Reader Store オフィシャルさんのレビュー
参考にされた数
1438
このユーザーのレビュー
-
春と盆暗
熊倉献 / アフタヌーン
本作が初連載作品となる、2017年注目のマンガ家、熊倉献(くまくら こん)。
3
初単行本でもある本作は、タイトルが示すようにボンクラに訪れた春(恋)を描いています。ボンクラな男子が出会い、好きになってしまうのはエイリアンのような不思議女子たち。
自分の世界、自分の論理で妄想し、…行動する女子たちを男は気になり、振り回され、追いかけ、理解できたりできなかったりして、徐々に不思議な世界の住人となっていきます。
誰しもが思い描くことがある、妄想というイメージ世界を表現するのにマンガほど適した表現はありません。普通は見えない相手の脳内世界を、マンガでは読者として覗く特権をもらっています。妄想が見える私たち読者と妄想している女子を見えないままに追いかける男子。読者は、わからないけど、好きで理解したいという男子の気持ちを、頭で先取りながら、気持ちは男子の後ろを追いかけていくのです。
オチでそれらが一致した時、気持ちよさやカタルシスとして喜びに変わるのかもしれません。 続きを読む投稿日:2017.04.20
-
はたらく細胞(1)
清水茜 / 月刊少年シリウス
「このマンガがすごい! 2016 」オトコ編2位ランクイン!
1
マンガではこれまで様々な擬人化が行われ、キャラクターとして活躍をしてきました。ですが、本作で擬人化された細胞という例はこれまでなかったかもしれません。
およそ60兆あると言われる細胞を擬人化というだ…けでも気が遠くなりそうですが、赤血球と白血球のふたりを中心に、体内で日々外敵と戦い、人間の生命を維持し続けるおびただしい数の体内組織の活躍を描いていきます。
酸素などを運ぶ新米赤血球が、体内で目撃する様々な事件。このマンガで事件が起きるということは、すなわち人体に何か異物が侵入してくるということ。私たちが体験する病気や症状を見事に細胞とウィルスなどの戦いとして描き、細胞のすべての行動が、人間=読者が体験してきたことと繋がっていくのです。
ステロイドを使った後の風景や傷口をめぐる攻防は、まさに治る/治すとはどういうことか、を視覚的に表現していてすばらしい。学校で教科書的にも使えるかも? 続きを読む投稿日:2017.04.20
-
悪女について
有吉佐和子 / 新潮文庫
ドラマ化原作。沢尻エリカが15歳から40歳まで熱演!
1
富小路公子という女性が死にました。自殺か他殺かわからない、謎の死でした。若い美人女性実業家としてテレビにも多数出演し、世間にも知られた人物。順風満帆に見えていた彼女は、死んだ途端、虚飾の女王としてスキ…ャンダラスな人生を暴かれていきます。
本書は、ある小説家が取材として、公子に関わった27人の男女にインタビューをしていく27章の証言集。彼女に騙されたと誹謗する人がいる一方で、あの人ほど素晴らしい人はいないと賞賛の声も聞こえてきます。これは、いったいどういうことなのでしょうか。
“人間も宝石も同じだと思うのよ。生命から輝くには、清く正しいことをしなきゃ”と言った公子。読者は、公子の本音がどこにあるのかをつかむことが難しい。なぜならすべての公子像が誰かによる伝聞であるから。近年では『桐島、部活やめるってよ』が同じような本人不在の物語でしたが、中心が空白で自分がない存在と考えてしまうのは、違うのかもしれない。
不在の人物が巻き起こした騒乱の人生は、いかに語られるのか。 続きを読む投稿日:2017.04.20
-
「しきり」の文化論
柏木博 / 講談社現代新書
人と「しきり」の関係に迫る刺激的論考!
2
デザイン評論家、柏木博が注目したのは、“しきり”。自己と他者、ウチと外、聖と俗、日常と非日常、私と公など、AとB(とCと…)を分ける仕切りとは一体何なのか。空間を分けるという単純なことだと思われている…仕切ることは、実は人間が人間であること、日本人が日本人であることと大きく関わっていたのです。
日本は、西欧式の空間のつくりかたとは違い、襖や障子といった可動式で音や光を透過する装飾可能なものを壁的なものとして使用してきました。完璧に空間を分けるのではなく、ゆるやかに仕切り、内と外が明確に区別されません。それは日本人のプライバシーや精神構造、社会構造などなど実に様々な文化の有り様と関係づけて語ることが可能なのです。
しきり、というとても日常的なモノ/コトを通じて考えられる射程は驚くほど広く、とても身近です。民族ごとの違いは、こうして現れてくるのでしょう。 続きを読む投稿日:2017.04.20
-
DAYS(1)
安田剛士 / 週刊少年マガジン
人を奮い立たせるものは何か。
1
元いじめられっ子で身長160センチもなく、サッカー経験もない柄本つくしは、高校サッカーの名門聖蹟高校でなんとサッカー部に入部します。バカがつくほど素直で、一生懸命であること、そして体力があること以外取…り柄のない超サッカー初心者が、名門チームで一体何ができるのでしょう。
当然のようにドリブルで抜くことができるわけでも、華麗なスルーパスを出すわけでもありません。彼がチームに与えることができたのは、すでに持っていたその性格そのものと、その伝播感染力でした。見た目にわかりやすい技術や結果がなければ、一生懸命や素直という過程の領域は、なかなか評価されにくいもの。
つくしと過ごすDAYS=日々を共に過ごすチームメイトは何にも代えがたい何かを獲得していく。それはある意味でわかりやすい“結果”と呼べるものなのかもしれません。 続きを読む投稿日:2017.04.20
-
神様のバレー 1巻
渡辺ツルヤ, 西崎泰正 / 週刊漫画TIMES
神様の指導と勝利哲学
1
スパイクの打点が高く、早いやサーブが強い、背が極端に高いなど、個々の能力が凄ければそのチームは強いのかと言われると、必ずしもそうではないのがスポーツのおもしろさ。なぜ強いのかと思うようなチームが、あれ…よあれよという間に勝利を手にすることほど、楽しみなこともないかもしれません。
実業団の凄腕アナリスト阿月総一は、自分たちの能力を適切に見定め、相手の弱点を見抜き、これでもかというほど相手チームの嫌がるプレイをしかける「嫌がらせの天才」。裏方としてチームを優勝に導いてきた阿月に、「万年1回戦負けのチームを全国優勝させれば、全日本男子の監督のイスを用意する」という声がかかる。
そして阿月は、気合と根性だけで練習を続ける弱小中学校バレー部のコーチとなります。彼がこのチームにもたらしたものはキツイ練習でも、難しい戦術でもありませんでした。しかし、試合はおもしろいほど阿月のペースで進み、勝ち進むのです。一体何が仕掛けなのかさえわからない、そんな読者も秘密を探しながら読む、そんな高度な戦術バレーマンガです。 続きを読む投稿日:2017.04.19