カーテンコール!(新潮文庫)
加納朋子(著)
/新潮文庫
作品情報
閉校が決まった私立萌木女学園。単位不足の生徒たちをなんとか卒業させるべく、半年間の特別補講合宿が始まった。集まったのは、コミュ障、寝坊魔、腐女子、食いしん坊・・・・・・と個性豊かな“落ちこぼれ”たち。寝食を共にする寮生活の中で、彼女たちが抱えていたコンプレックスや、学業不振に陥った意外な原因が明らかになっていく。生きるのに不器用な女の子たちの成長に励まされる青春連作短編集。(解説・岩田徹)
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商品情報
- シリーズ
- カーテンコール!(新潮文庫)
- 著者
- 加納朋子
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2020.09.01
- Reader Store発売日
- 2020.09.01
- ファイルサイズ
- 0.5MB
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この作品のレビュー
平均 4.2 (144件のレビュー)
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『あなたはこのままじゃ卒業できませんよ』と言われたことがあるでしょうか?
ドキッ、ドキドキッ!と過去のあの瞬間を思い出したあなた!でも、もしそんなことを言われたことが過去にあったとしても、それは決し…て他人には話せない、死ぬまで封印したい、思い出しても冷や汗の出るような記憶だと思います。『やっべ、マジ私、単位ヤバいわー』、『私もだー、マジどうしよー』なんて会話をしているうちはまだ序の口です。結局のところ『いざ蓋を開けてみたら、大抵の子はちゃんと計算していて』予定通り卒業して去っていく、なんだかんだ騒いでもそんなものなのだと思います。しかし、そんな言葉が現実のものとなる方も当然にいらっしゃいます。あーあ、あと一年ここに通い続けるのかあ、というその瞬間。でも、そんな感想を言えるのはもしかしたら幸せなのかもしれません。なぜなら、そんな風にあと一年通える場所が今まで通りそこにあるからです。そんな場所が万が一にも無くなってしまえば『四年分の時間と学費をドブに捨てたような結末だ。ジ・エンド。私の人生詰んだわと、心底絶望』するしかないでしょう。
さて、ここに、そんな『心底絶望』する他ない人生を迎える一歩手前で手を差し伸べられた女子学生たちを描いた物語があります。それは、『今日からさっそく授業を始めます。君たちには何が何でも、否が応でも、卒業してもらわなければなりません』と、本来閉鎖される予定だった大学の理事長が授業を続ける物語。『おそらくは皆がみな、訳あり、難あり、ダメダメ』と何らかの問題を抱えて卒業できなかった女子学生の物語。そして、それはそんな女子学生たちが半年間限定の『特別補講』の場で『カーテンコール』を受けながら新しい人生に踏み出すきっかけを得ていく物語です。
『思えば幼児期がピークで、あとは長い坂道を、ただひたすら下っているような人生だった』と自らのことを思うのはこの短編の主人公の『僕』。小柄だったものの『運動神経だけは良かった』ので『戦隊ごっこでレッドをやることもあった』という『僕』。小学校に入り『クラスで一番のチビ』となり、気に入って選んだはずの『空色』のランドセルで浮いてしまった『僕』。そんな『僕』は、『筆箱でも下敷きでも消しゴムでも』、自身の気に入ったものに必ず母親が『こっちの方がいいんじゃない?』と言ってくることに気づきます。しかし、『最初の品を譲らず』、でも結果的に『おまえ、なにそれー』と学校で笑われる日々を送ります。『いつだって僕は、ちんちくりんでちぐはぐだった』と、『理想の自分と、現実の落差がありすぎる』ことに悩む『僕』は、『はっきりと苛められるようになってい』きます。そして、中学でも同じ憂き目にあった『僕』は、『高校こそは、なにがなんでも私立に行こう』と思い塾通いを始めました。そして、『中学二年の時』、『塾の自習室』で『その子』と出会います。『ちっちゃくて可愛い、女の子』が、『ミエ』という名前だと知って意識し出した『僕』。そのきっかけは『ブレザーのボトムに、スカートではなくズボンを選択していた』という彼女の着ていた制服にありました。『見た目はスカートが似合いそうな、可愛らしい女の子』なのに、『なぜ敢えてそれを選んだのかが気にな』る『僕』は、彼女が『杖をついていて、歩き方もぎこちない』のを『隠したがっている』と類推します。そんなある日、塾へ向かう道で前を歩く彼女を見かけた『僕』は、そんな彼女がよろよろし『うずくまるようにしゃがみ込んでしまった』のを目にしました。『あ、あの。どうしたの?』、『足、痛いの?』、『事務の人に、痛み止めとか』と矢継ぎ早に訊く『僕』に彼女は、『右脚のズボンの裾をちらりと捲』り、『義足なの』と答えました。『もうない足なのに、時々すごく痛むの。不思議だよね』、『ゲンシツウ(幻肢痛)っていうんだって』と続ける彼女。それ以降、『尊敬と畏怖と憧れ』の感情で彼女のことを見るようになっていく『僕』の想いはやがて『恋』へと変化していきます。そして、そんな彼女と同じ高校を目指したいと思った『僕』は、彼女の口から『萌木女学園附属高校』という志望校を聞いて愕然とします。『よりによって女子校である。僕には絶対無理だ』と思う『僕』は『後悔したくない』という強い想いから『好きです、付き合って下さい』と告白するのでした。しかし、無常にも『ごめんね。無理なの』と言われた『僕』は、塾にも行かなくなり『公立の方がまだマシ』という高校へと進学、そのまま大学へと内部進学し、『半引きこもり』となり卒業も叶わぬ事態になってしまいます。そんな『僕』は突如理事長に呼び出され面談を受けることになりました。『どうぞお入り下さい』と名前を呼ばれた『僕』。そんな『僕』に隠されたまさかの真実、そして理事長の元で始まった大学卒業へ向けての『特別補講』の日々が描かれていきます。
六つの短編が連作短編の形式を取るこの作品。そんな作品の舞台となるのが『三月で大学は閉校することに決まっていた』という『萌木女学園大学』で『卒業できなかった女学生たちを宿泊施設にひとまとめにして』半年間の期間限定で開かれることになった『特別補講』でした。『学校用地は丸ごと宗教法人に売却することが決定』した中、『理事長はもちろん、寮母を務める奥様も、講師の先生方も、ほとんど皆かなりのご高齢』というスタッフが10名ほどの『訳あり』な学生を『徹底的に外の世界から切り離し』て、確実に卒業へと向かわせる様が各短編に描かれていきます。そして、それらのスタッフ、特に理事長の角田は徹底的にコミカルにその存在が描かれていきます。『人の良さそうな丸顔と、つるりとしたハゲ頭』という見た目。そんな理事長が喋るのを『玉コンニャクがしゃべった』という表現。そんな角田の立場は『理事長兼学長兼寮長兼臨時講師』となんじゃ、それ?というなんでもありの状況です。とにかくあくまでもコミカルな設定で描かれる理事長に対して、主人公となる人物たちは、様々な問題を抱えた『訳あり』な存在です。その『訳あり』の内容はとてもコミカルに語れるものではありませんし、笑い飛ばすようなものでも決してありません。この描かれ方の落差には少し違和感を覚えるほどです。加納さんの作品では他の作品でもこういったある意味でのコミカルな設定が登場しますが、それによって話が重くなりすぎるのを中和する役割を果たしているように思います。決してふざけるのではなく、却って加納さんの優しさがそこに滲むような物語。そういった意味でもこの作品はいかにも加納さんらしい作品だと思いました。
そんな『特別補講』に参加することになった女子学生たちは、『図らずも、そして曲がりなりにも。おそらくは皆がみな、訳あり、難あり、ダメダメ集団』というようにそれぞれに何らかの問題を抱えていました。そこに登場するのは、『起立性調節障害』、『ナルコレプシー』、そして『拒食症』といった現実にある病名の数々でした。その名前を見た瞬間、私の頭の中に蘇ってきたのは加納朋子さん「トオリヌケキンシ」で描かれた物語世界です。『他の人とは少しだけ違う病気や能力、後遺症』に苦しめられる主人公たちを描いた六つの短編で構成された同作品は、そんな一見暗くなりそうな設定の物語が極めて前向きに大団円な結末を見るものです。そして、この作品で取り上げられるのは、それぞれに何らかの問題を抱え『どうしてこんなに駄目なんだろうと、ため息がでる。他の多くの人たちが普通にできることが、どうして私にはできないのだろうと』思い悩む女子学生たちの姿でした。『飽食の国に生まれて、どうしてこの子は飢え死にしかかっているような状態になっているのだろう?』という『拒食症』状態の細井茉莉子。『とにかくいきなり寝ちゃうの』という『ナルコレプシー』の症状に生活もままならない有村夕美。…と病名がつく症状は一見「トオリヌケキンシ」の延長線上にある世界観です。しかし、この作品ではそんな病名がつかない女性特有のさまざまな事情によって、結果的に『特別補講』の対象となった女子学生についてもその苦悩が描かれていきます。そんな彼女たちは自らが抱える悩みの中で長きに渡って打ちひしがれてきました。他者の存在を意識することは元より、他者を思いやる感情に至ることもないままに生きてきた彼女たち。そんな彼女たちが、『何しろ下界とは隔絶されている』という環境下で、お互いの存在を意識する中、それぞれの考え方にも変化が生じていきます。また、この作品で絶妙だと思ったのは基本相部屋となるその学生たちの組み合わせです。もちろん、そこには理事長の絶妙な采配が存在するわけですが、この組み合わせによってもお互いが絶妙に刺激されあっていきます。この組み合わせの内容を書いてしまうと、これから読まれる方の楽しみを完全に奪うことになるのでここでは控えます。是非、そのなるほど感を味わっていただければと思います。
そして、物語は、理事長が過去を振り返る最終章〈ワンダフル・フラワーズ〉へと進みます。そんな最終章でも一人の『訳あり』な女子学生が登場します。普通には重々しくなってしまわざるを得ないその『訳あり』な女子学生の状況の一方で、理事長が語る『昔話』が強い説得力を持って展開していきます。『萌木女学園創設者の角田大悟は、ご存じの通り私の父親です』から始まるその『昔話』。今までコミカルな存在として裏方に徹してきた理事長の角田。そんな角田は『訳あり』とされてきた女子学生たちへ『ここで私があなた方に伝えておきたいの』はと、ある言葉を語ります。それは、形だけの美辞麗句でも、立派な格言でも、そして感動的な名言でもありません。決して難しくなんかなく、誰にでも出来ること、でも決して忘れてはいけないというその『伝えたいこと』。他の作家さんならここまでじらしてこんなことを書くことは絶対にないであろう、その『伝えたいこと』の内容を読んで、加納朋子さんという作家さんが如何に心優しい人なのかを改めて感じました。ご自身もかつて急性白血病で苦しまれた過去を持つ、そんな加納さんならではの心からの優しさを感じさせる素晴らしい言葉、こちらも是非この作品を読む中で味わっていただきたいと思います。
『あなた方という、素晴らしい花たちと、学園最後の日を迎えられたことを、私は心より誇りに思います』と語る理事長の角田。そんな角田の前に『訳あり』とされてきた女子学生たちの姿がありました。しかし、そんな彼女たちは『特別補講』前の彼女たちと同じではありません。大学卒業ということ以上に、それぞれに何かを掴んだ彼女たち。『これより新しい舞台に立ち、新しい脚本で、新しい人生を演じる』というそれぞれの人生へと船出していく彼女たち。そんな彼女たちが卒業前にカーテンコールの如く見せてくれたそれぞれの人生の一つの転機が描かれたこの作品。沈鬱な設定が、コミカルに描写されるキャラクターの存在によって適度に中和されるこの作品。それは、加納朋子さんという作家さんの優しさに溢れる感情の発露をそこに見ることのできる作品だと思いました。続きを読む投稿日:2022.01.10
落ちこぼれ女子大生たちが奇跡を起こしていく物語。
閉校が決まった私立萌木女学園で、落ちこぼれ生徒たちを卒業させるべく、半年間の特別補習合宿が始まる。
そこに集まった者たちの抱えた様々な事情や苦悩が、理…事長の愛のある策略により次々と明らかになっていく。
そう、この理事長がとんでもなく素晴らしいのだ。
大学生が単位を落とすのは自己責任とされるものだが、そんな風に突き放さず、すべてを受け入れ、寄り添い、個人が抱える問題に全力で一緒に向き合う覚悟を持っている。
そんな理事長は、ときには厳しい言葉もかけるが、根底にはしっかり深い愛情があるとわかるから、生徒たちも安心して心を開けるのだろう。そして彼自身もある過去を抱えていて…
そのままの自分でいられる場所。家ではそれが望めない場合もあるのだという現実。自分を否定しないで、逃げていいんだよ、とあたたかく包み込んでくれるよう。
印象的なひまわりの花束の表紙。ひまわりの花言葉のひとつに『あなたは素晴らしい』という意味がある。読み終えて改めて表紙を見ると、理事長から卒業生へ、著者から読者へのメッセージなのだと感じて、胸にジンときた。続きを読む投稿日:2024.03.31
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