權兵衛さんのレビュー
参考にされた数
268
このユーザーのレビュー
-
牛馬解き放ち
西村寿行 / 角川文庫
西村寿行ファンにとって隠れた名作
4
西村寿行氏の代表作ではありません。ですが、原則女人禁制、その「らしさ」は随所に。そして、「らしからぬ」部分も随所に。
圧倒的パワーで押しまくるいつもの牽強付会は控えめ、その代わり、男女の物悲しさを余す…ところなく描ききっています。
ラストは動揺するほど感情移入してしまいました。なので、★5つ。
映像化不可能に近い作品でしょう。だからこそ活字の威力が光ります。
きっとこの作品で儲けようなんて微塵も思わず、ただひたすら世界観に浸りきって作家本能で書き上げた感じがします。まさにプロフェッショナル。
昭和の巨匠の、この路線の作品をもっと読みたかったです。 続きを読む投稿日:2017.03.19
-
蒼茫の大地、滅ぶ (下)
西村寿行 / 角川文庫
制覇は滅びのはじまり
2
飛蝗群団の動きに連動する政治動向の描写が、深慮遠謀満載でことさら秀逸。タイトルも素晴らしい。昭和の巨匠の偉大さに慨嘆するしかなかった。
クライマックスに向けて緊迫感が増した点を考慮し、上巻は★×4、下…巻では満点★×5とした。
続きを読む投稿日:2016.08.02
-
蒼茫の大地、滅ぶ (上)
西村寿行 / 角川文庫
エンタメはこうあるべき
3
西村寿行氏のパニック系小説としては、迫りくる鼠群の恐怖を描いた「滅びの笛」「滅びの宴」と並ぶ名作である。
作者らしさ、という部分では鼠群シリーズの描写のほうが迫力があり、一方で、覇者の力学が有する脆弱…さを見事に突いた意味深さでは本作が相当勝る。甲乙つけ難い。
読破するまで夢中になれるエンタメの秀作である。 続きを読む投稿日:2016.08.02
-
何度踏みつけられても「最後に笑う人」になる88の絶対法則
マック赤坂 / 幻冬舎
唯一無二のリビドー小説と評させて下さい。
6
選挙と巷間のバラエティーで話題になる著者です。単なる金持ちの道楽や売名行為とはとても思えず、人物像に好奇心を掻きたてられて読破を決意しました。
――想像以上でした。まるで昭和の西村寿行氏が描くハードバ…イオレンス小説に登場してきそうな狂人猛者で、驚異的な心的エネルギーの持ち主です。
感心している場合でありませんでした。正確に記すと、ヒトには本来これくらいのエネルギーが存在しているのだと思います。それを直截的に説明してくれています。猛と狂のてんこ盛りながら、終始一貫ぶれていません。人生の可能性に関して、本質を突く好著でした。描かれているのは、生命体のLibidoそのものなのです。著者の生きざまに一歩でも近づきたいという意欲が湧いてきます。
特にまえがきとあとがきが秀逸です。なんと、最初の数ページで不覚にも涙がこぼれてしまいました。 続きを読む投稿日:2016.07.27
-
細胞の中の分子生物学 最新・生命科学入門
森和俊 / ブルーバックス
ノーベル賞受賞直前の著者が説く武士道的細胞生物学
5
医学生理学は、疾患があって研究が成立するものとばかり思っていました。巷間庶民のレベルにおいては、小胞体異常疾患など聞いた覚えがありません。なのに、小胞体ストレスなる生命現象をライフワークに選ぶなんて著…者はよほどの奇人(想像を絶する偉人の意)なのだろうと思いました。その興味本位から読み始めた書です。
平易ではありません。高校生物の上級、あるいは理学薬学系の生化学Iくらいの知識は必要でしょう。
こう直裁的に記してしまうと、読破の意欲を削いでしまうかもしれません。本意はそうではなく、多くに方々にお薦めしたいノンフィクション研究史です。何と言ってもongoing なところが素晴らしい。武士道の精神を感じる著者の生き様に深く感銘を受けました。書の80%は、小胞体ストレスを理解するための知識整理です。ラストで一瀉千里の勢いを得て本題本質に迫ります。目睫に迫るなまめかしさで細胞の姿が1つの心象風景となり、圧倒的な説得力で行間までもが躍動します。読後感が、まるで痛快な推理小説のよう。同じ日本人であることが誇らしいです。そして、自分自身の身体に畏怖の念を抱きます。生命って凄い! 細胞って偉大だ!
まだこんなに未解明な分野があったとは驚きでした。著者には、もっと自慢話の糊塗に専心して頂きたかったくらい。それに資する壮大な研究観です。
続きを読む投稿日:2016.07.16
-
去りなんいざ狂人の国を
西村寿行 / 角川文庫
狂人を追い込む過程に西村ワールド全開
4
昭和の時代に、作家同士の間でハードボイルドの定義に関する議論があったと記憶している。本作は、その渦中に含まれる作品であろうと思われる。
だが、そんな定義など、読者にとってはどうでもよいことだ。エンタメ…のための読書であり、エンタメに専心すれば、西村ワールドを存分に愉しめる。
まるで帳尻を合せるかのごとく、たんまり盛り込んできましたねえ、という印象。つまり、ハードロマンのフルコース。加えて、のちに日本で発生した実在の大惨事を予見するかのような展開に寒さを覚えてしまう。
定評のあるリビドー分野だけでなく、巨悪を討つ男の熱き血潮を描かせたら天下一品の著者。正義側は男専科のことが多いのだが、本作では、珍しく女刑事の出番もある。彼女も痛いくらいに熱い。 続きを読む投稿日:2015.07.14