
雀蜂
貴志祐介
角川ホラー文庫
貴志祐介の最新ホラー!
「クリムゾンの迷宮」や「ダークゾーン」と同様、主役の素性がほとんど明かされないまま、いきなりスズメバチに襲われ、いかにして逃げ切り、いかにして自分を殺そうとした相手に復讐するか、を中心にすえて物語が展開する。一般的にはじわじわと恐ろしさを醸して一気にブレイクする、という手法がホラーでは定石のような気がするが、本作は冒頭からフルスロットルでローラーコースターをぶっ飛ばすような全開感が溢れている。 貴志祐介の作品らしく、言葉にまつわる蘊蓄が語られるのも面白い。それがストーリーにどう影響してくるのか、言葉遊び的側面もちりばめながら、主人公とともに手に汗握り、迫り来るスズメバチに対処していくような感覚に襲われる。 近年は榎本シリーズなど、本格ミステリも手がけている作者の作品らしく、ちゃんと驚きの展開も用意されている。動機付けのところがやや弱い気もするが、ミステリではなくホラーとして読めば襲われるドキドキ感やゾクゾクする感覚はてんこ盛りなので、内容としては満足できる。元々ホラー作品で名をあげてきた作者だけに、本作も一級品のホラー作品である。
2投稿日: 2013.12.09
英国庭園の謎
有栖川有栖
講談社文庫
作家アリスと臨床犯罪学者・火村が活躍する国名シリーズ第4弾!
本作は6編の短・中編が収められている。 表題作は暗号を解くことで犯人に至る道筋が開かれる仕組みとなっており、犯人は結局誰だったのかは推理の中では明かされない。この暗号も、いわれてみれば「なあんだ」という程度のものだが、とっかかりになるヒントがなければなかなかそこに気がつかない。 そのほか、「雨天決行」は出版にまつわる蘊蓄が、「竜胆紅一の疑惑」では作家ならではの苦悩がそれぞれ物語に役割を与えられており、作家という仕事の一端が垣間見える。 「ジャバウォッキー」は支離滅裂な言動を繰り返す相手がいったい何を言っているのかがわかってくると、大変良く練り上げられ、齟齬のないように緻密に物語が編まれていることに気づかされる。 いずれも、小粒ながらも佳作のミステリで、短編ならではの味があり、手軽ではあるが手強い作品群である。
1投稿日: 2013.12.09
双頭の悪魔
有栖川有栖
創元推理文庫
有栖川有栖の傑作ミステリ!
断絶された二つの場所でほぼ同時に起こる殺人の謎に迫る。この二つの場所に関わりのある人がほとんどいない状況の中で、結末に行き着くまでになんと大きなスケールの物語が展開することか。これがまた見事にパズルのピースがはまるかのごとく埋め合わされていく様子は圧巻。 当然、僕はいつものように設定された「読者への挑戦(本作では3回設定されている)」はいずれもわかりませんでした。
4投稿日: 2013.12.07
シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略
レイチェル・ボッツマン,ルー・ロジャース,小林弘人,関美和
NHK出版
ソーシャルネットワーク時代のビジネスと消費について考える一冊!
インターネットやモバイル端末を有効に使うことで、新たな消費形態が広まりつつあることを数多くの実例を元に検証した話題の書籍。 Amazonも口コミを有効に活用しながら消費活動につなげようという意味では既存のビジネスとは一線を画しているが、この本で紹介されるものはさらに先を行く。インターネットとGPS内蔵のスマートフォンがあって初めて成り立つようなカーシェア、シェアサイクルなどはすでにアメリカやヨーロッパをはじめとしてある一定以上のユーザーを確保し、一般化の時代に入っている。エアビーアンドビーのサービスを活用し、自宅の空き部屋を旅行者に提供することで見知らぬ人同士の交流が生まれていたりする。 本書ではこれまでの「欲望を増長し、必要以上の消費に走らせる」ビジネス形態を「ハイパー消費」とよび、その行く末が太平洋のゴミの吹きだまり「太平洋ゴミベルト」であるとする。世界各地で廃棄されたゴミが流れ着き、どこにも行けなくなったゴミのサルガッソーであるが、大変広大な海域を見渡す限りゴミが埋め尽くしているという。この事実だけでもこれからの消費、あるいはゴミに対する考え方を変えなければというきっかけになるのではないか。 一方、これらの課題を解決する方法の一つが、本書の主題である「コラボ消費」であるという。たしかに、カーシェアなどを有効に使えば、必要以上のクルマを所有する必要はないし、そもそも必要以上に生産する必要がなくなる。自動車メーカーにとっては「生産→販売」ではなく、持続可能性の高いクルマを「利用してもらう」ことでもうけることにパラダイムシフトしていかなければ生き残れないことを示唆している。他にも、使い古しの衣類などを他の人と交換するサイトや、使い回すことを前提に作られた商品など、要らなくなったら捨てるという考え方から脱却するいくつもの事例が紹介されている。 残念ながら、日本ではこうした歩みに対し、今ひとつ乗り切れていない感じがする。また、シェアの基本は都市基盤にあると感じられる部分も多く、田舎でこのような考え方をどのように実践していくかはまだまだ課題が多そうだ。しかし、これまでの「私」中心の消費から「コミュニティ」中心の消費へ、ひいてはそれが地域の再生に繋がる可能性を秘めていることは否定できない。小さな事からでも自分に出来ることを考えていきたい、そう思える一冊である。
0投稿日: 2013.12.07
シンメトリー
誉田哲也
光文社文庫
姫川玲子シリーズ第3弾にして初の短編集!
表題作を含め、先にドラマで見てしまっていたものがあったため、どうしてもそれとの比較となってしまい、ややじっくり楽しむという感じでなくなってしまったが、短編ということでどちらかというとライトな仕上がり。巡査部長時代の玲子の活躍や女子高生相手にブチ切れるところなど、これまでの作品で描かれた玲子像をさらに肉付けするようなものになっている。 個人的にはドラマの方がストーリーに深みを持たせている印象がある。しかし、それも作者が登場人物や物語の背景をわかりやすく、きっちりと描いているから、物語を膨らませることが出来た、ともいえる。 姫川玲子というキャラクターの魅力とともに、作家誉田哲也の魅力も増すことに成功した作品。
0投稿日: 2013.12.07
ソウルケイジ
誉田哲也
光文社文庫
テレビドラマ化もされた姫川玲子シリーズ第2弾!
本作は「父性」というのが一つの大きなキーワードになっている。川土手に止められた車から見つかった血染めの左手首。その身元を洗っていくうちに明かされていく、借金に追われた人たちの行く末と、それに翻弄される家族たちの苦悶。ストーリーを追ううちに、物語とはいえそんなひどいことを、と思いつつ、現実に起こりうる事でもあることにいたたまれない気持ちになった。 主人公玲子は第1作「ストロベリー・ナイト」で明かされたように、暴行に遭った経験を持ち、そこから立ち直る強さと内に秘めた復讐心に支えられて警察組織の中で活躍している。部下となった葉山則之もまた心に傷を抱えて、もがいている。作者はそんな強さと弱さを併せ持つキャラクターをいとおしく思いながら描いているように思える。 さらに、本作は玲子のライバルともいえる日下警部補の活躍が目をひく。それこそ、玲子よりも主人公らしい働きすらしてしまうため、途中主人公は日下かと思えるほどだ。この日下も家庭人としては悩みを抱えている。ここでも「父性」が見え隠れしている。 「ストロベリー・ナイト」のような派手な仕掛けはないが、その分じっくりとかみしめるように読み進めることが出来る佳作。
0投稿日: 2013.12.07
ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~
三上延
メディアワークス文庫
古本屋の店主が本にまつわる謎を解決するミステリの第3弾!
安楽椅子探偵役の栞子さんと本が読めない体質の五浦という異色のコンビがホームズとワトソンのような役回りになっているのは相変わらずで、いろいろな古書にまつわる蘊蓄が謎を解く鍵になっているあたりも変わらず「へぇ~」とうならされる。栞子さんの母親の影が少しずつ実態を帯びてくるに従い、その驚異的な能力と手段を選ばないことから典型的な悪役キャラの香りがぷんぷんしてくる。 それにしても、栞子の母親は現在のビブリア堂の様子をなぜか知っており、さらには五浦が本が読めない体質ということまでも把握している。その謎の解決の糸口は本書ラストあたりで示される。この後、母親がどんな風に物語に絡んでくるのか、続編が待ち遠しい。
3投稿日: 2013.12.07
ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~
三上延
メディアワークス文庫
本にまつわる謎を解く安楽椅子探偵もの第2弾!
一時はビブリア古書堂をやめることにした大輔だが、店主・栞子から仲直りを提案され、受けていた就職試験もダメになったことから再度はたらくことになる。少しずつお互いの距離感が縮まる中、栞子の過去と母親の秘密が徐々に明らかになる。 前作が2011年度の文庫ベストテンで1位をとるなど、話題を振りまいているシリーズだが、特に古書に関する蘊蓄がちりばめられていることもあり、本好きというよりは古書好きあるいは蒐集家にとってはいろいろとくすぐられるネタがちりばめられているのではないだろうか。本作では藤子不二雄が足塚不二雄時代に発表した「UTOPIA」がストーリーに絡んできたりして、文芸作品だけでなく、レアなマンガも古書市場ではものすごい価値があることを再認識させられる。 前作はそれだけで完結と言われれば納得できるような仕上がりであったが、本作は明らかに次巻を発表することをベースに作られており、その意味ではバック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズの2作目のような印象を与える。よく言えば先の気になる展開、悪く言えば中途半端なまとまり方という感じ。微妙に肩すかしを食らって手持ちぶさたになっている感を醸し出しているように感じてしまった。
1投稿日: 2013.12.07
ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~
三上延
メディアワークス文庫
古書店巡りをしたくなるビブリオミステリの第1弾!
いわゆるライトノベルに分類されると思われるが、内容はしっかりとした安楽椅子探偵ものミステリ。ミステリではあるが、安直に人が死んだり、殺人が起こったりするわけではなく、人物の行動の背景を探っていく点に重点が置かれている。 ふとした事故により入院することになった古書店店主・栞子とその店ではたらくことになった五浦大輔を中心に、本にまつわる人間模様が描かれる。 ちょっとしたヒントから半ば強引なまでに物事の背景を言い当ててしまう、人見知りなわりに本が絡むと人が変わる、など、常人にはあり得ないような設定の栞子さんだが、本について生き生きと語るその語り口に、つい元になった本を読みたくなる。 それぞれの物語はそれぞれで完結しつつ、一連のつながりがラストに向けて収斂していく構成になっており、ちょっとした発言が後のストーリーにも関わってくる、というあたりはよく考えられている。栞子さんのけがの原因を作った人物の行動はちょっと理解しがたいものがあったが。 作者によれば、作中に登場する本はすべて実在しており、ということはアンカットの太宰本もあるって事?とか、そんなところにも興味が行ったりして、古書店巡りをしたくなる側面も持つ。本好きというより、古書好きな人に受ける作品ではないかと思う。
24投稿日: 2013.12.07
スティーブ・ジョブズ II
ウォルター・アイザックソン,井口耕二
講談社
アップルの創業者にして最大のカリスマ、スティーブ・ジョブズの伝記の下巻
アップルに復帰し、iMacをはじめとする革新的な製品を投入して存在感を高めていくアップルの軌跡と、ガンにむしばまれていくスティーブの様子が丹念に描かれる。 読み進めていくうちに、スティーブの荒唐無稽な言動や行動があったとしても、病に冒され、やがて自らCEOを退任するにいたると、どうにも切なくなってしまう。破天荒な人物ではあったが、だからこそテクノロジーだけでなくアーティスティックな側面にも独特のこだわりを持って、製品を提供してこれたのだろうと感じた。 アップルにはスティーブの遺伝子が継承されているのだろうが、魔法のようなプレゼンやあっと驚くような製品がこれからも提供されるのか。スティーブという孤高の存在が失われた今後のアップルにも注目していきたい。
1投稿日: 2013.12.07
