「トランプ信者」潜入一年 ~私の目の前で民主主義が死んだ~
横田増生(著)
/小学館
作品情報
これは“対岸の火事”ではない!
ユニクロ、アマゾンの潜入ジャーナリストが単身渡米。トランプ陣営の選挙スタッフとなり戸別訪問1000軒超。「議事堂襲撃」では、警官の催涙スプレーまで浴びてーー「分断」「狂信」「暴動」すべて内側から見た。コロナ禍でノーマスク集団に囲まれ、時にQアノンに陰謀論を説かれ、時に反トランプ派に中指を立てられ、時にBLM暴動の銃声を聞きながら、たった独りでフェイクニュースと闘い続けた“不屈のルポルタージュ”、ついに刊行。
〈一見すると堅牢にも見える民主主義は、私たちが信じているほど盤石ではなく、意外な脆弱性をはらんでいる。アメリカで起こった“トランプ現象”を追いかけながら、民主主義が、どうやって道を踏み外し、どのように機能不全に陥り、崩壊の危機に直面するのかを考えていこう。〉(プロローグより)
(底本 2022年3月発行作品)
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【感想】
2022年11月8日に行われたアメリカ中間選挙。大方の予想に反して民主党は持ちこたえたが、それでも下院を共和党が奪還する結果となった。そして15日には、トランプが2024年の大統領選に出馬す…ることを表明。20日はイーロン・マスクが、永久凍結されたトランプのツイッターアカウントを復活させ、瞬く間に8000万人ものフォロワーを獲得した。ひとことも呟いていないにもかかわらずだ。
トランプがバイデンに敗れてから2年経った今でも、暴君は健在であり、再びアメリカの頂点にのし上がろうとしている。トランプを支持する「信者」の勢いは留まることを知らず、大統領の復活に向けて力を高めている。
筆者は、そうした「トランプ信者」の正体に迫るため、コロナ禍から大統領選敗北までの約1年強、アメリカで潜入取材を敢行した。本書の説明文には「トランプ陣営の選挙スタッフとなり戸別訪問1000軒超~」とあるが、戸別訪問の様子を綴ったのは2章(50ページ)程度。どちらかといえば支持者集会への潜入や、BLMデモ、議事堂襲撃事件への突撃取材にページを割いている。BLMデモにもコロナ規制抗議デモにも、背後には必ず白人至上主義者から成るトランプ信者が潜んでいる。そうした人々にインタビューを行い、トランプを崇拝する理由を問うことで、アメリカの分断の最前線を辿っていく。
タイトルにもある「トランプ信者」だが、これは普通の「トランプ支持者」とは違う。トランプが語ることならなんでも信じ、トランプが負けたという事実すら受け入られず、さまざまなウソや陰謀論を用いて事実を捻じ曲げようとする人びとのことである。
例えばコロナ規制に関して。トランプはコロナの感染力を軽視し、入国者の隔離に及び腰だったため、結果的にアメリカを世界最悪の死亡者数に押し上げたのだが、トランプ信者たちは「トランプはコロナの犠牲者を最小限に抑えた」と主張する。その事実は統計を見れば明らかに嘘だと分かるのだが、逆にアメリカの政府機関であるCDCが発表する新型コロナによる死亡者数をフェイクニュースと呼び、トランプには責任がないと主張する。また、CNNやワシントン・ポストが発表するニュースも嘘だと言い、真実はトランプのTweetの中だけにあると叫ぶ。
また、大統領選でバイデンに敗れたことに関しても、トランプは勝手に勝利宣言を行い、得票数が少ないことに関しては、「民主党に票を盗まれた」と主張する。選挙結果の無効を訴えて各州で裁判を起こし、最終的には州務長官に「選挙結果をひっくり返せ」と命じる。もはや精神病じゃないかと思うぐらいの狂乱ぶりなのだが、信者たちはこのトランプの主張にも本気で耳を貸す。そしてその根拠は、「闇の政府によって真実が覆い隠されている」という、証拠にもならない妄言。だが、これを何百万人もの人が本気で信じたことで、最終的に「連邦議会議事堂襲撃」という前代未聞の事態にまで発展していったのだった。
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感想だが、読んでいてずっと「信じられない」という思いが頭に浮かんでいた。何故そんな思考回路に至ってしまうのか。何故嘘まみれの男を神様と同一視してしまうのか。日本人である私からは全く理解できず、ただただ恐ろしかった。筆者は一応「キリスト教と陰謀論には親和性がある」とし、アメリカ人の陰謀論のかかりやすさを指摘しているのだが、それにしても子どもの妄想レベルの話を何故信じてしまうのか、と絶句してしまう。トランプ自身の妄言と暴走も常軌を逸しており、「アメリカはとんでもない国だな……」と開いた口がふさがらなかった。
個人的には、昔のトランプの様子が書かれているのがとても新鮮に感じた。
トランプはもともと民主党寄りで、富裕層に増税を課すことや、雇用者の国民皆保険制度の導入、同性愛者の軍隊への入隊許容などを政策として推していたことがある。人工妊娠中絶に関しては、「俺は、女性が選択する自由を尊重する」という中絶擁護派の立場をいったんは表明している。しかし、その後支持政党を二転三転させているように、トランプの考えるポリシーはあくまで売名行為の一貫だったのだが。
また、テレビマン時代のトランプの経歴も興味深かった。落ち目だったトランプが「アプレンティス」に出演して大逆転し、真のキャリアを持ったビジネスマンとして米国人の目に映るようになったこと。アプレンティスでの成功が16年の出馬を決定づけ、そこから大衆迎合主義的な手法と、嘘と陰謀論の操り方を学んでいったこと。トランプの源流には「サラ・ペイリン」という女性副大統領候補がいたこと。こうしたルーツは、2016年以降の「大統領ドナルド・トランプ」時代しか知らない多くの日本人にとって、貴重な情報だと言えるかもしれない。
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【まとめ】
1 その日、民主主義が死んだ
「連邦議会議事堂襲撃事件」は、分断を煽り、混沌を作り出した4年間のトランプ現象の帰結だった。
トランプはあらゆる場面で、自分の味方と敵に分け、味方を絶賛し、敵を扱き下ろした。その最たるものが、主要メディアへの対応だ。トランプに敵対する論調を張るメディアを「フェイクニュース」として罵倒し続けた。ニュースそのものが、フェイクであるのか、事実であるのかは関係ない。自分に盾突くメディアは何であれ、フェイクニュースと呼んだ。
トランプは、トランプが語ることならなんでも信じたいという鉄板支持層を開拓することに成功した。その中心となったのが、近い将来、人口比では少数派に転落することを不安視した白人層だった。
トランプとは、これまでの4年間、分断と混沌が作り出した対立軸という細いロープの上を歩く曲芸師のように、絶妙なバランスを取りながら政権運営をしてきた稀有な政治家だと言うこともできる。トランプ支持者は、20年11月の大統領選挙で負けが明らかになった後でも、選挙に勝ったと言い張るトランプを信じて付き従ってきた。トランプ敗北後の2ヵ月で、トランプ支持者は、トランプの言うことをすべて飲み込むように信じる「トランプ信者」へと変わっていった。
4年前には選挙で大統領に選ばれながら、自分が選挙で負けると、選挙の結果を全否定し、自らの信者たちに暴力を煽り立てるトランプの姿は、民主主義からは一番遠いところにあった。これは現職大統領が企てたクーデターなのだ。
騒乱の中に身を置きながら、筆者はノートにこう走り書きした。「今日、アメリカの民主主義が死んだ」と。4時49分のことだった。
分断を煽った「トランプ現象」のもとで軽視されたのは、賛否両論を含め議論を交わすという民主主義の基盤であった。議論の土台にはさまざまな事実があり、それをどう解釈し、どのような優先順位をつけていくのかという根気強い作業が必要となる。しかし、そうした地道な作業を嫌ったトランプは、俺のことが好きか嫌いかという二者択一を迫るのが常だった。
2 支持者集会での一幕
筆者は「トランプをこの目で見てみたい」という思いから、単身アメリカにわたってトランプの選挙スタッフを一年間務めることとなる。
筆者と同じ思いを抱く「トランプ応援団」は、各地で開かれる支持者集会に詰めかけている。筆者はトランプ理解のための足がかりとして、支持者集会に集まるトランプ信者たちにインタビューを行った。
2016年から、自作のトレーラーで本土48州を回ってトランプを応援し続けているのが、ロブ・コーティスだ。
「大統領の言っていることは、いつも筋が通っている。それにほかの政治家とは違い、必ず約束を守るだろう」
平日はエネルギー関連会社で働き、日曜日はキリスト教右派の福音派の教会で牧師を務めているというデービッド・カーペンター。
「オバマは、イランやアフガニスタンなどの政策でぶれるところがあったと思っている。もっと一貫性を持ってほしかったね。外交面でオバマは弱腰に見えたんだ。それに対し、トランプは一貫しているよね。言うことにもやることにも、すがすがしいほどブレがない」
キリスト教徒であるロリー・ウォレンダー。彼女は「トランプが大統領になるのは、旧約聖書の預言が実現したのだ」という神懸かりな話を1時間近く続けた。聞いたこともない書籍の名前を次々と挙げ、子どもを犠牲にする悪魔崇拝の儀式や、同性愛者による結婚が蔓延しているが、それを阻止するために現れたのがトランプだという。
支持者集会にいよいよトランプが現れた。トランプは、大統領就任以来の功績として経済が絶好調であることを強調する。
「経済は成長を続け、賃金は上がり続け、労働者は好景気の成果を享受している。アメリカの将来が、これほど輝いて見えたことはかつてなかった。アメリカは世界から羨望のまなざしで見られているんだ。俺が選挙に勝って以来、700万人もの新規雇用を作りだしたんだ」
トランプは約1時間半の演説の間、原稿を読むこともなく、プロンプターを見ることもなかった。言葉を噛むことなく、数字や固有名詞も間違えず、よどみなくしゃべる。緩急をつけた話術は、聴衆の心をつかみ、飽きさせることがなかった。なかなかのエンターテイナーである。しかし、オバマのように聴衆を惹きつける華麗な演説とは違う。トランプの演説は、大衆の感情を煽りたて、不安につけこみ、怒りに火をつける扇動者を連想させる。
しかし、トランプが集会で述べた実績のほとんどには、嘘や事実誤認が含まれている。例えば、
・「貧困層こそが最も大きな経済的恩恵に浴しているんだ。下位10%の人びとの所得の伸びは、上位10%よりも上回る」という発言。しかし、最も所得が伸びているのは上位10%。
・「黒人やヒスパニック系、アジア系の失業率も、史上最も低い数字になっている」という発言。失業率の数字自体は正しい。しかし、失業率が改善し始めたのは、リーマン・ショックから米経済が立ち直ったオバマ政権下であり、トランプ政権はその恩恵に浴しただけ。
・「オバマ前政権のもとで、6万カ所の工場が閉鎖になった」。これは00年のブッシュ(子)政権からの合算数字だ。しかも、トランプ政権下の製造業の就職口の増加数は18年の26万4000件と比べると、19年は4万6000件へと大幅に減少している。
トランプは政権発足時から、累計3万回を超える嘘をついたと記録されている。
3 コロナvsトランプ
事の発端は、民主党出身の知事のグレッチェン・ホイットマーが4月9日、全米でも最も厳しい新型コロナ対策の行政命令を出したことだった。行政命令に対し、トランプを支援する共和党の団体から、やりすぎだとの声が上がり、それがデモにつながった。新型コロナ対策にへの大規模な抗議デモは、全米で初めてのことだ。
「大統領はよくやっている。新型コロナの対策と経済活動にはバランスが重要だ。トランプは、そこのところをよく分かっている。だから、復活祭の週末までには、経済を再開するつもりだったんだろう。それが、ホイットマーがしゃしゃり出てきて台無しにしたんだ」。デモ参加者である大工のビッグ・ジョンはそう語った。
「治療法が、経済を殺してしまっては元も子もない」。これは、トランプが3月下旬にツイッターでつぶやき、その後もマントラのごとく繰り返した言葉だ。それが支持者の口からも語られるようになる。
アメリカのコロナ対策は、トランプのせいで迷走に次ぐ迷走を重ねてきた。2月末日には、アメリカ初の死者が出たが、ウイルスが徐々にアメリカを侵食していく間、トランプは、新型コロナの危険性を打ち消すことに躍起になっていた。
トランプが公式な場で新型コロナに言及したのは1月22日が最初。前日、アメリカ国内で最初の感染者が出たことに関して、質問する記者に、「完全にコントロールしている(totally under control)。中国から帰国してきた1人が罹患しただけだ。すぐに大丈夫になる」と答えている。
1月31日に中国からの渡航に制限をかけたものの、その一ヶ月前にはすでに50万人強がアメリカに入国しており、2月に入ってもさらに7万人のアメリカ人やその家族が帰国していた。つまり、中国との国境管理はザルだった。
アメリカの株式市場はアウトブレイクの懸念に大きく動揺し、株価が急落する。
そして、トランプが新型コロナ対策のために揃えた感染症専門家は、全てトランプの忠誠心の高さを優先した人物ばかり。トランプ自身が「コロナは大したことない」「消毒液を体内に注入すれば治る」と科学を軽視したこともあり、ウイルスの襲来に対応できなかった。
ミシガン州政府は多くの店に店舗を閉じるように行政命令を出した。そんな中、ミシガン州で営業している唯一の理髪店の店主、マンキーはこう語った。「少しは怖いよ。ただ私は恐怖に支配されて生きたくはないんだ。いつも恐怖におびえながら生きているのは、本当に生きているとは言えないだろう。家から出れば交通事故に遭うこともある。風邪をひくこともある。インフルエンザをうつされることだってある。けれど、怖がるばかりでは、家から一歩も外に出られない。それより、アメリカ人としての働く権利を大切にしたいんだ」
「(16年の大統領選では)トランプに投票した。彼は、今から10年前や、10年後なら、大統領としてふさわしくなかったかもしれないが、今の時代に求められる大統領だと思っているよ。私が生まれたときは、民主党のルーズベルトが大統領だった。その後60年代まで、民主党は言論の自由や黒人の人権を守るために戦う党だった。けれど、60年代から今日になるまでのどこかで、民主党と共和党の役割が入れ替わったと思っている。今は、民主党の知事が私の店を閉鎖して、私の働く権利を侵害しようとしている」
「日本人から見ると、アメリカ人は不思議な存在に見えるんじゃないかな。アメリカ人の精神の核と強烈な独立心があるんだ。誰にも頼らずに生きてきた開拓者精神が今もアメリカ人には残っている。 『三銃士」の話を知っているかい。そこに出てくる、『 1人は全員のために、全員は1人のために 』って言葉があるだろう。全員は1人のために、を突き詰めていくとアメリカになる。1人は全員のために、の先にあるのは旧ソ連を含む共産圏の国々になるんだ」
4 BLM運動
BLMデモをめぐる報道を見ていると、抗議デモを正当化したい人びとは、一部の暴徒は白人至上主義者が操って、その趣旨を貶めようとしている、と言う。抗議デモを否定したい人たちは、極左勢力が抗議デモに乗じて略奪を働いている、と言う。
この日、ミネソタ州のトランプ寄りの右派勢力が、フェイスブックに「アンティファがミネアポリスにやってきた」と書き込んでいる。アンティファとは、トランプが厳罰の対象とすると言及した急進左派グループだ。しかし、この書き込みにも根拠はない。言っていることは正反対だが、責任は反対勢力にあると言いたい点では共通している。もう1つの共通点は、いずれの説も証明されておらず、陰謀論の枠組みから出ていないことだ。
フロイド事件後の略奪や放火などで、ミネアポリスの1500軒以上のレストランや小売店舗、雑貨屋などが被害を受けた。被害額の推計は、5500万ドル(約60億円)以上に上る。そうした甚大な被害に直面しても、それに理解を示す理由はどこにあるのだろう。
筆者は略奪を受けたホーム・デポの店長であるチャウ・ドゥーにインタビューした。彼はベトナム系アメリカ人である。
「暴徒に対しては、同情的な気持ちだね。悪い人たちも混じっていたけれど、そのほとんどは他所から抗議デモに便乗してきた人たちだと思うよ。多くの人は、いい人たちだよ」
「この街に住んでみないと分からない事情がある。長年、警官におびえるようにして生きてきた人たちは、今回の事件で、自分たちの不安が映像になって表れた、と思った。それが怒りとなり、抗議デモにもなったけれど、一部は略奪にもつながった。ジョージ・フロイドの事件はきっかけに過ぎない。この地域社会が、警官の監視のもとで暮らしているような息苦しさが分からないと、この怒りはなかなか理解できない」
制度的人種差別がアメリカに存在するかと訊かれたトランプは、次のように答えている。「俺は、そうは思わない。警官は素晴らしい仕事をしている。その中に、たまたま悪いやつがいるだけだ」
「(制度的人種差別の話をするのなら)物事の反対の側面も見なければならない。(オレゴン州)ポートランドやほかの場所でもデモ参加者による暴力が頻発している。それについては、どう思うんだ?事実、とてつもない暴力だぞ。俺達は、それをすぐに鎮圧しなければならない」トランプの関心は、制度的人種差別を改善することではなく、抗議デモを徹底的に制圧することだった。
「ヤツらはテロリストだ。この国に悪いことが起こるのを望んでいるんだ。ヤツらは「アンティファ」だ。極左集団だ」
デモ集団を罵るトランプは、デモの鎮圧に軍隊を派遣することを繰り返し主張している。抗議デモが長期化すると、トランプは、軍部や警察の幹部に向かって、「ヤツらの頭蓋骨を割ってやれ!」「ヤツらを撃つんだ」「(撃ち殺すのが無理なら)脚や足を撃て」などと何度も命令を下した。しかし、軍部の強硬な反対に遭い、実行されることはなかった。
5 大統領選敗北とトランプ信者誕生
2020年11月3日の大統領選挙。FOXニュースがバイデン勝利を早々に報道する。トランプがリードしていた激戦州での得票差が、夜が更けるにつれ徐々に縮まりつつあった。多くの州では、当日分の投票を先に数え、その後で、郵便投票を数えたからだ。
トランプが郵便投を敵視したため、多くのトランプ支持者は当日、投票所に足を運んだ。一方、バイデン支持者の多くは、新型コロナ対策として郵便投票を使っていた。その郵便投票を後で数え始めるなら、トランプのリードが縮小することは初めから予想できた。しかし、夜10時の時点で勝利を確信していたトランプにとっては、戦況が次第に不利になることが、不正選挙が行われている証拠のようにみえた。
トランプは、こう喚き散らした。「なんでまだ投票を数えているんだ?」「投票時間はもう終わったはずだ。ヤツらは、締め切り時間後に来た投票を数えているのか?」「一体全体、何が起こっているんだ?」「ヤツらは俺達から選挙を盗む気なんだ。俺達は、選挙に勝ったんだ」「地滑り的な大勝利だった。それを取り消すつもりなんだ」
予定外の選挙結果に混乱したトランプ陣営は、「選挙に勝利した」と嘘の宣言をし、未だ続く開票をストップするべきだと主張する。だが流石にこの暴挙に付き合い切れなくなった側近や腹心、さらには家族までもが、次々とトランプから離反していく。
7日の正午には各種メディアが大統領当確を打った。この時点で、例年であれば破れた陣営が敗北宣言をして選挙戦が終了となる。
しかし、トランプはそれまでも一貫して敗北を認めると明言することを避けてきた。そして、その言葉通り、20年の選挙において、トランプが明確に敗北宣言をすることはなかった。敗北宣言の不在が、この先2カ月の間、アメリカ国内を混乱と無秩序に陥れ、最後には暴動へとつながっていく。
州議会議事堂前には、すでに数多くの星条旗や「トランプ2020」の旗がはためき、「不郵便投票の集計をやめろ」や「合法的な投票だけを数えろ」などの手書きのポスターがあふれていた。バイデンが当選確実になったという事実に納得しない「トランプ信者」が、約200人近く集まっていた。
この集会の発起人の1人であるアダム・ハイロカーは、選挙当夜の午後10時から翌朝午前5時まで、デトロイトの開票センターに選挙監視人として詰めていた。投票の違法性を指摘できる役割を持っていたのだ。
「ミシガン州で3日の夜、開票が始まった時、トランプが圧倒的に有利だっただろう。それが、午前3時前後に、投票所のガラスに板を張り付けて内部を見られないようにしたんだ。その直後、出所不明の多数の投票箱が運び込まれた。箱に入っていた1万票のすべてがバイデンへの投票だったんだ。この選挙が盗まれたことは確かなんだ」
トランプ支持者の中には、トランプに投票はしたが、トランプが負けたことを認める人も含まれる。しかし、「トランプ信者」とは、トランプが負けたという事実を受け入られず、さまざまなウソや陰謀論を用いて事実を捻じ曲げようとする人びとのことだ。
トランプ信者は、どのようにして間違った情報に踊らされるのか。例えば投票を集計するソフトウエアである「ドミニオン」をめぐる陰謀論。まずは、右派系のメディアがデマを数本の記事にして流す。トランプ自身やホワイトハウスの報道官がその内容をリツイートする。それを受け、共和党全国委員会の委員長が記者会見を開く。こうしてトランプの勝利を信じたい人たちの目にはソフトウエアのデマが正当性のあるニュースであるかのように映っていく。
この他、死んだ人間がバイデンに投票している、中国共産党がバイデンと手を組んでいるなど、ネットには次々とフェイクニュースが溢れていった。
トランプ陣営は選挙結果の無効を訴えて各州で裁判を起こすも、当然ながら棄却される。また、激戦州の州務長官に、選挙結果をひっくり返すようトランプ自身が圧力をかける。「俺はただ1万1780票を、見つけてほしいだけなんだ。そうするとバイデンより1票多くなる。というのも、ジョージアで勝利したのは俺達なんだからな」
存在していない投票を、バイデンより1票だけ多く見つけてこい、とプレッシャーをかける現職大統領。民主主義の基盤をなす選挙結果を、トランプの思い通りに操作できるのなら、アメリカは民主主義国家ではなくなる。
6 連邦議事堂襲撃と民主主義の終わり
「政界やメディア、金融界のエリートが、児童の性的な人身売買を行う悪魔崇拝者に操られている」など、Qアノンの基本的な陰謀論に同意する信奉者がアメリカ全体の1%に達している。彼らは同時に、トランプを悪魔崇拝者と闘う英雄として位置付ける。
アメリカ人はどうして陰謀論にのめり込むのか。
キリスト教と陰謀論には親和性がある。キリスト教では、この世界の背後には神という目には見えない支配者がいて、自らの意思で宇宙全体を導き、計画を実行しているというのが、その基本的な考え方だ。現実世界で見えている点と点を結ぶと、いつの間にか大きな絵が浮かび上がってくる。これは陰謀論と同じ構図だ。
アメリカは近代の合理主義と啓蒙主義から生まれた国なので、物事はすべて合理的に進むという歴史的認識がある。だから、少しでも不合理なことや、意図せざる物事が起き始めると、何かがおかしいのではないか、だれかがよからぬことを企んでいるのではないかという論理が自然に発生する。
トランプが選挙で負けたことを信じない信者は、「決定的な証拠は、闇の政府によって何層にも覆い隠されているんだから、それを一つひとつはがすのには時間がかかるんだ」と漏らす。
「今は、連邦議会が、民主主義に対するこの破廉恥な攻撃に立ち向かう時だ。この演説が終わったら、連邦議事堂に行進していこう。俺もその行進に加わろう。勇敢な連邦議会の議員たちを応援するためにだ。皆は力強さを見せなければならない。強くないといけないんだ」
トランプが信者たちにハッパをかけると、信者たちは議事堂に乱入した。
しかし、暴徒の行動が暴力的になるにつれ、トランプは、トランプ信者との距離を置き始める。それまで暴徒が自身の再選のために闘っていると喜んでいたトランプだったが、暴力行為が加速するにつれ、自分とは関係ないという立ち位置を取り始めたのだ。
「連邦議事堂に侵入したデモ参加者は、アメリカの民主主義を汚した。暴力や破壊活動に関わった者たちは、アメリカを裏切ったんだ。法を犯した者たちは、その代償を払うことになるだろう」
その後、バイデン新政権への政権交代について次のように語った。「連邦議会が、大統領選挙の結果を認定した。新しい大統領が1月20日に誕生する。俺が今、気にかけていることは、円滑で、秩序があり、切れ目のない政権移行を確保することだ」。ようやくトランプが、敗北を認めたのだ。
バイデンは大統領就任式でこう語った。
「今日はアメリカの日です。民主主義の日なのです。歴史と希望、再生と決意の日でもあります。長年にわたってアメリカは、新たな試練を受け、苦難に立ち向かってきました。私たちが今日、祝うのは選挙候補者の勝利ではなく、大義、すなわち民主主義の大義です。国民の意思が聞き入れられ、考慮されたのです。民主主義がかけがえのないものであることを、私たちは新たに学びました。民主主義とは、時にもろいものです。そしてみなさん、民主主義は今この時をもって、勝利したのです」続きを読む投稿日:2022.11.28
とても面白かった。
アマゾン、ユニクロ潜入とずっと読んできて、まさかアメリカへ行くとは想像もしてなかったけどアメリカ選挙の流れと有権者の声はとても興味深かった。
トランプって、大統領選挙に突然出てき…て当選したおっさん、くらいに思っていたけれど、アメリカではそれ以前からテレビに出てて知名度があったことをこの本で初めて知った。テレビがトランプを成功した経営者というイメージを広めていき、その土壌があったからトランプは大統領になれたのだなと思った。やっぱりテレビの力はすごいな。帰ってきたヒトラーっていう映画でも思ったけどヤバイ人を安易にテレビに出してもてはやすのは本当によくない。
あとこの本では、バイデンがどのようにして大統領候補になったのかも書かれていてそれも面白かった。(なにせこれを読んでる時の大統領はバイデンだから)
全然人気なくて崖っぷちまで追い詰められてかーらーの、黒人票獲得の大逆転、かつ対立候補の相次ぐ撤退でトランプの対抗馬になってて、別に人気があってとかじゃなかったのね。無難なところにまとまったのね。と。
しかし、後半のトランプ支援者がトランプ信者になっていき、襲撃事件につながっていく流れを読みながら、一体どうしたらよいのかと考えてこんでしまう。トランプ信者の人は筆者が、でもトランプのこんなところは問題では?とかニュースではこんな成果しか出てないよ?とか言ってみても、フェイクニュースだとかそうは思わないだとか聞き入れない。読むもの聞くものみんな自分の都合の良いメディアニュースばかり。トランプも演説で嘘ばっかりついてるし。
嘘ついてる側が嘘を正す方に、嘘の責任を押し付けるやり方っていうのも、それ日本でもあるーwって思った。
この本を読むと、トランプが嘘ばっかついてて政治思想のないしょうもない奴なのがよく伝わってくるけど、それを回避するのが本当に難しいんだなっていうのはエピローグを読み、また現在トランプが再選しそうな状況を見てもつくづく思う。
日本でも年1回ずつくらい、こういう政治の流れまとめなり記事なりがあればいいのになと思った。続きを読む投稿日:2024.04.02
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