不朽の名作『BANANA FISH』、少女漫画で描かれたタフネスとハードボイルド
2018.08.03 - 特集
アニメ化を記念し、完結から四半世紀を経てなお色あせない本作の魅力を、ハードボイルド・ストーリーの視点から解説!
2018年7月5日、吉田秋生先生の代表作『BANANA FISH』のアニメ放送が始まった。
アニメ化を記念し、完結から四半世紀を経てなお色あせない本作の魅力を、ハードボイルド・ストーリーの視点から解説しようと思う。「名前は聞いたことあるけれど……少女マンガだよね?」と思って手を出していなかった未読の方に、本作のタフな魅力が届くことを祈っている。
1985年、ストリートキッズのボス、アッシュはニューヨークのロウアー・イースト・サイドで、胸を射たれて瀕死の男から薬物サンプルを受け取った。男は「バナナフィッシュに会え・・・」と言い遺して息を引き取る。ベトナム戦争で出征した際、麻薬にやられて正気を失ったままの兄グリフィンの面倒をみていた彼は、兄が時々つぶやく「バナナフィッシュ」と同じことばを聞き、興味を抱いた。殺された男を追っていたのは暗黒街のボス、ディノ・ゴルツィネ。アッシュは男と最後に接触した者としてディノに疑われる。雑誌の取材でアッシュと出会った、カメラマン助手の英二も巻き込んで事件は思わぬ展開を見せ・・・。
『BANANA FISH』あらすじ
物語の始まりは1973年。ベトナム戦争のさなか、アメリカ軍の兵士グリフィン・カーレンリースが突如錯乱して仲間たちに銃を撃ちはじめます。グリフィンは戦友に取り押さえられると、うわごとのように「バナナ・フィッシュ…」という言葉をつぶやいていました。
時代は移り、1985年。ニューヨークのストリートキッズのボス、アッシュ・リンクスが、路上で撃たれた男を助けます。男はアッシュにロケットペンダントとロスアンゼルスの住所、そして「バナナ・フィッシュに会え」という遺言を残して息絶えました。
その頃日本からは、ストリートキッズの取材のために、もう一人の主人公奥村英二(おくむら・えいじ)がニューヨークに到着します。
アッシュと英二は「バナナ・フィッシュ」の謎をめぐる陰謀に巻き込まれていきます。キーマンとして大人に利用されるアッシュに希望を与えるのは、非力で優しい親友・英二でした。
作者は吉田秋生先生。最近では、鎌倉を舞台にした姉妹の物語『海街diary』が第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、マンガ大賞2013などを受賞しています。
「バナナ・フィッシュ」と主な勢力
『BANANA FISH』は、マフィアや政府の思惑が複雑に絡み合う、骨太のクライム・サスペンスだ。
舞台は20世紀末のアメリカ。ベトナム戦争の傷も癒えない中、政治家や黒い噂のある事業家といったキナ臭い連中の「連続自殺事件」が世間を騒がせている。騒動の中心にあるのが、「バナナ・フィッシュ」だ。
「バナナ・フィッシュ」の元ネタは、J.D.サリンジャーの短編小説。バナナを食べるために「バナナ穴」の中を泳ぐ架空の魚で、その話をした若者は、物語の終盤に自殺する。
『BANANA FISH』では、この「バナナ・フィッシュ」をめぐり、大きくわけて4つ(+α)の勢力が抗争を繰り広げる。
1. リンクス
2. コルシカ・マフィア
3. チャイニーズ・マフィア
4. チャイナタウンのストリートキッズ
その他の勢力
政治家、政府要人…バナナ・フィッシュ、あるいは「変態向け商品」の取引でディノ・ゴルツィネと関係が深い。「南部」との対立や「東側」への警戒など、政治的な煩慮も抱えている。
NY市警・マックス・伊部…政府やマフィアからの妨害にあいながら、アッシュや英二を救い出すべく奔走する。
それぞれの関係
それぞれの勢力が、それぞれの思惑で「バナナ・フィッシュ」を追っている。ただし、組織の内部は必ずしも一枚岩ではない。世代交代で組織に亀裂が生じ、そこに他勢力が関与することでパワーバランスが変動する。また、組織の意思と無関係な個人の暴走によってストーリーが急変することもある。そのダイナミックな展開が、『BANANA FISH』の面白さだ。
A:リンクスとコルシカ・マフィア
B:リンクスとチャイナタウンのストリートキッズ
C:チャイナタウンのストリートキッズとチャイニーズ・マフィア
D:チャイニーズ・マフィアとコルシカ・マフィア
アッシュをめぐる争いと奥村英二
「アッシュ」と「バナナ・フィッシュ」
『BANANA FISH』では、「バナナ・フィッシュをめぐる陰謀」と「アッシュの救済」の2つのストーリーが同時に進む。アッシュは自由のために政府やマフィア、軍隊にさえ立ち向かうが、相手も個々の想いを持つ人間だ。金のため、民族のため、国のために「自分」を殺していたはずの敵たちがアッシュに出会って変わっていく。
どんな陰謀も、そこに関わる人間がいる。圧倒的なカリスマは、人を救うこともあるし、狂わせることもあるのだろう。男性作家とは異なる視点で描かれた「男の美学」を楽しんでほしい。
おわりに
絵のタッチこそ繊細な少女漫画風だが、「バナナ・フィッシュ」、そして「アッシュ」をめぐるストーリーは、ハードボイルド・サスペンスそのものだ。作品全体を通して、どこか乾いた風が吹いているようにも感じる。男性向け・女性向けといったカテゴライズを超越した魅力を、ぜひ感じてほしい。
まだ『BANANA FISH』を読んだことのないあなたが羨ましい。これからあの世界に触れることができるのだから。
ライター:Amati
4歳のアホ男児と0歳のようじょを育てながら仕事を続ける個人事業主です。
ライターがメインだけど最近自分でも何してんのか分かんなくなってきました。オタク。