
担当編集者推薦!『すばらしい新世界』のすばらしい“凄み”
2017.07.06 - 特集
ディストピアSF小説の金字塔としても名高い、ハクスリー『すばらしい新世界』。
“いま、息をしている言葉で”新訳を世に送り続けている光文社古典新訳文庫の担当編集者の小都一郎さんが、『すばらしい新世界』の魅力と刊行時のエピソードを教えてくれました!
西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め……驚くべき洞察力で描かれた、ディストピア小説の決定版!
それから10年が過ぎ、2011年には光文社古典新訳文庫の編集部にいるわけですが、「本当にいま読むべき」古典作品って何があるだろうと考えていて、ふと思い出したのがこの『すばらしい新世界』でした。多くのビジネス書に引用されるということは、きっとSFや文学プロパーの読み手を超えて広がりがある話なのかもしれない、と。あらためて既訳を読み返してみて、その先見性、洞察の深さに衝撃を受けました。
〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する超全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは、真理省記録局で歴史の改竄に従事していた。彼は奔放な美女ジュリアとの出会いを契機に、伝説的な裏切り者による反政府地下活動に惹かれるようになる。
『一九八四年』に描かれるような監視社会や全体主義的体制というのは、いまとなっては、20世紀に人類が経験してきたことの延長線上に想像できるという意味で「古典的」です(それがいま日・米の政治状況から再度脚光を浴びているというのは皮肉なものですが)。しかし『すばらしい新世界』に描かれるのは、あるゆる手段を用いて、人々に徹底的に「幸福」を与えて不満を抱かせない社会。階級社会でありながら、どの階級に属する者も他の階級を妬まないよう徹底的に教育されますし、クローン工場で人が生まれる社会では、フリーセックスが奨励されているので欲求不満もない。何か気に病むことがあったとしても、政府支給の快楽薬「ソーマ」によってスッキリ解消されます。不満のない社会には反乱は起きず、体制vs民衆のような対立はありません。そこに一石を投じたのは、遺伝子の突然変異でなぜか社会に疑問を抱くようになった者や、外部からきた「野蛮人」。しかし、彼らは何が不満なのかさえうまく説明できず、実のところ戦う相手すらいないと言っていいでしょう。当然、「すばらしい新世界」の「すばらしい」は皮肉なわけですが、これは本当に「すばらしい」世界なのかもしれない、という感想すら出てくるのが、本作の凄みなわけです。
そんな深いテーマを描きつつも、登場人物の造形や会話の内容などは古典文学というよりはむしろ日本のアニメ的で、現代の読者に合っているように思われました。社会になじめていない者の疎外感や不安、童貞的な感受性と反発心、そしてヒロイン的な少女の存在……。実は一番現代的と思ったのはいわゆる「お色気シーン」なのですが(笑)、古典であんな書き方をしたものはないんじゃないかと思います。

販促に関しては、編集部の熱量を伝えるための詳細なチラシ、自分で作業中に調べたようなことを大量に書き込んで付箋などを貼りまくった展示用の見本や(手作りなので1冊限り)、名場面・名台詞を印刷したしおり(これも手作り)を書店さんに配布しました。

(光文社翻訳編集部 小都一郎)
『すばらしい新世界』がますます読みたくなる登場人物相関図をどうぞ!
(光文社古典新訳文庫ウェブサイトから転載許可をいただき、お借りしました)
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