噂を売る男
梶よう子(著)
/PHP研究所
作品情報
江戸の町に、世の理不尽と戦う「情報屋」がいた! その名は、藤岡屋由蔵――。神田旅籠町の一角で、素麺箱に古本を並べ、商売をするこの男が、古本販売を隠れ蓑に売っていたのは、裏が取れた噂や風聞の類。それを買いに来るのは、喉から手が出るほど“情報”がほしい各藩の留守居役や奉行所の役人だった。由蔵が己の仕事として心に刻み込んでいたのは、真実を見極め、記すこと。筆一本で戦う由蔵のもとに、ある日、幕府天文方の役人が逃げ込んで来る。その役人は、日の本を震撼させたシーボルト事件に絡んでいた。しかしその騒動のとばっちりで、由蔵の手下が命を落としてしまう。手下の理不尽な死を許すことができない由蔵は、真実を暴くため、動き始めるのだが・・・・・・。天下を揺るがす陰謀に、“情報”で挑んだ男を活き活きと描く傑作歴史小説。
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この作品のレビュー
平均 3.8 (8件のレビュー)
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古本屋の傍ら『噂』を必要な人間に売っている由蔵が、あのシーボルト事件に巻き込まれていく。
由蔵の父は養蚕家だったが詐欺にあって病の蚕卵を買い、自身だけでなく集落の蚕まで死なせるという大変な事態を招く…。そのせいで父は自害、母は心労死、由蔵は周囲の子どもたちから『うそっこき由蔵』と非難される。
長じても父親のしたことは消えず、江戸に来れば『うそっこき』ではなくなると心機一転働くが、そこでもまた大奥の『嘘』で大切な人が追い込まれ死に至る経験をする。
『噂に惑わされ踊らされ、果ては大勢が信じ込み噂が嘘でなくなっていく』
『嘘で固められた「真実」など、あっちゃいけねえんだ』
力も後ろ楯もない由蔵が、集めた『種』で動く奴がいる、役立てる者がいることが面白いと始めた情報屋。裏取りをした確かな情報しか売らないが、それを使うか生かすかは買った者次第。
序盤の加賀前田藩に輿入れした将軍の娘付き女中頭をギャフンと言わせる話からしてモヤモヤしたのだが、シーボルト事件は更にモヤモヤした。
ここではまたもや由蔵の可愛がっている後輩が殺されてしまう。
自分を責め殺した者に復讐したい由蔵だが相手は一介の町人が太刀打ち出来る相手ではない。
今村翔吾さんなら太刀打ち出来る大物の味方が出てきたり数を力に正面突破したりとんでもない裏技で一泡ふかせたりするところだが、梶さん作品ではそうはならない。
大奥事件では町方同心が代わりに一矢報いてくれたが、この件では翻弄されてばかりだ。
力も後ろ楯もない由蔵には何も出来ないのか。
シーボルト事件の解釈としては興味深い点もあった。間宮林蔵など蝦夷地探検家としてしか知らなかったので意外なキャラクターだった。
いい加減な話に騙された父親を憎みつつも人を完全には遮断出来ない、どこかで信じる気持ちがあるからこうして振り回されるのかも知れない。
代わりに武家に商人に女の子にと様々な人たちに慕われている。
今回の件を糧に、強かな由蔵が生まれるだろうか。噂を自在に操るくらいの器用さがあれば面白いのだが正義感が強い彼には無理か。続きを読む投稿日:2022.07.02
以前、このような仕事をする 小説を読んだ記憶がある。
その主人公は、ご隠居の身分だったが、やはり、このような外で、毎度、筆を持ち、書き記している内容で、事件の探索の出来事や以前のお裁きの内容などをヒン…トに、事件解決していったと、…
この梶ようこ氏の主人公は、生まれた時は 裕福であったにも関わらず、父親が詐欺の話にひかかり、自らの命を絶ち、祖母に育てられる。
しかし、やはり皆から虐められ、育つ。
何も悪い事をしたわけでもないのに、この理不尽さを胸に刻み込んで、江戸に出て来た主人公。
物語は、軒下の古本屋である 藤岡屋由蔵の所に 加賀前田家の聞番の佐古伊之助が、噂を買いに来る事から始まる。
只の噂でなく、裏の取れたもの、市民の風聞など、自分で見たもの、確かめたものを書き記している由蔵。
最初から、軒下を借りている足袋屋の娘おきちとの会話も面白く、物語に集中してしまう。
しかし、シーボルト事件へと、話が進むにつれて、由蔵が、虐められて育った境遇で、この世の納得出来ない事に、立ち向かって行く姿、一市民なのに、凄い!
間宮林蔵の不審な動きも、お庭番的要素を放ちながら、由蔵の友を殺害した者も言葉の駆け引きで、お縄に!
小説とは言え、昔の史実をも、描き出している。
最後に おきちの無邪気さが、厳しいお裁きの話を和らげてくれていた。続きを読む投稿日:2022.09.06
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