この作品のレビュー
平均 3.8 (7件のレビュー)
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【感想】
質問通告を提出するという行為はどこまで認められるのか?
そもそも、人々が通告を好ましく思わないのは、その行為に質問者と答弁者による「やらせ」が含まれていると感じるからだろう。
とはいっても…通告を出さなければ、全ての質問にぶっつけ本番で答えることになる。虚をつく質問で本音を引き出す、となれば確かに理想的な記者会見だが、現実にはほとんどの質問に対して想定問答を読み上げるだけか、「後日回答します」という答弁で終わるだけだ。ああ言えばこう言うという後ろ向きな回答を切り崩すことは、現実問題として難しい。結局のところ、通告アリでもナシでも特に変わらず、記者会見の持ち時間をただ無意味に使うことになるだろう。
であるならば、むしろ「質問」よりも「検証」のほうに重きを置くべきである。与党が述べたオピニオンは実効的と言えるのか、政権発足時に掲げた公約は果たされているのか。質問を言いっぱなしで終えることなく、「質問→答弁→検証→追及」のサイクルを回し、与党の動向をチェックし続けることこそが、記者と野党議員の仕事であると思う。
【本書のまとめ】
1 コロナによる質問制限
コロナ感染拡大を受け、安倍首相が全国一斉休校に関する記者会見を開いたのは2020年2月29日。そこで行われた記者クラブの質問は、事前に官邸側に質問内容を通告してあり、回答が既に用意されていた。また、通告していない再質問に関しても、用意されていた想定問答を読み上げるだけである。台本ありきの完全な演劇であった。
記者会見で優先されるのは記者クラブの人間だけであり、フリーランス、地方記者は冷遇されている。2012年末の第2次安倍政権発足以来、安倍首相は東日本大震災の被災地に計43回訪問しているが、質問は官邸記者クラブからの同行記者に限定し、地元記者の質問機会を設けていない。
その後、記者会見のあり方を巡って断続的に官邸側と記者クラブ側のやりとりが続く。2020年4月8日、記者クラブは官房長官記者会見について以下の要請を受け入れることを決めた。
①ペン記者は各社1ペンのみ
②引き続き質問の要望がある場合でも、スケジュールが逼迫している以上、会見を終了することに協力してほしい
新聞社からは、「一社一人とすると多様性が失われる」との反発が起こる。事実、民主党政権時代と比べて記者会見の回数と時間が大幅に減ることになった。
コロナの感染防止から対面取材が難しくなっており、当局の発信情報が報道の流れを作ってしまっている。政府側から発表された情報のみを使用して誤報を招くケースが何件か見られている。
2 安倍政権下における報道
2009年の民主党政権時代には、記者会見のオープン化によって、フリーランスやネットメディアも参加が認められる。とはいっても、発端は政治家側が主導したものであり、記者クラブに所属していたメディアからは最後まで抵抗があった。
第2次安倍政権において、これまでの取材の慣例が大きく変わる。
2013年1月、歴代内閣が自粛していた「単独インタビュー」を積極的に行う考えを官邸記者クラブに伝える。NHKと民放の在京キー局に、ローテーションに従って順番に出演し、その後新聞・通信社のグループインタビューに応じるといった流れである。日常的なぶら下がり取材で質問する機会を失った上に、単独インタビューを解禁したことによって、記者クラブが培ってきた「公」の取材機会は加速度的に減っていったといえる。
菅官房長官との確執で有名なのは東京新聞の望月記者だ。
菅官房長官は、望月記者の発言に対して「事実誤認」「問題行為」とレッテルを張り、事実上の言論統制を行っている。
言論統制はその他記者にも及ぶ。例えば、安倍首相のぶら下がり取材で厳しい質問をぶつけた記者に対して、安倍首相の側近はその記者を無視した。それだけでなく、各社の夜回りに応じない対応も取った。新聞社の連帯責任を求めてきているのだ。
こうした中で、新聞社同士が互いに相互監視をするような空気が形成されてしまった。記者クラブが部族社会化したことに、葛藤を覚える現場記者も多い。
平成の30年余りをかけた政治・行政改革の末、安倍政権において官邸一極集中の政治が完成した。かつてのような大きな政局は起きない仕組みになっており、野党、記者ともに政治をパワーで押し切られる形になっている。
3 ボーイズクラブ
テレビ、新聞社などの報道機関における女性の少なさが問題になっており、女性社員であっても、性別による不当差別やハラスメント被害の報告が多い。
賭け麻雀の問題と、セクハラの問題と、記者会見形骸化の問題は、全部地続きである。内輪の理屈、いわばメディア社交クラブを維持するための理屈を優先する体質の弊害である。
4 表現の自由
「宮本から君へ」への文化振興助成金の内定取り消し、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」の展示中止及び文化庁の補助金不交付決定。後付けでの事後検閲と思わしき事例が、表現の自由と民主主義を脅かしている。
テレビ局の内部においてもそれが現れた。2019年12月11日に、テレビ朝日「報道ステーション」のニュースの中で、自民党の世耕参院幹事長の発言が「誤解を招く編集」をされていると世耕氏側から批判があり、番組内で謝罪した。翌週から、「リニューアル」を理由に、番組を中核で支えてきた10人近い社外スタッフに派遣契約の終了が通知された。内部では、局への不信感と、政権を批判する発言を控える空気ができている。
テレビ局への「牽制」が、与党からはっきりと強い形であらわれたのは、2016年2月8日の国会答弁であった。放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、「電波停止」を命じる可能性がありうる、と言及したのだ。公平性を欠く放送とは、国論を二分する政治課題で一方の政治的見解を取り上げず、ことさらに他の見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す、などである。
当然、全テレビ局の全番組が抗議すべきだが、多くのテレビ局の多くの番組が何も言わなかった。
「現在の報道現場で『報道の自由』を阻害している要因として感じているもの」をアンケートした結果、「報道機関幹部の姿勢」と答えた人が82.7%にのぼった。政権をはじめ、政治家、ひいては局内で権力を持つ者に対する忖度の連鎖で、報道機関としての役割や信頼を自ら損なう振る舞いが常態化している。
外国と比べて、日本のジャーナリストは声を挙げない。定年まで、あるいは長年同じ会社で勤務するため、会社へ忠誠心を向ける。労働組合は企業別でしかなく、業界を横断する組織は少ない。これは日本独自の形であり、報道機関を転々とするため、ジャーナリスト同士の強い結びつきを重視している外国のジャーナリスト集団ではありえない。政府からの圧力に耐えれるかどうかは、ジャーナリスト間で企業を越えた連帯を作れるかにかかわってくる。続きを読む投稿日:2021.02.25
ネットのニュースがいまイチ信頼できない中、権力者にヘイコラするのが歴然たるNHKほかのテレビはほとんど信用できず、新聞の中でもよりベターと思える朝日新聞を購読している。正直なところ期待が裏切られること…も多いし経営陣は軽蔑の対象だが、南彰や三浦英之らがいるから金を払う。
心あるジャーナリストが連携することをほんとに願っている。心の底から。続きを読む投稿日:2022.09.28
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