本バスめぐりん。
大崎梢(著)
/創元推理文庫
作品情報
種川市の移動図書館、「本バスめぐりん」に乗り込むのは、六十五歳の新人運転手テルさんと図書館司書ウメちゃん、年の差四十のでこぼこコンビだ。返却本に挟まれた忘れ物や秘密を抱えた常連の利用者……。巡回先でめぐりん号とふたりを待ち受けるのはいくつもの不思議な謎?! 3000冊の本でつながる思いを載せて、移動図書館は今日も走る。書店員、編集者、記者などを主人公に「本の現場」を描く著者の新たな舞台は、本を届ける図書館バス! ハートフル・ミステリ全5編。/解説=森谷明子
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商品情報
- シリーズ
- 本バスめぐりん。
- 著者
- 大崎梢
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 東京創元社
- 掲載誌・レーベル
- 創元推理文庫
- 書籍発売日
- 2019.10.25
- Reader Store発売日
- 2019.10.24
- ファイルサイズ
- 1.2MB
- ページ数
- 286ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (38件のレビュー)
-
あなたは、『移動図書館』を知っていますか?
『移動図書館』、その言葉からは『野を越え山を越え、人里離れた辺境の集落まで本を載せたバスが走り、集まってきた村人たちに貸し出し、さらに次の集落を目指す』、…そんな光景が思い浮かぶのではないでしょうか。幼い頃、親戚の家にお泊まりさせていただいた際、山村の奥深くに、生活の糧となるものを届ける移動販売車を目にしたことを覚えています。『移動図書館』と聞くと、それと同じイメージが私には浮かびます。しかし、その認識は間違っているようです。『となりの横浜市にだって移動図書館はあるんだぜ』と予想外なその活躍場所。決して山村だけでなく、大都市の近郊であっても『住んでるところから図書館が遠いエリア』へと向けて『行政サービスの一環としてまわっている』というその存在。
そんな『移動図書館』にふとしたきっかけで関わることになった一人の男性の物語がここにあります。定年して『することのない日々』に辟易していたというその男性。『娘や息子には「ボケるよ」「大丈夫?」』と言われ、『いったい何が楽しくて生きているのよ』と妻に呆れられる毎日を送っていたその男性。そんな男性が始めたのは『移動図書館』の運転手でした。慣れない仕事に『この仕事、自分に向いているだろうか』と悩みながらも相棒となる司書の菜緒子と共に市内を巡回する日々。その中で『移動図書館がこんなにも利用されているとは、始めるまで想像もしていなかった』と気づく瞬間が訪れます。
この作品はそんな男性が『とまどいもしたが新しい発見や気づきはたくさんあった』と『移動図書館』に関わる日々を思う物語。そんな日々の中に『少しは自分も変われた』と新しい自分に出会うことになる物語です。
『所定の位置に車を駐め、サイドブレーキをかけてほっと息をつく』のは、主人公の照岡久志。そんな久志は『還暦を過ぎ、六十代も半ばになって』、『運転手さん』と呼ばれるようになることに戸惑いを感じます。『ちょっとそこの、上の本を取ってよ。あたしじゃ手が届かないの』と言う老婦人に対応するも『ちがう、それじゃない。右の。もっと右。行き過ぎ』と慣れない久志は戸惑います。ようやく目的の本を渡すも『あー、字ぃ小さいわ。こんなの読めやしない』と訴える老婦人に『なら、戻しておきましょうか。借りませんよね』と、元の場所に差し込む久志。しかし、老婦人はどうも『不機嫌そうな面持ち』です。そんな時『どうしましたか』と、同僚の梅園菜緖子が声をかけました。『二十代半ばの若い女の子』という菜緒子は、先程久志が収納した本を見て『茶道の本をお探しですか』と訊きます。『今度ね、行くかもしれないの。お茶の会みたいなのに… 今からでも勉強しとこうかと思って』と話す老婦人を『はい。ご案内します』と『車の反対側』へと誘います。『満足げにうなずき』、『こうでなきゃね』という一瞥を投げかけられた久志。『会社にいたときだったら』、『二十代の若者など…やっと少し使えるようになったというひよっこ』、しかし『今の久志にとって菜緖子は先輩だ』と思う久志は、『経験も知識も菜緖子の方が勝っている』と感じます。『やれやれ。ほんとうに、やれやれだ』と思う久志。そんな『久志の住む種川市』には『八つの市立図書館』があります。そして、種川市にも『移動図書館』があると『還暦を迎えてのクラス会』で初めて知った久志。そんな『移動図書館』の手伝いをしていると『久志よりも数年早く退職した榎本賢一』に聞いてもどこか他人事だった久志。しかし、定年して『朝から晩までの時間を持てあます』ようになった久志に再び賢一から声がかかります。『移動図書館の運転手にならないか』というその内容。帰って話をすると『まったく知らないところにお父さんが飛びこもうとするなんて』と妻の聡子に驚かれる有り様。しかし、賢一の熱心な勧めもあってやってみることにした久志。『通称「本バス」と呼ばれ、公募で決まった愛称は「めぐりん号」』という『移動図書館』は、『市内十六カ所を二週間かけてぐるりとまわ』ります。そんな中で、慣れない仕事に『この仕事、自分に向いているだろうか』と思いつつも日々来訪する人々と接していく久志。そんな久志が相棒である菜緒子と街を巡る中で身近なミステリーに向き合う物語が始まりました。
『大都市である横浜に隣接している』という架空の都市である種川市の『市内十六カ所を二週間かけて』巡回するという『本を載せたバス』=『移動図書館』に光を当てるこの作品。五つの短編から構成される連作短編の形式をとっています。そんな作品で視点の主となるのは、定年を迎え、『することのない日々』に飽き飽きし、『娘や息子には「ボケるよ」「大丈夫?」としょっちゅう言われてしまう』という日々を送っていた照岡久志でした。『本なんてちょっとしか読まないし。偏ってるし』と、当初は後ろ向きだった久志も、定年後の何もない日々から脱出したい思いで『移動図書館』の運転手を引き受けます。そんな久志がそもそも驚いたのは『うんと遠くの、どこかの地方の話』だと思っていた『移動図書館』が自分が暮らす街にも存在していたという事実でした。『住んでるところから図書館が遠いエリアもある…そういう人たちに向けて行政サービスの一環として』提供されているというそのサービス。そんなサービスをあなたは利用したことがあるでしょうか?また、そんな『移動図書館』を目にしたことがあるでしょうか?そして、そんな図書館を利用してみたいと思うでしょうか?私はこの作品を読むまで『移動図書館』というもの自体言葉含めて全く知りませんでした。国内には実に342もの『移動図書館』が稼働しているという現状を知っても、そのものを知らない身にはなかなかイメージがわきません。しかし、大崎さんは五つの短編を通じてそんな『移動図書館』というものをとても丁寧に、わかりやすく読者に説明しながら物語を進めてくださいます。説明のための説明ではなく、あくまで物語の進行に溶け込むようになされるその説明で、作品を読み終える段では、この作品を読んだ読者に『移動図書館』というものが鮮やかに頭の中に浮かび上がる、そして、自分の住む街には『移動図書館』がないのか、調べたくなる、そんな興味深い読書がそこには用意されていました。
大崎梢さんと言えば、代表作「配達赤ずきん」の刊行直前まで書店員をされていらした方です。本、本棚、そして本屋と、本に対する思いの強さから生まれる数々の名作群には、やはり本を愛するブクログのユーザーの皆さんには親近感が強く湧くところがあるのではないかと思います。そんな皆さんは、本を、書店で買うか、図書館で借りるかのいずれかの手段によって手にされていると思います。同じ本でも手にする手段が違うとそこに生まれるドラマも違ってくる、この作品はそんな一面も垣間見せてくれます。その違いが、本屋さんで本を買うという一方通行な流れではなく、借りて返してというやりとりの発生する図書館ならではの流れに注目したものでした。それが、『前にこの本を借りた方が、あやまって私物を挟んだまま返却したそうなんです』と、本に挟んだ”あるもの”が、本来繋がらなかったはずの人と人とを結びつけていく起点となる〈テルさん、ウメちゃん〉。また、新しく引っ越してきたものの友人も出来ず、何故か『同じ本を借り続ける』と、ミヒャエル・エンデの名作「モモ」ばかり借りていくという少女が『移動図書館』によって、ある人と繋がっていたことが結末に判明する〈道を照らす花〉。そして、『ここにいますよ。いつでも自由に来てください』という『移動図書館』というもののあり方、本と人とを繋げていくそんな施設の存在意義を感じる〈降っても晴れても〉など、そこに展開されるのは一方向のやり取りの本屋さんではあり得ず、双方向のやり取りの発生する図書館ならではの物語でした。
また、身近なミステリーが物語に上手く絡められながら展開するこの作品には、本を強く愛する大崎さんだからこそのこんな印象的な言葉も登場します。
『本って、変わらないのがいい…いつでもどんなときでも、開けばそこに同じ物語がある… 変わらないから安心できる』。
私たちは、本を読む時に何を目的とするでしょうか?人によって嗜好は異なりますし、その時の気分によっても読書の目的は変わってくるでしょう。そして、本を読んで私たちは読中、読後に何らかの感想を持ち何かしら感情が動かされることがあるはずです。その内容によって、喜怒哀楽のいずれかの感情が必ず刺激される行為、それが読書でもあります。一方で本を読む私たちが生きる環境は一日一日と変化していきます。昨日と全く同じ今日が、そして明日があるなどという人はいないでしょう。それに対して、本は変わらない世界の象徴です。いつでも読み返せば、そこには同じ物語が待っていてくれる。変化する日常に比べて、決して変わらない物語がそこに待っていてくれる、そこに行けば安心感を与えてくれる、それが本。そして、そんな本が『いつでもそこにあって、自分を待っててくれる』という図書館の存在。
ああ、なんという優しい、乱暴に扱うと壊れてしまいそうな感覚の上に描かれた物語なんだろう。そこに紡がれる人の優しさ、あたたかさを感じながら、本を閉じました。
『移動図書館はあくまでもみんなのものよ。ベビーカーに乗ってくる赤ちゃんでも、杖を突いてくるお年寄りでも、目当ての本がちゃんとある。積まれている。どうぞどうぞと手招きしてる』という『移動図書館』を舞台に五つの物語が展開するこの作品。本屋さんで本を買ってしまえば一生それは自身の元に存在し続けます。しかし、『自分ちにある本を図書館でみつけるとなぜか嬉しくてわくわくしました』という感情を抱く人がいます。『不思議ですね。中身はまったく同じなのに、でもどこかちがうんです』という感情を抱く人がいます。そんなとても繊細な感情を大切にしながら、今日もあなたの元へと走り続ける『移動図書館』。本と人を繋いでいくその存在の大きさに気付かされた、そんな作品でした。続きを読む投稿日:2021.11.24
同じ著者の短編「国会図書館のボルト」が面白く、くすりとなったので他の著書も読みたくなり読み始めました。定年後に移動図書館で働き始めたテルさんと司書のウメちゃんのコンビが本を通じて地元コミュニティとの繋…がりを作っていく暖かい一冊!
続きを読む投稿日:2024.03.24
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