Reader Store オフィシャルさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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体の知性を取り戻す
尹雄大 / 講談社現代新書
“ただ腕を上げる”という動作の困難さとは何か。
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自分の体のことを、自分と体の関係をどれだけ“知っている”でしょうか。人は体を鍛え、筋力をつけることでより強力な力を発揮することができ、早く走ることができ、より強いパンチが打てるようになると思っています…。
著者であるライターの尹雄大は、自身が柔道や空手、キックボクシングといった武道や格闘技を経験するうち、それらが持つ(筋)力の使い方や身体的な緊張について違和感を持ち始めます。鍛錬すればするほど鈍っていくかのような身体感覚。一度掴んだ“実感”というマジックワードを再現すべく、苦しい練習をひたすらしてしまうのです。
剣術家の甲野善紀と韓氏意拳に出会い、そうした疑問は徐々にはれていきます。「踏ん張らず、捻らず、タメをつくらずに動く」というおよそボクシングのパンチの打ち方の逆のような楽とさえ言えるような姿勢で相手と対峙し、圧倒してしまいます。
体の知性、とは何か。自然な体の使い方とは何か。“ただ腕を上げる”という動作の困難さとは何か。わたしたちの知らない自分たちの体がここにあります。 続きを読む投稿日:2017.04.19
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わたしを宇宙に連れてって―無重力生活への挑戦
メアリー・ローチ, 池田真紀子 / NHK出版
口の堅い宇宙開発機関への取材記録。
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まだ見ぬフロンティアとして宇宙はまだ謎を含んだかっこいい憧れでもあります。そしてもちろん高度な知識や技術に厳しい訓練を経てなれる宇宙飛行士もそうです。でも、宇宙飛行が輝かしい!と思ったら、それは一部だ…けのことかもしれません。無重力での嘔吐に、拭えない体臭。排泄も…。人間の生理に関わることはまだまだ解決しなければいけないことも多そうです。
「宇宙」では、いったいどんな生活が待っているのでしょう。NASAが自ら明かすことのなかった宇宙開発の裏側。空気もシャワーもプライバシーもまだ整備されていないリアルな無呪力宇宙飛行の実態は、実は嘔吐の連続だそう…。
ユーモラスだけどちょっと下品に明かされる有人飛行にまつわる秘密を、未来の自分と重ねて読んでみてください。宇宙が近づきます(行きたくなるかはまた別です…)。 続きを読む投稿日:2017.04.19
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鞄図書館 1
芳崎せいむ / 東京創元社
あなたが読みたいと思う本がこの世になくても、ここにある。
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本は文字や絵が書かれたただの紙束の集まりなのではなく、モノとして存在することで具体的な人や記憶と結びつくのだということを、このマンガは伝えてくれます。
幻の“鞄図書館”と呼ばれるあらゆる書物が入って…いる鞄を持つ男。いつもゲーテの引用をしながら愚痴のような会話を続ける鞄と男。そう鞄は喋れるのです。その鞄と男は旅を続けながら、人々に本を貸し出し、返却を受けるために旅を続けます。
火事で失われるはずだった歴史的遺産の本や遺品として残された本、亡くした息子が読んでいた本など、鞄にはただ闇雲にタイトルが保管されているわけではないのです。たとえ同じタイトルの本があろうとも、ある1冊は特別な1冊として存在します。『金魚屋古書店』の芳崎せいむが描く、本をめぐる苦しくも、あたたかな物語。 続きを読む投稿日:2017.04.19
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ダーウィンズゲーム 1
FLIPFLOPs / 別冊少年チャンピオン
ゲーム的な不条理を超えるために
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突如携帯に送られた来た「Dゲーム」という名の謎のゲームの誘い。普段と何も変わらないかに見える世界も、実は異能(シギル)と呼ばれる特殊能力を持った人間同士が縄張りを奪い合い、殺し合う異世界でした。
そ…んな世界に入り込んでしまった高校生のスドウカナメは、何も知らない状態から、冷静な状況分析、優れた運動能力、機転といった驚くべき能力を発揮し続け、その世界で注目の急成長プレイヤーとなっていきます。単純に強い能力ではなく、ジョジョのスタンドのように敵の相性によってその能力の可能性は変わってきます。弱き者が強くもなり得る世界。
くだらない殺し合いのゲームを辞める方法はふたつ。『ダーウィンズゲームをクリアする』か『GMを殺してダーウィンズゲームのシステムを破壊する』こと。スドウはどんな戦いを繰り広げるのか。 続きを読む投稿日:2017.04.19
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ダンス・ダンス・ダンスール(1)
ジョージ朝倉 / ビッグスピリッツ
恥ずかしく自分がやりたいと思うことを諦めることの方が恥ずかしい?
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バレエは女々しいのか。決してそんなことはないけれど、バレエとピアノをやる小さな子は往々にして周囲からそう言われがち(というイメージ)です。
6歳の時に姉の発表会で観たゲストのバレエダンサーに衝撃を受…け、バレエを始めた村尾潤平。両親は、そんな潤平をやさしく見守り、応援してくれていました。ところがある日、父が突然の死を迎え、潤平はいわゆる強く守る存在としての“男”になることを決意するようになります。
自ら選んだとは言え、突然の外からの力によってそうならざるを得なかった潤平が、バレエを忘れられたのかというとそんなことはありませんでした。ある少女との接近が、塞いでいたバレエへの情熱の蓋をこじ開けてしまいます。恥ずかしいという気持ちは、踊りたいという強い欲求に勝てるはずがないのです。荒削りながらも圧倒的なセンスを見せる潤平は、自分のなかの“男”とどう向き合いながら、どんなダンサーへと成長するのか、楽しみです。
バレエは女々しいのか。決してそんなことはないけれど、バレエとピアノをやる小さな子は往々にして周囲からそう言われがち(というイメージ)です。
6歳の時に姉の発表会で観たゲストのバレエダンサーに衝撃を受け、バレエを始めた村尾潤平。両親は、そんな潤平をやさしく見守り、応援してくれていました。ところがある日、父が突然の死を迎え、潤平はいわゆる強く守る存在としての“男”になることを決意するようになります。
自ら選んだとは言え、突然の外からの力によってそうならざるを得なかった潤平が、バレエを忘れられたのかというとそんなことはありませんでした。ある少女との接近が、塞いでいたバレエへの情熱の蓋をこじ開けてしまいます。恥ずかしいという気持ちは、踊りたいという強い欲求に勝てるはずがないのです。荒削りながらも圧倒的なセンスを見せる潤平は、自分のなかの“男”とどう向き合いながら、どんなダンサーへと成長するのか、楽しみです。 続きを読む投稿日:2017.04.19
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フリーダ・カーロ ──悲劇と情熱に生きた芸術家の生涯
筑摩書房編集部 / ちくま評伝シリーズ〈ポルトレ〉
身体的苦痛が導いた画家の生きざま
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ユニークな人選と簡潔で読みやすい構成と文章がちょうどいい、筑摩書房の評伝シリーズ「ポルトレ」。この人で来たか!と企画者にお礼を言いたくなることも多いシリーズにあって、フリーダ・カーロもその一人。
多…くの自画像を描き、スペインを代表する女性画家であるフリーダ・カーロ。自分の抱えた障害や事故の後遺症としての痛み、反体制的な姿勢を自画像としてそのままに描いた彼女の作品は、もしかすると好き嫌いがわかれるかもしれません。そこには苛烈な現実が横渡っているのです。
ドイツ人とスペイン人のハーフとしてスペインに生まれたフリーダの人生には、非常な困難がつきまといました。障害や事故をはじめ、メキシコを代表する壁画家ディエゴ・リベラに恋し、結婚したものの、女好きのディエゴに対する不満、事故の後遺症による二度の死産の経験。彼女は自らの身体を腹わたまで開いて見せ、表現していきました。
人として経験したこと、女性だから経験できること、それによって生まれる強さと弱さ、フリダ・カーロの生涯は私たちに生きる根源を突き付けます。
続きを読む投稿日:2017.04.19