Filmmaker's Eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方
グスタボ・メルカード(著)
/ボーンデジタル
作品情報
75本を超える名画のショットを25のタイプ別に解説「アメリ」のオドレイ・トトゥのキュートな表情が印象に残るのは?「ダイ・ハード」のハンス(アラン・リックマン)が憎らしく見える理由は?映画には、定番の表現の原則があります。そして、想像力を働かせ、それを覆した印象的なショットがあります。映像によるストーリーテリングをショットという観点から解説した「Filmmaker's Eye」は、映像がどのようにしてストーリーを伝えるかを明らかにしています。この知識を応用することで、観客に届くストーリーテリングのための画面構成ができるようになります。また、画面構成だけでなく、技術的な側面からの解説も加えられているため、ショット1つひとつに意味のある効果的な選択をし、その設計を映像として実現する基本知識が身につきます。映画制作者であり、ニューヨーク市立大学で映画制作を教える教授でもある著者が、選りすぐりの名画からフルカラーの画像を使用して、以下の4つの観点から分析と解説を加えていきます:-定番ルール: 各ショットタイプについて、そのショットの定義と、定番の用途を紹介-実用例: 実際の作品を例にとり、ショットの各側面について、ショットを際立たせているもの、視覚上の原則、技術的な観点、映像制作テクニックをキャプションで解説-技術的側面: 狙ったショットを可能にするために必要な、機材、技法、考慮すべき変動要素-ルールを破る: ルールを覆し、独創的な表現とスタイルを実現したショットの例
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
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今までそれなりの数の本を読んできたし、人並みの読解力もあるかなと思っているけれど、映画の鑑賞は未だによく分からない。ストーリーを追うことはできるが、それだけなら文字起こしされたあらすじを読むのと何が…違うのか、と。この本は、映画好きの友人に教えてもらった。
本書の最初は、映像における構図の原則に関する解説である。例えば、有名なヒッチコック監督の名を冠した「ヒッチコックの法則」。これはとても単純で、"「フレーム内のオブジェクトのサイズは、その瞬間においてそのオブジェクトがもつストーリー上の重要度を直接反映すべき」(p.7)"というものである。大雑把に言えば、大事な被写体を観客に印象づけたければ、その分大きく映せばよいということなのだろう。
それに続くのが、よく用いられる25個のショットの紹介とそれらがもたらす効果の分析である。クローズアップやロングショット、ドリーショットに主観ショット、・・・と沢山あって少々ややこしいが、本書では、実際の映画でそれぞれの技法が使われている場面が合わせて紹介されている。文章だけだとなかなか分かりづらいところが、これらの実例のおかげでイメージしやすい。本書全体のスタンスとしても、理論的というよりは実践的という感じだろうか。僕は興味がなかったのでほとんど読み飛ばしたが、それぞれのショットに相応しいカメラ(焦点距離、f値など)やライティングの注意点、撮影に必要な機材も解説されており、これから映像制作に挑戦しようという人には参考になるのだと思う。
ショットが及ぼす効果には、理屈を説明されてみれば至極当然に思えることも多いけれど、こうして改めて言語化・概念化することにはやはり意味がある。その一方で、繰り返し強調されているのが、構図の原則は決して絶対的ではなく、映像制作の技法というのはあくまでストーリーや文脈に沿ったものだということだ。スティーヴン・スピルバーグ監督の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の1シーンでは、一般的には権力や支配を示唆するローアングルを、適切な文脈の下で用いることで登場人物(インディ・ジョーンズ)の苦しみ・弱さを表現することに成功している。映像制作者は、便利と同時に安易な「定跡」に満足することなく、日夜新しい表現を開拓し続けているということなのだろう。いずれにせよ、構図が観客の感情に与える影響の絶大さがよく分かる。
本書を読んでいて伝わってくるのが、画面の構成要素に不要なものは何一つとしてない(そして、制作者はそのような映像を作るべきだ)という筆者のメッセージである。1つのエピソードが紹介されている。あるとき、筆者は駆け出しの監督が制作した短編映画の試写会に招待された。上映後、質疑応答の時間。「カップルが喧嘩していたのは、(画面の前景に映っていた)TVゲームが原因ですか?」実際には、TVゲームはただ映りこんでいただけで、ストーリー上の意味はまったくなかったのである。参加者はみな大いに困惑することになった。
"この監督が犯した最大の過ちは、ストーリーの意味を反映させた構図をつくらなかったことです。結局はストーリーとは無関係であると判明した細々としたものをびっしりと詰め込んだ、視覚情報満載の冒頭シーンをフレームに収めたことで、監督が観客に伝えようとしていたポイントが伝わらなかったのです。(略)早い話が、この監督は自分の映画のストーリーを映画としての視点からとらえていなかった、言い換えると、ストーリーを語るうえで重要なディテールを視覚的に強調するような構図をつくっていなかったのです。(略)しっかりとストーリーを伝えたいならば、最も重要なのは、ストーリーの明確なビジョンをもつことです。(p.1)"
俳優の演技やストーリーと同時に映像技法にも目を向けながら映画を鑑賞するというのは、ただ単に使用されているテクニックに感心するということではない。そのテクニックによって画面のどこに力点が置かれているかを読み取ることで、「制作者は観客に何を伝えたいのか」をより深く理解するための手がかりとするということなのだと思う。
一つ不満なのは、翻訳の下手さ。タイポが多いのは置いておくにしても、如何にも直訳という感じで読みづらい。
フレームを決める
構図の原則と技術面の概要
イメージシステム
1 超クローズアップ
2 クローズアップ
3 ミディアムクローズアップ
4 ミディアムショット
5 ミディアムロングショット
6 ロングショット
7 超ロングショット
8 肩越しショット
9 エスタブリッシングショット
10 主観ショット
11 ツーショット
12 グループショット
13 ダッチアングルショット
14 象徴ショット
15 抽象ショット
16 マクロショット
17 ズームショット
18 パンショット
19 ティルトショット
20 ドリーショット
21 ドリーズームショット
22 トラッキングショット
23 ステディカムショット
24 クレーンショット
25 シークエンスショット
掲載映画作品リスト
索引
参考URL
・映画『ジョーカー』の撮影:カットを分析
https://kashacamera.com/knowhow/joker-photography/?amp=1
・カット、シーン、シークエンスの違いの整理
https://orita-ani.net/scene-different-from-sequence/続きを読む投稿日:2023.02.05
よいですね。
写真や映像は感覚であると言われることが多いですが、そこにはしっかりとした基礎・技術があり、それらを駆使した作品が名作と呼ばれます(もちろんストーリーや俳優の力も多いにあります)。感覚のみ…で積み上がるものはありません。
私は写真専門ですが、映像技術もとても参考になりました。映像好きな方にはオススメです!少し高いけど!続きを読む投稿日:2022.08.12
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