感染の法則:ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで
アダム・クチャルスキー(著)
,日向やよい(訳)
/草思社
作品情報
なぜ金融危機と感染症の伝播は似ているのか?
私たちの日常を陰から支配する驚くべき「感染のルール」の数々を、数理モデルが明らかにする、これ以上ないほどタイムリーな1冊!
コロナウイルスのような感染症の脅威は言うまでもなく、金融危機の連鎖から、ネットミームの拡散、犯罪や自殺の伝染まで、私たちはあらゆる「感染」に囲まれた時代を生きています。
本書は、数理モデルを用いることで「どのように物事が広がり、収束するのか」をわかりやすく解明します。
この「感染時代」に生きるすべての人々におくる「知のワクチン」。
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この作品のレビュー
平均 3.2 (5件のレビュー)
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当たり前だが、ウイルスには感染力がある。新製品やオンライントレンドなどの社会的現象にも同じような性向が見られ、我々はそれをしばしばウイルスの感染に擬えて論じたりする。しかし、これらの事象について「な…ぜそれほど速く(あるいはゆっくりと)蔓延したか」「なぜピークアウトしたか」「似たような感染爆発はまた起こるのか」といった、感染という現象そのものを直接対象とした問いを耳にすることは意外なほど少ない。それらを説明する「感染爆発の一般原則」はあるのだろうか?あるとしたらどのような法則なのか?感染的な個々の現象それぞれがもつ特質を剥ぎ取って、その背後にある共通の原理を取り出し、新発事象に当てはめて対処法を練ることはできるのだろうか?折しもCOVID-19感染爆発の最中、ケンブリッジの若き学者が数理モデルを武器に様々な感染の裏側に潜む傾向を炙り出していく。対象はマラリアやコレラなどの伝統的感染症から、金融危機、犯罪や自殺、そして最も今日的な題材であるネットミームやコンピュータウイルスに及ぶ。
ウイルスの感染爆発には以下の①〜③が必要条件とされる。即ちウイルスに①一定の感染性があり、かつ感受性のある人同士が活発に交流し②感染可能な機会が用意され、③残存未感染者が一定数いる限り感染者数は増大する。そして感受性のある人が十分に感染してしまい、ウイルスに固有の再生産数Rによる感染拡大が維持できなくなるほどに残存感受性保持者が減少し感染の機会が減少した時に、感染のペースは鈍るのだ(この時点で一旦「集団免疫」が獲得されるが、このことは長期的にもはや感染爆発が起こらないことを意味するものではない)。ここから、ウイルス感染拡大のパターンはイノベーションやライフスタイルの普及にも見られるとする、マラリア感染源の発見で史上2人目のノーベル医学生理学賞受賞者となったロナルド・ロスの「出来事の理論」が派生してくるのだ。本書はこの「出来事の理論」をベースとしながら、感染性のある現実の様々な出来事の個別性にも目を向けていく。
例えば、オンライン上でのアイデア拡散には「インフルエンサー」の確保が必要と思われがちだが、その実「影響力が強く、かつ影響も受けやすい」というインフルエンサーに要求される特性を持つ個人は極めて少なく、また競合の問題もあるため、少数のインフルエンサーからの爆発的拡散は望みが薄い。また、オンライン上の感染経路(カスケード)を見ると、個人から個人への経路よりも、単独の源泉から一気に多数の個人と広がる経路(ブロードキャスティングイベント)の方が影響が大きいことがわかるが、一方でオンライン上のコンテンツは伝染力がさほど強くない(せいぜい数世代しか伝播しない=再生算数Rが1未満)ため、一回の拡散でたくさんの個人にリーチする「ビッグシードマーケティング」をいかに大量に起こすかが要となってくる。
そうすると、ターゲットとして格好なのが影響力が大きい割につけこまれやすい大手メディアだということになり、公正なはずのメディアが自覚せぬまま関与させられ多くのネットミームの拡散に一役買うはめになるというわけだ。
このように興味深い事例が目白押しではあるのだが、それらがあまり整理されることなく記述されているため、物量が多い割にはまとまりがなく全般的に雑多な印象を受ける。もっと特異性の高い事象に的を絞って紹介した方がシンプルでより読者に伝わりやすい構成になったのではないかと思う。欧米の科学者による読み物は総じて結論が段落の冒頭に出されているのに比べ、本書は逸話を冒頭に持ってくるやや散文的な書き振りで論旨が把握しにくい。直訳風の文体も読みづらさに一役買っているのでは。さらに巻末の索引が間違いだらけなのも残念。続きを読む投稿日:2021.10.16
開始:2022/12/13
終了:2022/12/21
感想
感染に関するトピックのネットワークを辿っていく旅。日頃から伝染させ伝染しているがその実態はわからない。目に見えないが考えるべき事柄。投稿日:2022.12.13
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