満洲事変
宮田昌明(著)
/PHP新書
作品情報
満州事変とは何だったのか。事変に先立つ一九二〇年代を民族自決の理念が登場した時代とするなら、この時代の中国は、満州族やモンゴル族、ウイグル族などの民族自決を否定していた。満州事変から支那事変を経て大東亜戦争に至る日本近代史について、われわれは帝国主義と民族主義の対立を絶対化する革命思想からではなく、長期的な歴史的文脈の中で、かつ、様々な制約化の行動の中にも新たな理念の影響を読み取る多面的、複合的な視点から再評価すべきである。「侵略」論を超えて世界的視野から当時の状況を知り、歴史認識の客観性を求める試み。 【目次より】●第一章 清朝の近代化とその変容 ●第二章 近代日本の形成と日清・日露戦争 ●第三章 辛亥革命、第一次世界大戦と東アジア ●第四章 一九二〇年代の国際理念と東アジア情勢 ●第五章 満州事変
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商品情報
- シリーズ
- 満洲事変
- 著者
- 宮田昌明
- 出版社
- PHP研究所
- 掲載誌・レーベル
- PHP新書
- 書籍発売日
- 2019.12.13
- Reader Store発売日
- 2019.12.14
- ファイルサイズ
- 14.6MB
- ページ数
- 384ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
-
本書の問題意識は帯にも書かれている通り「民族自決を否定した中国、少数民族の権利を保護した日本」だ。民族主義と帝国主義の対立を絶対化する思考パターンからの脱却と言ってもよい。少なからず暴力や収奪があった…にせよ、中国の少数民族支配と比べれば日本の植民地統治の方が余程ましであったし、大東亜戦争があろうとなかろうと、日本は国際的理念の変化に対応して、遅かれ早かれ自治の拡大や独立の承認を志向したであろうと。これは多分正しいと思う。問題はいかにそのことを歴史的事実に即して立証するかだ。
中国が民族自決を否定したことに異論の余地はない。果たして日本は少数民族の権利を保護したか。残念ながら本書の膨大な歴史記述は、その傍証とはなっても論証としてはかなり弱い。著者は明治以降の日本が内政でも外交でもいかに合意形成を重視してきたかを詳細に辿る。そのこと自体大変勉強になるのだが、それは満洲統治においても合意形成を重視したことの証拠とは言えまい。内モンゴルの自治の要求に応えて興安四省を設置したというが、少数民族の権利保護として著者があげる具体的事実はこれだけだ。満洲族や漢族を要職に起用しながら、結局その実務は日本の官僚が取り仕切ったとされるが、それを著者は「自治」と評価しているのか否かも曖昧である。問題意識は正しいと思うが「王道楽土」と「五族協和」の理念と実像にもっと立ち入った具体的な検証が必要だろう。
もっとも学ぶべき点も多々ある。東南アジアへの共産主義の浸透に華僑が大きな役割を果たしたとは知らなかった。上記の通り日本の近代が合意形成を重視してきたことが詳述されており、抑圧的な近代国家の形成から対外膨張主義が展開されたという通念が誤りであるという主張も説得的だ。満洲事変は偶発的な事件(日本人殺傷事件)を発火点とする現地の機会主義的対応の積み重ねの結果であって、国家として「侵略」の意図があったとは言い難い。当時の中国の無政府状態に鑑みれば、居留民の保護と治安維持のためには一定の武力行使もやむを得なかっただろう。国際連盟の脱退を余儀なくされたものの、イギリスの意図は満洲問題を国際連盟から切り離すことであり、原理原則を掲げて日本を批判するアメリカも積極的に介入する意思はなかった。要するに日本の行動を黙認していたのだ。彼ら自身偉そうなことを言えた義理でないのを自覚していた筈だ。おそらく著者の真意は、だから満洲事変から大東亜戦争へと至る道は決してひと続きの必然的展開ではなく、満洲事変で踏み止まっていれば、日本の破局は回避できたかもしれないということだろう。この点も妥当な見方だと思う。
だが必ずしも著者の主張の裏付けとなるわけでもない詳細な歴史記述は冗長であり、一般読者を対象とした新書の構成としても適切とは言えない。頁数も平均的な新書の倍はあるだろう。中国の軍閥抗争や欧米列強の対外政策などは大づかみに把握できれば十分だし、それ以外にも本書の狙いとは関連が薄い瑣末な記述が目立つ。「侵略論を超えて世界的視野から満洲事変を考える」と言うなら、背景的な歴史記述は簡潔にして結論部分の論証を掘り下げていればもっといい本になったと思う。時間のない読者は「はじめに」と「おわりに」を読めば事足りる。続きを読む投稿日:2023.12.30
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