sabachthani?さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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写楽 閉じた国の幻(上)
島田荘司 / 新潮社
コロンブスの卵的発想の写楽正体説
5
江戸の浮世絵師の中でも異色の存在である写楽の正体を解き明かすミステリー小説。
活躍期間が短く、他の絵師との師弟関係も感じられないのに何故か出版界の大立者・蔦屋重三郎から厚待遇を受けて役者絵を出した東洲…斎写楽。有名な絵師の変名、武家の能楽師からまったくの素人等、様々な異論がありながら決定的な説がなかった写楽の正体に島田氏が新しい解釈を示します。それまでの既出の説とは発想を転換して進められる解釈は荒唐無稽とも思われますが、それなりに説得力があって面白かったです。
解釈を元にした江戸編も、蔦重や周りの絵師達の様子がイキイキしていて楽しかった。
一方で、主人公が写楽研究に乗り出すきっかけとか、息子の回転ドア事故の話等の脇のストーリーが放りっぱなしだったり、関係あるのそれ?っていうエピソードがあって全体的にまとまっていない印象で、ラストも唐突な終わり方だったのが残念。
ストーリーが消化不良な感じは否めなかったのですが、ぐいぐい読ませる文章はさすがに島田さんです。 続きを読む投稿日:2014.09.02
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天使たちの課外活動4 アンヌの野兎
茅田砂胡 / C★NOVELS
タイトルに偽りあり
2
天使たちは作中でほとんど登場しません。「‥課外活動3」の料理店店主・テオとその義父、怪獣夫婦の珍道中といった味わいの番外編。
でも何故かオッサンと老紳士が可愛く見える不思議‥。投稿日:2014.08.29
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大奥 1巻
よしながふみ / メロディ
内容は文句なしに面白い!
8
ようやく、よしながふみさんの男女逆転「大奥」も配信されるようになりました!
映画化、ドラマ化、各賞総なめの作品ですので内容について多くは語りません。歴史モノ、SF、ジェンダー論といろんな読み方が出来る…作品で、未読の方はとにかく読んで凄さを実感してみてください。
電子化に関しての感想は、冒頭に金頁、カラー口絵の収録があり、原書の雰囲気を出そうというのは感じられるのですが、ザラッとした手触りや指紋のつきそうな金頁のある紙の装丁にはやはり及ばないなっていうところで★マイナス1でした。よしながさん特有の薄く繊細な描線のカラー頁を堪能するにはタブレットで読むことをオススメします。 続きを読む投稿日:2014.08.28
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幼年期の終わり
クラーク, 池田真紀子 / 光文社古典新訳文庫
新訳版と早川の旧版との違い
5
J・ディーヴァーやP・コーンウェルのミステリー作品の翻訳を多く手がけた池田真紀子氏による新訳版「幼年期の終わり」
原書の出版が1953年でしたが、1989年にアーサー・C・クラーク本人によって改稿され…たものがこの新訳版の元となっています。本人による改定部分はまえがきの追加と第1章を変更したのみで、第2、第3章のストーリー自体はそのままでした。東西ドイツ統一や冷戦終結など、国際政治の状況が時代にそぐわなくなった事が理由だったようです。
第1章冒頭の比較は以下の状況です。
・早川の旧版(訳:福島正実)
→1970年代後半、米ソの宇宙開発競争の背景のもと、米のロケット発射直前に宇宙からオーバーロード(上帝)達が飛来。米人視点で語られる。
・新訳版
→2000年代初頭、世界各国が協調し宇宙開発を行うようになっている中、露人の女性宇宙飛行士による火星探査ミッション直前にオーヴァーロード(最高君主)達が飛来。露人視点。
大きな違いは冒頭の宇宙船の飛来シーンの時代設定についてですが、固有名詞の表記(カレルレン⇒カレラン)の変更や登場人物の口調の変化などの細かい所でもいろいろと相違点があります。
早川版の「カレルレン」に慣れ親しんでいると読んでて違和感を覚えますが、全体的には自然で読みやすい文章ですし、21世紀となった今読むには、こちらの新訳版のほうが同時代性を感じられます。新訳版と旧版のどちらを選ぶか、あとは好みの問題かな…。
その他、巻末にアーサー・C・クラークの年譜、巽孝之氏による解説、訳者あとがきが収録されていて、クラーク作品やSFというジャンルを考える上で参考になるのでは、と思います。 続きを読む投稿日:2014.08.24
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SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと
チャールズ・ユウ, 円城塔 / 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
初訳だけど、やっぱり円城塔の世界。
5
芥川賞作家・円城塔氏の初訳作品。
「タイムマシンの修理を仕事にする男が未来の自分を撃ち殺してしまい、陥ったタイムループから逃れる方法を探そうとする」というのがこの本のあらすじですが、「道化師の蝶」に併…録されている「松ノ枝の記」の冒頭部分で主人公が翻訳する小説とも同じ設定になっています。このことを知った時には凄い読みたい!って思い、配信を待ちわびていました。
電話ボックスみたいな狭いタイムマシン内に引きこもって非実在犬(実在しないのにモフれるってなにそれw)のエドをペットにし、マシンのUIをかわいい女の子(ドジっ子気味)にする主人公のダメさ加減が絶妙。そして、同じ時間をループし続ける母親との関係や、失踪したタイムマシン開発者の父親との思い出をめぐる後半のストーリーは少し思いがけない展開で切なくなってしまいました。
円城さん特有のユーモア溢れる文体はそのままで、「記述がタイムトラベルを左右する」という設定は、言葉が世界を定義し、変えていく「道化師の蝶」「これはペンです」等とも共通する世界感だという印象を持ちました。オリジナル作品とも微妙に違うけど、言葉・言語がキーになっているっていうのはやっぱり円城塔の世界だなぁ。 続きを読む投稿日:2014.08.19
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高台家の人々 1
森本梢子 / YOU
恋に臆病なサトリ兄妹弟(きょうだい)
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主人公の木絵は妄想癖のある地味なOLで、何故か社内でも評判の美男・高台光正に気に入られ彼女になる。しかし、高台王子には人の心が読めてしまうという秘密があったのだった‥。
タイトル通り、高台家の人々がス…トーリーのメインで、主人公なのに木絵は1話目以外影が薄いw。高台家のきょうだい達の能力は作品中ではテレパスと呼ばれていますが、どちらかというとサトリと呼ぶのが近いかもしれません。黒髪・碧眼・超美形で三人ともモテるのに、慎重な長男・光正、臆病で恋心を自覚していない妹・茂子、意地悪になってしまう次男・和正と、三人三様ではありますがサトリの能力が恋の障壁になっていました。
ところが、木絵の突拍子もない、時にバカバカしい程の妄想がそれぞれの気持ちをほぐしたり後押ししたり‥。影は薄くともやっぱり主人公です。
「ごくせん」や「デカワンコ」の森本さんらしくコメディタッチの作品ですが、珍しく恋愛寄りなストーリーです。 続きを読む投稿日:2014.08.15