能性をつぶしていないかを考えてみたくなります。
ざっくり言えば、結果(アウトプット)に対するご褒美よりも、過程(インプット)に対するご褒美の方が結果が伸びるそうですが、果たしてそれは具体的にどういうことなのか。思い込みの目からウロコが落ちていきます。 続きを読む投稿日:2017.03.28
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辞書になった男 ケンボー先生と山田先生
佐々木健一 / 文春文庫
辞書は個性の塊だ!
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三省堂という出版社が出している国語辞典に、『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』というふたつの兄弟のような辞書があります。元々は国民的な辞書でだった『明解国語辞典』を親として、国語学者にして稀代の天才…辞書編纂者の見坊豪紀による『三省堂国語辞典』と、同じく国語学者で反骨の鬼才辞書編纂者であった山田忠雄による『新明解国語辞典』に袂をわかったのです。
辞書に個性があってはいけないと思う人も多いかもしれませんが、編纂者が違えば、さらには時代が違えば辞書の内容は全く違うものになります。それは個性としか呼べないものになるときがあるのです。多くの辞書が他の辞書からの引き写しのようなものである中、圧倒的な用例採集によってつくられた見坊豪紀の辞書と、恋愛を“特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。”と定義するような、個性的過ぎることで“新解さん”と呼ばれ親しまれる山田の辞書。
それぞれがそれぞれの道を歩むには、因縁と確執、国語と文化をめぐる思想をめぐるいくつもの出来事がありました。辞書史、すなわち日本語に関する歴史としても、地味だけれど大事な記録。 続きを読む投稿日:2017.03.15