平山夢明の「読んではいけないホラー小説」

平山夢明の「読んではいけないホラー小説」

2018.11.29 - 特集

代表作『 DINER 』 『メルキオールの惨劇 』のほか、『「超」怖い話』シリーズなど数多くの大ヒット作を手がけ、小説にとどまらず、映画監督など幅広く活躍する作家・平山夢明氏が厳選してお届けする「読んではいけないホラー小説」。

季節はすっかり秋から冬へ……冬の寒空の下、少し違った悪寒と恐怖を体験をしてみては……!?

平山夢明(ひらやま ゆめあき)

神奈川県出身。
1994年『異常快楽殺人』(角川書店)で作家デビュー。
2006年、短編「独白するユニバーサル横メルカトル」が日本推理作家協会短編賞、『DINER』で2010年に日本冒険小説協会大賞、11年に大藪春彦賞を受賞。近著に『サイコパス解剖学』(春日武彦氏との共著)『大江戸怪談どたんばたん(土壇場譚)魂豆腐』『ヤギより上、猿より下』、実話怪談『怪談遺産』『東京伝説 自選コレクション 溶解する街の怖い話』などがある。

「読んではいけないホラー小説」 その1

さて、冬の寒空の下、少し違った悪寒と恐怖を……。

ということで、ここでご紹介する作品は、作家・平山夢明先生に「読んではいけないホラー小説」として、少し変わった恐怖を味わえる作品をピックアップしていただきます。

ではさっそく、平山先生おすすめの「読んではいけない」恐怖の数々をご紹介いただきましょう!


社会を批判したせいで土に植えられ樹木化してしまった妻との別れ。誰も関心を持たなくなったオリンピックで黙々と走る男。現代人の心の奥底に沈んでいた郷愁、感傷、抒情を解き放つ心地よい短篇集。

僕はこれが一番恐ろしいんですよ。話は政府に反抗する人間を〈木〉に変える未来なんですけれどね。瞬時に〈木〉になるんではなくて人としての心を持ったまま徐々にゆっくり時間をかけて〈人ではないもの〉に変化していく。最愛の妻を〈人の木〉にさせられてしまった男が主人公なんですが、もうこの世界では彼らには抵抗する術がないんです。児童公園に植えられた妻は夫が自分に頻繁に逢いにくることを心配するんです。この夫婦、ものすごく互いに信頼し、愛し合っているんです。互いに掛け合う言葉の端々にそれが表れてる。そこが哀しいし、痛ましいし、そんな未来を生きなくてはならないと仮定しただけで絶対零度の絶望が読者を襲うんです。ともすれば全体主義になってしまう我々に対する強烈な警告としても最高の一作です。

深夜、胸をしめつけられるような息苦しさに襲われたルーアンのホテル、真夜中の階段を上がっていく何者かの足音を耳にしたリヨンの学生寮、うなだれている人影を夜具の足許に目撃した熱海の旅館――「三つの幽霊」ほか、身の毛もよだつ恐怖譚15編を収録

いいでしょう?コレ。タイトルが「怪奇小説集」なんの飾りもありゃしない。つまり〈これが基準だぞ〉っていう遠藤先生の心意気が感じられるんですよ。面白いのは十五四篇入ってるなかの初っ端が先生自ら経験した〈怪奇譚〉なんです。熱海に〈出る〉って旅館があって、そこに後の文化庁長官になる三浦朱門先生と体験宿泊するんです。コレが実に巧い。アレッと思わせておいてゾッとします。「全国の幽霊屋敷を探検するというのは、私の年来の希望」と豪語するだけあって仏留学時代の体験談も収録されていてね。昔の文豪というのは実に遊び心がありましたよね。楽しいこと、不思議なことがみんな大好き。存命であればノーベル文学賞最有力候補でもあった遠藤先生が自ら編んだ実話怪談を含む傑作です!

冬季閉鎖中のホテルで起きた惨劇から30年。超能力“かがやき”をもつかつての少年ダンは、大人になった今も過去に苦しみながら、ホスピスで働いていた。ある日、彼の元に奇妙なメッセージが届く。差出人は同じ“かがやき”をもつ少女。その出会いが新たな惨劇の扉を開いた。ホラーの金字塔『シャイニング』の続編、堂々登場!

ご存知、キング・オブ・ホラーの登場です。実はこれ『シャイニング』の続編なんです。オーバールック・ホテルでは五歳だったダニーが既に三十路になっていまして、シャイニング〈輝き〉の副作用から逃げ出すために親父同様にアルコールに逃げている場面から始まります。で、彼は自分と同じ輝きを持つ少女と出会うんですが、話は当然、そんな甘いもんじゃない。人間の生気を吸い取りながら生き永らえようとする恐怖の一団が彼らに襲いかかります。前作では守られる立場だったダニーが命を賭して、かつてハローランがしてくれたのと同様に善なる能力者である少女を救おうとします。魂の再生と善性の復活をテーマにキング節が唸りまくる傑作!

日本SF小説史上最大のヒット作、その決定版が電子書籍オリジナルで登場。
文庫の上下巻が一冊になりました。

【あらすじ】
 日本各地で地震が続くなか、小笠原諸島近海にあった無人島が一晩で海中に沈んだ。
調査のため潜水艇に乗り込んだ地球物理学者の田所博士は、深海の異変を目の当たりにして、恐るべき予測を唱えた。

--早ければ二年以内に、日本列島の大部分は海面下に沈む!

 田所博士を中心に気鋭の学者たちが地質的大変動の調査に取り組むと同時に、政府も日本民族の生き残りをかけて、国民の海外移住と資産の移転計画を進めようとする。
しかし第二次関東大震災をはじめ、様ざまな災害が発生。想定外のスピードで事態は悪化していく。はたして日本民族は生き残ることができるのか。

 大災害やパニックのシミュレーションにとどまらず、組織論や危機管理論、日本人論といった様ざまな要素をもつ本作は時代を超えた輝きをはなっており、小説は上下二巻で発行総部数は460万部超。二度の映画化、テレビ化、マンガ化、いずれも大成功をおさめている。

●『日本沈没 決定版』の4大特長●

1.世界的なアーティストの生賴範義氏の作品を用いた電子版オリジナル表紙
2.電子書籍としては初の上下一体版
3.ストーリーが分かりやすくなるオリジナル図版を収録
4.初公開資料などを含め、名作誕生の秘話を遺族が詳細に解説

まだ読んでいない方はもちろん、小松左京氏の熱烈なファンまで満足できるコンテンツです。

いまから四十五年前の発売なんですけど、当時は「へぇ、珍しいことを考える人もいるもんだねえ」ってのが大衆の雰囲気だったと思うんですよ。それまでの大災害というのは圧倒的に空襲であり原爆でしたからね。そこに地震っていうのがやってきた。確かに我が国は過去に何度もその洗礼を受けていたんだけれども。でもまだ当時は恐怖よりも興味が先行してました。それが阪神淡路、東日本の両大震災以降、現実的な恐怖に完全に変貌しました。それと同時に此処に書かれているのと全く同じ説明が報道<・・>の中でされるようになって、今や予言書と云っても良い段階に入ってきています。その時、日本人はどうするのか?どう生きていくべきなのか?それまでにしておくべき覚悟は?そこまでもが網羅されている大傑作です。

幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい短編集。

なんともタイトルは日曜版みたいに牧歌的ですが、コレ、実は物凄く怖ろしい本です。人の心が読める少女がお手伝い先の家で遭遇する、嫉妬、セックス、恨み、浮気、自己防衛、虚栄など、世間からは決してみえない<グロテスクな人の心>の体験談なんですね。近年、事件が起きるとその犯人の周辺取材で聞かれる<いい人だった><おとなしい人だった>という言葉。実はその仮面の裏側で、脳味噌の奥で、犯人は何を考え、熟成していたかが、この主人公、火田七瀬によって剥き出しにされていきます。僕は中学生の時に読んで家中がゴミ屋敷のようになったなかに暮らす家族の『澱の呪縛』が特に強烈でしたね。それ以外にも『紅蓮菩薩』『無風地帯』など全てが粒ぞろいの傑作です。

人間の裡に潜む不気味なものを抉り出し、独特の乾いた筆致で書き続けたシャーリイ・ジャクスンは、強烈な悪意がもたらす恐怖から奇妙なユーモアまで幅広い味わいの短編を手がけたことでも知られている。死後に発見された未出版作品と単行本未収録作を集成した作品集Just an Ordinary Dayより、現実と妄想のはざまで何ものかに追われ続ける女の不安と焦燥を描く「逢瀬」、魔術を扱った中世風暗黒ゴシック譚「城の主」、両親を失なった少女の奇妙な振るまいに困惑する主婦が語る「『はい』と一言」など、悪意と妄念、恐怖と哄笑が彩る23編にエッセイ5編を付す。本邦初訳作多数。/収録作=「序文 思い出せること」「スミス夫人の蜜月(バージョン1)」「スミス夫人の蜜月(バージョン2)――新妻殺害のミステリー」「よき妻」「ネズミ」「逢瀬」「お決まりの話題」「なんでもない日にピーナツを持って」「悪の可能性」「行方不明の少女」「偉大な声も静まりぬ」「夏の日の午後」「おつらいときには」「アンダースン夫人」「城の主」「店からのサービス」「貧しいおばあさん」「メルヴィル夫人の買い物」「レディとの旅」「『はい』と一言」「家」「喫煙室」「インディアンはテントで暮らす」「うちのおばあちゃんと猫たち」「男の子たちのパーティ」「不良少年」「車のせいかも」「S・B・フェアチャイルドの思い出」「カブスカウトのデンで一人きり」「エピローグ 名声」

『ずっとお城で暮らしてる』では本の姿をした怪物!と絶賛され、また『たたり』では、スティーブン・キングをして「シャイニングは『たたり』に影響を受けている」と云わしめたモダンホラーの巨人(『たたり』は現在、改題されて『丘の屋敷』となっています)。彼女が描くホラーは単なる怪物や幽霊譚ではなくて、そこにはいつも<狂い>が隠れていて、しかもそれが最終的には怖ろしい結末を引き寄せる原動力ともなっているところがキングも敬愛してやまない点なのでしょう。本作はそんなシャーリー女史の短編23本にエッセーが5本も詰められた。正にジャクスン初心者には打ってつけのお試し本なんですが、これが素晴らしく面白いです。『ネズミ』『なんでもない日にピーナッツを持って』など最高です!

 

サーカスのピエロを、たまらなく恐ろしく感じる症状を「クラウンフォビア」という。また本来なら愛玩される対象であるはずの市松人形やフランス人形は、怪談やホラー映画のモチーフとして数多く登場する。なぜ人間は、“人間の形をした人間ではないモノ"を恐れるのか。また、日本人が「幽霊」を恐れ、アメリカ人が「悪魔」を恐れるのはなぜか。稀代のホラー作家が、「エクソシスト」や「サイコ」など、ホラーの名作を例に取りながら、人間が恐怖や不安を抱き、それに引き込まれていく心理メカニズムについて徹底考察。精神科医の春日武彦氏との対談も特別収録!

自分の作品を自分で紹介することほど恥ずかしいことはないんですが、一応、これも怪談周りを俯瞰しているもののひとつとしご紹介させて戴きます。子供の頃から、人がころころ虫のようによく死んだり、野良犬のように傷だらけにそれてる場所で育ったものですから、恐怖と不安というのは脳味噌で感じるよりも先に皮膚感覚で存在していたんですね。そんな僕が長じて物書きになると当然のように『こわいもの』を描くこと以外になかったわけです。そうした中で現実逃避するためのツールとしてのみ使用していた『ホラー映画』に対する考察や『恐怖と不安』の違い、怖がるとは何か?なぜ人はホラーを欲するのかなどについて、わかりやすく書いてみました。一読して戴ければ光栄です。

(平山夢明)

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