空を駆ける
梶よう子(著)
/集英社文芸単行本
作品情報
逆光に置かれても挫けずに我が子へ愛を注ぐ母と、その愛を受けて健やかに成長する子の姿を描き、今もなお愛され続ける名作児童文学『小公子』。
この物語を日本で初めて翻訳したのは、明治の女性文学者、若松賤子(しずこ)だった。
江戸末期、会津藩士の父のもとに生まれたカシ(のちの賤子)は、幼子の頃、戊辰戦争で九死に一生を得るが、のちに母を亡くし、横浜の生糸問屋へ養子に出されて孤独な少女時代を過ごす。
転機となったのは、明治八年。
養家を離れ、十一歳でアメリカ人女性宣教師メアリー・キダーが創立した女子寄宿学校フェリス・セミナリーへ入学。
新しい校舎、新しい仲間たち、新しい学び。
そこはカシにとって、会津を離れて以来、初めての心安らぐ「ホーム」となっていく。
「わたしは、翼を広げ、空を駆けるように飛ぶための準備をしなければならない」
カシは、女性の自立と子どもの幸福こそがこの国の未来を照らすと信じ、命を燃やしていく――。
一人の女性として、妻として、そして三人の子の母として。
激動の明治を懸命に生ききった三十一年の生涯に新たな光をあてる渾身長編!
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商品情報
- シリーズ
- 空を駆ける
- 著者
- 梶よう子
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文芸単行本
- 書籍発売日
- 2022.07.26
- Reader Store発売日
- 2022.07.26
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 400ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (10件のレビュー)
-
フェリス・セミナリー(現・フェリス女学院)初代卒業生にして、バーネット『小公子』の翻訳者、そして教育者である若松賤子の生涯を描いた作品。
恥ずかしながら若松賤子という方をこの作品で初めて知った。
物…語の終盤、『小公子』の前編が出版された直後のカシ(賤子の本名)が夫である巌本善治に『怖くなった』と不安を漏らすシーンがある。
『雑誌に載った作品が評価を得たことはある。けれど、若松しづという著者名は、「女学雑誌」の読者にならば知られていても、世間ではほとんど無名だ』
『わたしがどんなに翻訳に苦心したか。読みやすくする努力をしたか。外国の風俗、社会の雰囲気を損なわず日本人にもわかりやすいような言葉選びをしたか。幾度推敲を重ねたか』
この辺りの心情は、作家である梶さん自身の思いも込められているのかも知れない。
確かに私は若松しづという名前も知らなかったが『小公子』の物語は知っている。彼女の成し遂げたことは現代にも確かに残っている。
若松賤子、本名・巌本カシ(名前の由来は生まれ年の甲子から)は会津出身。他の会津出身者同様、辛い幼少期を送ってきた。幼い頃に母が亡くなり養子に出された。そこでは裕福な生活を送れたようだが家族関係はギスギスしていて、養父の商売が傾いたことで再び実父により別の養子先へ。それがフェリス・セミナリーを創設したメアリー・エディー・ギターだった。
この時代に外国人に自分の子を預けるとはどのような覚悟だったのだろうと思う。
だがそのことがカシの人生を切り開いた。
英語を始め数々の学問を受けることが出来た。そして何よりもギター夫妻の対等な夫婦関係を見つめることで、その後の彼女の価値観や考え方が定まったようだ。
途中、平塚らいてうや伊藤野枝のような活動家になるのかと思ったほど女性の地位向上や教育などに熱心になるが、彼女が目を付けたのは外国文学だった。それも未来を背負う子供達に向けた物語を分かりやすく紹介すること。
カシの物語を読んでいると、傍から見れば成功者で信じた道を突き進むパワフルウーマン。
だが幼い頃に養子先を転々とし、実父から見捨てられたと感じたカシにはフェリス・セミナリーだけが自分の『ホーム』だった。
なのに自分の母鳥、父鳥と呼んだキダー夫妻もフェリス・セミナリーから旅立っていく。どれほど辛かっただろうと想像する。
そして理想の伴侶に出会えたと結婚した巌本善治もまたカシの思いとは裏腹に家には居つかず、自分の信じる活動へと突き進んでいく。
表面の輝かしい実績の裏で、カシには葛藤や劣等感、淋しさを抱えていた。
個人的には名前が出る主人公よりもその影でバックアップしている妹・みやや、『小公子』推敲を手伝う桜井彦一郎(鴎村:後に津田梅子の学校創設に協力)の方を注目してしまう。カシの仕事や功績は彼らのような縁の下の力持ちあってこそだったのだとも思う。
梶さんらしくとても読みやすく主人公の思いにも入っていけた。この時代の女性らしく自分が信じた道を悩み時に転びながらも突き進む姿が清々しい。
欲を言えば、カシたちがどのように英語の習得をしたのかを知りたかった。今のように英語学習アプリがあるわけでもないし、繰り返し英語を聞けるテープやCDなど無い。ましてカシは給費生として学費が払えない代わりに教師の手伝いや雑用などもこなさなければならない。どのように時間を捻出し優秀な成績を修めることが出来たのか。
読後津田梅子氏を調べていて知ったが、作中カシが婚約破棄した世良田亮は津田梅子にも縁談話を断られている。後に別の女性と結婚しているが、二度も断られるとは同情する。フォローするが作中での人柄は穏やかで誠実だ。
ちなみにヴァイオリニストの巌本真理氏は善治・カシ夫妻の孫にあたるらしい。続きを読む投稿日:2022.09.28
海外文学『小公子』を日本で初めて翻訳した、明治時代の文学者・若松賤子(筆名、本名は島田カシ)の半生記。両親の実家が会津若松にあり、戊辰戦争の影響で横浜の商家に養女に出される。幼少期は波乱に富んだ時期を…過ごすが、12歳のとき横浜山手にある「フェリス・セミナリー」に入学して、文学者としての第一歩を踏み出す。明治時代初期の女性たちが、いかに苦労して職を得られるようになったかが、カシの成長とともに描かれた壮大な物語だった。続きを読む
投稿日:2023.08.20
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