世界地図を読み直す―協力と均衡の地政学―(新潮選書)
北岡伸一(著)
/新潮選書
この作品のレビュー
平均 3.4 (12件のレビュー)
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まず、アカデミックな地政学の本かと言えばそうではない。
端的に言って、知的な旅行記といった風情。
具体的には、日本の援助機関のトップとして各国に(やや表敬気味の)出張に行ったときの楽しい思い出話である…。
著者の他の本のような骨太かつややライト寄りな論考を期待して手に取るとちょっと違うな、となるだろう。
著者は、安倍政権の積極的平和主義構想の思想面でのリーダーのひとりでもあり、したがって日本が世界で評価されるにはこれこれだ、とか、あるいは援助を通じてこんなに評価されている、というエピソードが多い。それが悪いわけではなく、やはり誇らしいものはある。もっとも、こうした国際支援の現場のあの独特の「ノリ」を経験したことのある人なら、海外の日本人への賞賛が多分にリップサービスであることも知っているだろう。
総じて、例えばなぜロシアと西欧はウクライナを巡ってここまで進退極まるほど対立しているのか、といった地政学的視点を学ぶ本というよりは、将来国際支援や外交、商社のようなクロスボーダービジネスに憧れる若者向けのガイドブックとして読まれるべき本かと思う。続きを読む投稿日:2022.02.26
著者の北岡伸一さんは東京大学法学部教授、日本政府国連代表部次席代表や国際大学理事長、JICA理事長、政策研究大学院大学客員教授と歴任されており、日本の外交を最もよく知る人の一人である。
本書は北岡さん…の実際に訪れた国での経験をベースに、日本の外交がどうあるべきか、大国とどのように付き合っていくべきなのかを記述している。地政学について造詣が深いわけではない私が読んでも理解しやすく、読みやすい本である。地政学ビギナーが初めに手に取る本として、とっつきやすくていいのではないか。
外交は二国間で語られることが多い。例えば、日米関係、日中関係、日露関係、日韓関係など。しかし本書では、外交がマルチになってきている今こそ、二国のみに注目するのではなく、その周辺国まで含めて理解することで、日本の国際的な立ち位置を見極めることが外交上重要と説く。
本書の構成は以下の通り
序章 自由で開かれたインド太平洋構想――日本の生命線
第1章 ロシアとその隣国たち――独立心と思慮深さを学ぶ
ジョージア、アルメニア、ウクライナ、トルコ、フィンランド、バルト三国
第2章 フロンティアとしてのアフリカ――中国の影と向き合う
ウガンダ、アルジェリア、南スーダン、エジプト、ザンビア、マラウイ
第3章 遠くて近い中南米――絆を強化するために
ブラジル、コロンビア
第4章 「海洋の自由」と南太平洋――親密な関係を維持できるか
パプア・ニューギニア、フィジー、サモア
第5章 揺れるアジア――独裁と民主主義の狭間で
ミャンマー、ベトナム、東ティモール、タジキスタン
終章 世界地図の中を生きる日本人
日本の脅威となるロシア、中国を中心に、彼らの影響力や脅威が世界でどのように効いているのかを書き出している。その上で、日本の立ち振る舞いがどうあるべか、を意見を述べている。
著者の見識は的確で、例えば「ロシアは安全保障に敏感な国、四方から包囲されているという被害意識が強い」という認識は、ロシア隣国の国民として必ず持っておかないといけないと思う。まさにそこを見誤ってしまったのがウクライナであった(西側諸国が煽ったのもあるが)。大国と隣り合う国の安全を保つためには、相手のことを正しく理解して、逆鱗に触れない立ち回りが求められる。
私としては、日本という資源を持たない、国土も狭い小国が生き延びていく生命線は、日本を支持してくれる国を増やすことだと思っている。日本という国を理解して友好的な関係を築いてくれる人材を世界中に作ることが、広義での安全保障につながる、という著者の意見は完全に賛同する。領土問題など、直接的な利害関係を持っている国との友好関係を作るのは絶妙な距離感が必要であるが、第三国と友好関係を作っておくことは、国際社会の中でのプレゼンスを高め、これが日本という国を守ることにつながると思う。
日本国内では海外にお金を使いすぎ、という批判が出ることもあるが、これは保険のようなものなので、予算の中で一定の支出を国外に使うことは必須と思う。これまでに日本が築いた日本の信用を落とさないような振る舞いを今後も政府には期待したい、国民も理解すべきかと思う。続きを読む投稿日:2022.09.30
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