この国の不寛容の果てに 相模原事件と私たちの時代
雨宮処凛(編著)
/ボイジャー
作品情報
貧困化する日本では、命の選別も仕方ないのか?
「生産性」「自己責任」「迷惑」「一人で死ね」・・・・・・
刺々しい言葉に溢れたこの国で、男は19人の障害者を殺害した。
「莫大な借金をかかえた日本に、障害者を養う余裕はない」との理由で。
沈みゆく社会で、それでも「殺すな」と叫ぶ7人の対話集。
対談=
神戸金史(RKB毎日放送記者)
熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術センター准教授、小児科医)
岩永直子(BuzzFeed Japan記者)
杉田俊介(批評家、元障害者ヘルパー)
森川すいめい(精神科医)
向谷地生良(浦河べてるの家ソーシャルワーカー)
【目次】
序章 私自身の「内なる植松」との対話(雨宮処凛)
1章 植松被告は私に「いつまで息子を生かしておくのですか」と尋ねた 神戸金史×雨宮処凛
2章 「生産性」よりも「必要性」を胸を張って語ろう 熊谷晋一郎×雨宮処凛
3章 命を語るときこそ、ファクト重視で冷静な議論を 岩永直子×雨宮処凛
4章 ロスジェネ世代に強いられた「生存のための闘争」の物語 杉田俊介×雨宮処凛
5章 みんなで我慢するのをやめて、ただ対話すればいい 森川すいめい×雨宮処凛
6章 植松被告がもしも「べてるの家」につながっていたら 向谷地生良×雨宮処凛
【著者】
雨宮処凛
作家・活動家。1975年北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人、週刊金曜日編集委員。
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この作品のレビュー
平均 4.3 (20件のレビュー)
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「障害者は不幸を作ることしかできません」と言って障害者施設で19人を殺害した相模原事件。一報を聞いて、雨宮処凛は「とうとう起きてしまった」と思ったという。
2000年代に始まった、自己責任論の蔓延、…ヘイトデモ、嫌韓嫌中ブーム、生活保護や貧困パッシング、2018年に杉田水脈の「LGBTには生産性がない」発言。
実はその前には公務員パッシングもあった。「いい給料をもらい、安定した雇用のもとに楽をしている。」と。
←このように並べると、政治家はこれらの意見に乗ってその後の悪法や経済政策、外交を進めたのだと気がつく。まさか、内閣調査室が仕掛けた!?
「公務員を通り越して、生活保護利用者や障害者が「特権」とみなされるなんて、この国の人々の生活はどこまで地番沈下してしまったのだろう」
(11p)と雨宮処凛は嘆く。
←学術会議任用拒否問題に対しても、同じ構図が広がっている。「彼らは特権階級なのに、何を守ってあげる必要があるのか」。
この序章の「問い」から発して、雨宮処凛は6人の識者と対談をして、昨年9月に発刊した。基本的に彼らの意見に9割方賛成する。問題点はかなり整理されて提示されている。が、紹介しない。
「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」ではないが、世界の片隅でひっそりと語られた会話では、その流れは止められない、止まらない。
彼らの幾人かは植松被告と直接対話を試みたが、もはや植松被告に聞く耳は無かったようだ。
加藤周一は、世界を変えるのは「科学」ではなく「文学」だと言った。それは狭義の意味ではなく、かなり広い意味であることは明らかである。文学といい、哲学といい、歌といい、体験といい、世界観が変わるためには特別なモノが必要なのだが、正解はない。わたしはずっと「体験」が必要だと思っていた。生活保護問題にしても、貧困問題にしても、パッシングしている人は、彼らと「直に」関わっていなかったからだと思っていた。けれども植松被告は、「やまゆり園」そのものに勤めていたのだ。予め殺すべきだ、と思って勤め出したとしても、直に接することでその世界観に揺らぎは起こらなかったのか?わたしは自説を修正せざるを得ない。
どうして、バブル時代は公務員パッシングが生まれなかったのか?植松被告はこのまま「借金が膨らむと大変なことになる」と犯行に及んだが、どうしてステルス戦闘機F35を6.2兆円で147機購入(維持費含む)することに、大きな非難の声が上がらないのか?
いかん、ダラダラ言葉を並べ出した。何の意味もないのに。
植松被告については、それから一年後死刑が確定し、これ以上の事件の解明は難しくなった。
※テレビで「鬼滅の刃」を見ていると、なぜか植松被告が、悲しい運命を持つ鬼たちの姿と重なった。アニメもこの事件も、時代が作っていることでは共通性がある。続きを読む投稿日:2020.10.18
このレビューはネタバレを含みます
読み進めていくと、どんどん、自分の内なる部分の様々な感情や醜さが、作品によって言語化されていった。
レビューの続きを読む
優生思想や安楽死など、様々なテーマについて相模原事件を切り口に対談が行われている。これらのテーマにつ…いて、ある程度自分なりの考えを持っていたはずなのだが、作品を読み進めていくと、それがあっているような間違っているような不思議な感覚を覚え、何が正解か分からなくなってしまった。
この本を読むことで、安楽死などの難しいテーマについての答えが得られた訳では無く、むしろ自分の考えが揺らいでしまったが、それでいいと感じる自分がいる。
この本を読む意義は、自分や他人の命について答えを知ることではなく、見つめ直すきっかけとすることが答えなのではないだろうか。続きを読む投稿日:2023.02.12
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