奇跡のチーム ラグビー日本代表、南アフリカに勝つ
生島淳(著)
/文春文庫
作品情報
2019年、ラグビーW杯日本開催に必読の一冊。
世界が震えたあの勝利は、こうして生まれた!
2015年ラグビーワールドカップ。エディー・ジョーンズ率いる日本代表は、強豪南アフリカを相手に劇的な逆転勝ちを収め、世界を震撼させた。エディー・ジャパンはなぜ日本ラグビーの歴史を変えることができたのか? 選手・関係者40人近くへの徹底取材を通して、その秘密を解き明かした傑作ノンフィクション。
解説・畠山健介
※この電子書籍は、2016年3月に文藝春秋から刊行された『エディー・ウォーズ』を改題し、新章を加筆した文庫を底本としています。
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商品情報
- 著者
- 生島淳
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2019.09.03
- Reader Store発売日
- 2019.09.03
- ファイルサイズ
- 2.9MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 4.7 (5件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
note 【ラグビーW杯が100倍楽しくなる】日本代表の成長物語は、漫画そのものだ 『奇跡のチーム ラグビー日本代表、南アフリカに勝つ』を読んで - その1,以下3まで
レビューの続きを読む
https://note.mu/we_outputers/n/ne13125309c88
エディーは実体のあるチームを作る為に鈴木香織をメンタルコーチに指名。
彼女は何か「可視化」出来るものがこのチームには必要だと感じていた。
「勝つ文化も何もないチームなんだから、目に見えるところから始めないと」ということで、最初に取り組んだのは「君が代」をメンバー全員で歌うことだった。
メンタリティとは目に見えないものである。しかし、目を閉じて瞑想に耽ったからといって、プラスになるものでもない。何も財産がないチームにとっては、とにかく行動すること、言葉にすること、目に見えることからスタートすることが肝心だった。p16
→財産も勝つ文化もないチームを1から作るには、同じ方向を向かせるには、可視化できるものが必要ってことか。その為には行動あるのみ。言葉を引き出す。
スクラムコーチのマルク・ダルマゾはコーチ陣でも異色の存在。
かつてはフランス代表のフッカー。スクラムの研究に人生を懸けており、彼の辞書に「押される」「崩される」と言う単語はなかった。
エディーはフランスにおけるスクラムの重要性、いや、スクラムへの信仰を目の当たりにしていた。ジャパンのスクラムを強化する為には常識に囚われた人物ではいけない。何か際立った特徴を持つコーチを探していた。
当時の日本には「スクラムで勝つ」「スクラムで勝負をかける」という文化がなかった。むしろ「押されても仕方がない」というメンタリティになっている。これじゃ、試合をする前から負けるに決まっている。そんな日本を変えるのは、何か、クレイジーなくらい、強烈な個性が必要だった。彼ならFWのマインドセット、心構えを変えてくれる。そう信じたんだ。p19-20
→負けて当然。というマインドを変えるのは相当大変だろうと思う。先日のサモア戦の試合終了間近、パワー自慢のサモアを何度もスクラムで追い詰め、3つ目のトライを決めボーナスポイントを得た。日本は文字通りスクラムで勝負をかけ、そして勝ったのだ。
日本は12年にサモアに僅差ながら破れた歴史がある。日本の成長には目を見張るよ。
とにかくスピードが勝負だ。体と脳がまだプレーを記憶しているうちに、フィードバックして選手たちのパフォーマンスを少しでも上げなければならない。代表入りして安心しているような選手は要らない。世界のレベルに到達されるためには、ハッピーな状態にさせるつもりは毛頭なかった。
→日本が世界と肩を並べるためには飽くなき向上心が必要だって事だ。
プライド。
それが鍵だ。何としても日本代表でプレーすることに誇りを持たせなければならない。p25
エディーは東芝の廣瀬をキャプテンに任命し、そしてチームがスタートすると、エディーは廣瀬のキャプテンシーについては、小言を言うこともなく、寛容に接してくれた。
それは何より、廣瀬がジャパンでプレーすること、そしてキャプテンとして仕事をすることに誇りを感じていたからだ。p27
ジャパンは13年を境に大きく変わった。廣瀬を中心として、日本のラグビーを変えるためにプレーヤーたちがこのチームを愛し、勝つ文化を作る。そしてウェールズに勝ったときから、選手たちの中にプライドが確実に根づき、ラグビー界が変わり始めた実感があった。p52
日本の選手達には自発的に「強くなりたい」「こういうチームになりたい」という意欲が薄かった。それは、今までゴールや目標といったものは、何もしなくても指導者から「与えられるもの」だと思っているからに違いなかった。
考えようとしない選手はいらない。
「リーダーシップ・グループ」でのミーティングを重ねるうち、彼らの立脚点になったのは、日本代表には敗北の文化しかないということだった。まして、1995年のW杯ではオールブラックスに145点も取られてしまった。
世界から尊敬を集めるには、W杯の舞台で結果を残すしかない。廣瀬やリーダーたちの情熱が徐々に周りの選手たちにも波及し、意識が変わり始めた。
日本のラグビー選手たちの憧れの存在になろう。
そして、歴史を変えよう。
その為には、ハードワークを惜しんではならない。p28-29
→そうだよなぁ。昔の日本のラグビーはそういうイメージだったよなぁ。
フィジー戦でのスクラムが安定せず、それが敗因の1つとなった試合後。ダルマゾはFW前金を罵倒するような勢いだった。フッカーの畠山は「そんな言い方をしなくたっていいじゃないか」と不満に思い、それが態度にも現れてしまった。この時期、畠山はまだダルマゾに対して信頼感を持っていなかったことも態度に影響した。
ミーティングごエディーは畠山を呼び「何だあの態度は!あんな態度を取るならば、もう帰ってもらう。明日、試合だがメンバーから外す。試合が終わったら帰っていい。お前はもう必要ない。」と本気で怒った。
結局、畠山はプレーし、試合が終わってから再びエディーと向かい合った。
「ダルマゾのミーティングであのような態度を取るのは、二度と許すことは出来ない。考えてもみろ。40キャップを持っているようなベテランが、反抗的な態度を取ったら、どうなる?周りに悪い影響を与えるだけだ。若手へのそうした影響を考えたことはあるのか?」p43-44
→ベテラン選手の態度はチームに大きな影響を与える。そうだよな。そりゃそうだ。
15年の合宿。エディーは前々から各選手に「6月の宮崎。この合宿は今までで最も厳しい合宿になる。覚悟しておいてほしい」と語った。
そしてそれは地獄だった。
ある日、マイケル・ブロードバーストは、練習が終わると同じ部屋の伊藤鐘史と「今日の練習が人生でいちばんキツイ練習だったな」と話し合った。ところが、その会話が何日も繰り返される。いったいハードな練習がどこまでエスカレートしていくのか、想像もつかない。明日はオフだと知らされてビールを飲むと、当日になって「今日の午後は練習」といきなり予定が変更となり、面食らったこともあった。
「間違いない。人生で、これ以上つらい日々はない。」p58-59
→折に触れてエディーが精神面と同じく、いや、それ以上に肉体面で選手を徹底的に追い込む描写がある。世界でトップクラスになるために必要なことを、そのキツさをもって選手たちに伝えているのだ。
スーパーラグビーのハイランダーズでプレーし、優勝して合流した田中史郎は、ジャパンの中に弛緩した空気を感じた。7/29に行われたフィジー戦では22対27で試合終盤を迎えたが、攻めきれずに敗れた。エディーのコメントは辛辣だった。
「最近では最も酷い試合だった。まずは、9対0とリードして楽に勝てたはずなのに、自分たちでそのチャンスを潰してしまった。自らトライを許し、負けてしまった。こういうところを改めないと、W杯では勝てない。FWは全体的に良かったと思うが、BKは田中をのぞいてハンドリング、ランニングライン、判断と全てが悪かった。」
チーム作りがうまく進まず、エディーは怒りの渦の中にいた。
そして次の3位決定戦のトンガ戦に向けての練習で、タックルバックを持っている田中に本気で当たってこない選手がいたことに我慢がならなかった。報道陣がそばにいるインゴール付近で、田中はメンバーに対して思うところを話した。
「普通のことができてないよ。負けているのに、そういう練習でジャパンと言えるのか!」
田中はニュージランドでプレーして、彼らのオールブラックスへの憧れがいかに強いか、その目で見ていた。
帰ってジャパンはどうだろう。エディーがヘッドコーチになってから、何とか勝つ文化を培い、プライドを持とうと頑張ってきたのではないか。それなのに、W杯を翌月にひかえているいま、この情けない練習はなんなんだ。
「向上心もなく、ただ練習をやらされて中途半端な気持ちで代表に入ってるんだったら、若手でやりたい人がいっぱいいるし、替わって欲しい。やっぱり、ひとりひとりが日本代表に誇りを持って、そういうチームにしなきゃ、日本としてもレベルが上がらない」p77-78
→ニュージランドで、世界のトップでプレーする田中だけにしか見えない世界がある。選手の目線で、かつエディーに近い目戦でも物事が見えている。これが世界のトップなんだ。
エディーは絶対に廣瀬をメンバーに残すつもりでいた。
エディーはワールド・ベースボール・クラシックの優勝監督になった原辰徳に、チーム作りで気にかけたことを訊ねたことがあった。原は答えた。
「最初に、川崎宗則を選びました。彼は、プレーしていようとなかろうと、チームの為に全力を尽くす選手だからです。日本には、そういう存在の選手が必要なんです」
また、10年のサッカーW杯で日本代表をベスト16に導いた岡田武史と会ったときには、ゴールキーパーの川口能活を最初に得たんだという話を聞いていた。
「ジュビロ磐田に行ったとき、川口はいちばん最初に練習に出てきて、最後まで練習していました。その姿を見て、絶対に川口が必要だと思ったんです」
プレー時間の少ない選手を真っ先に選ぶというのは、偶然だろうか。いや、ここに成功のヒントが隠されているとエディーは思った。チームのまとまりを重視したとき、プレー以外でも最大限に貢献できる選手を連れて行った方がうまくいく。
絶対に廣瀬は外せない。
しかし、エディーは最後の最後まで、そのことを廣瀬本人には黙っていた。p79
→プレー以外でも貢献できる選手。自発的に進んで練習に取り組み、時にはチームのムードメーカーとなり、選手を鼓舞し、まとめ、支える。プレー時間は少なくても、チームのまとまりを重視したときに、そういった選手は必要だ。
廣瀬はボーダーライン上にいる村田を気遣った。p93
そして、南アフリカの分析で活躍した。チームの2台のパソコンのうち、片方は常に廣瀬が使っていた。廣瀬は丹念に南アフリカのディフェンスを分析したうえで、「これ、内側が空くんだよね」という結論を得ていた。その証明となる映像の選択も分かりやすく、それどころか練習では廣瀬が南アフリカの選手の特徴を再現し、ピッチで選手たちとディスカッションを重ねていた。p109
ミーティングルームに映像が流れる。湯原祐希は「へぇ、ビデオなんてあるんだ」と何気なくスクリーンに目をやった。コールドプレイの『ヴィヴァ・ラ・ヴィーダ』とともに、前主将の廣瀬が国歌を歌っているシーンが流れた。
三年前、全てがスタートした時の映像だ。
間に練習風景のスナップが挟まる。菅平。宮崎での海中ラインアウト練習。コールドプレイの歌に乗せ、時は進む。13年、秩父宮でのウェールズ撃破。14年、初夏にはイタリアを破り、秋になってマオリ・オールブラックスには惜敗した。
そして15年の宮崎での果てしない地獄のような日々。光景は全て美しい。しかし、選手たちは泥だらけで、亡者のような表情さえ浮かべている。鍛錬、衝突、忍耐。あらゆる肉体や精神の限界が試された日々だ。
堀江翔太は涙をこらえるのに必死だ。
廣瀬は周りに悟られないよう、こっそりと泣いた。
中島が作ったビデオは、廣瀬から主将を受け継いだリーチが国歌を歌うシーンで締めくくられていた。エディー・ジャパンの長い旅がそこに凝縮されていた。
終わって、しばらくは誰も言葉を発しなかった。誰もが自分が過ごしてきた時間を反芻していた。
小野はこのビデオをiPhoneにすぐに入れてもらった。南アフリカ戦に向かうバスの中でもう一度、見ようと思ったのだ。小野が思うに、この映像の意味は、「日本代表がどれだけ成長してきたか」という事実を、映像によってみんなが確認できたことだった。
エディーは常に前を向いて生きるタイプの人間だ。しかし、一度立ち止まって過去を確認することも大切だったのだ。いつがスタートだったのか。そうだ、廣瀬が国家を歌っているシーンだ。そしてウェールズに勝ち、マオリ・オールブラックスを追いつめた。何より、みんな身体が大きくなっていた。
日本は変化した。ジャパンは、変わった。
世界はまだそれに気づいていない。p123-125
→積み上げてきた日々への確かな自信。一度立ち止まって振り返る事もときには大切。
ラグビーでは試合前日の試合を「キャプテンズ・ラン」と呼ぶ。主将の統率のもと練習を行い、その冒頭部分をメディアに公開する。
エディーがヘッドコーチに就任した当初、前日練習はキャプテンズ・ランではなく、「ゲーム・リハーサル」という名称で呼ばれていた。エディーが「現在の日本代表は、キャプテンが練習を引っ張れるほどの成熟したチームではない」と判断していたからだ。しかし、リーチのキャプテンシーが伸長していくことで、選手主導の練習が実施されるようになり、8月以降、エディーもキャプテンズ・ランという名称に異を唱えなくなった。リーチに権力の移譲をしていこうとしていたのだ。最終的にラグビーは選手の自主性、キャプテンのリーダーシップが勝敗を分ける。ただし、小野はあくまで「エディーの監視下におけるキャプテンズ・ラン」だと思っていた。
小野はニュージーランドでの生活が長かったから、本来のキャプテンズ・ランのあり方を熟知している。キャプテンの統率の下、メンバーが最後の練習を行う。しかし、W杯を前にした段階でも、キャプテンズ・ランの練習メニューは、リーチと小野が試合の3日前に話し合って内容を決め、2日前にエディーの了解を取らなければならない。小野にとっては、キャプテンズ・ランのミーティングが最もストレスフルな会議だと感じていた。エディーは簡単には首を縦に振らない。
→ここもリーチの成長がうかがえる。先日のアイルランド戦でリーチは途中出場し、そこから日本のアクセルは全開になった。リーチは日本の精神的支柱になったのだ。エディーが日本を離れた事も大きく作用しているのだろうか?
「日本から映像が届いています。みんなで見ましょう」
トップリーグ全チームからの応援メッセージだった。仕掛けたのは廣瀬俊朗だった。
日本のラグビーの歴史を振り返ってみると、ラグビー界にとって必ずしも日本代表がトップ・プライオリティではない時代があった。ジャパンがいちばんの存在になるためには、みんなの憧れの存在にならなくてはならない。そう思って4年間、戦ってきて、結果を残してきた。そしてここにいる選手たちがいま、日本を代表して戦っていることにプライドを感じるためにはぜひともトップリーガーの応援が必要だと廣瀬は考えた。では、W杯を前に具体的にはどんなことをすればいいだろう?そこで思いついたのが応援メッセージだった。
五郎丸歩はこの映像を見て、この4年間で日本のラグビーがいちばん変わったこと、それはトップリーグや大学でプレーする選手たちがジャパンに憧れるようになったことだよな、とあらためて感じ入った。そのカルチャーを作ったのはエディーであって、俺たちなんだとプライドが湧いてきた。p141-145
→これからさらに日本が強くなると予感される。ここには書ききれなかったが、各チームの応援、特にボーダーラインに居て結局は選考から漏れてしまった村田の応援が胸にくる。田中のように。
全員が身支度を整えた。戦いの前、エディー最後のスピーチが始まる。
エディーは泣いた。
「歴史を変えるんだ。歴史を変えるチャンスは1度だけだ」
4年間、エディーがずっと繰り返し言ってきたことだ。その言葉を現実のものとする準備は、出来ている。
エディーの傍で仕事をしてきた大村は思った。
ボスが泣くときは、悲しい時や嬉しい時じゃない。いまみたいに、感情が制御できなくなると泣いてしまう。どれだけ、気持ちが昂ぶっているんだろう … 。
そしてエディーはそれぞれの家族のことに触れ、日本という国を誇りに思って欲しいと話した。
マイケル・ブロードハーストは、エディーが泣くところを初めて見て驚いてしまった。テストマッチのロッカールームでは、ラグビーの戦術のことを最終確認するのがエディーのスタイルだった。ラグビー以外のことを話すのを聞いたのは、これが最初だった。
いつもとは違うヘッドコーチがそこにいた。
そしてエディーは感情に任せるまま、選手たちを鼓舞した。
「南アフリカを殺しに行くぞ」
君が代が流れた。エディー・ジャパンがスタートしたとき、みんなで歌の練習をした。あそこから、全てが始まったのだ。
五郎丸歩が、畠山健介が、田村優が泣いていた。
4年の歳月は、この日のためにあった。
やり残したことはなかった。
ひとつも、なかった。p155-157
→こんな風に人事を尽くして何かに臨んでみたいな。
P177〜
試合終了間近29対32、敵陣深くでペナルティをもらい、スクラムを選択。あのスプリングボクスと同点になる栄誉を捨てて価値を狙った。「歴史を変えるのは誰?」
「物足りねぇ」
マン・オブ・ザ・マッチに選ばれた五郎丸は、広報の渡邊まゆ子にそう漏らした。
サモアとは、これまでパシフィック・ネーションズカップで対戦しても、どちらが勝つか分からない戦いを繰り広げてきた。間違いなく、難敵だった。おそらく、勝ったら感激もあるだろうと想像していた。それなのに実力差が点差にそのまま出てしまった。
「力の通り勝つって、こういうことなのか…」
それは五郎丸だけの感覚ではなかった。試合終了後、相手からの強烈なコンタクトを浴び、敗残兵のようにピッチにうずくまっていたトンプソンルークも、
「どうして、勝ったのに喜べないんだ?」
と不思議な感覚に陥っていた。
おそらく、世界のトップチームの選手たちはこうした感覚に慣れているのだろう。しかし、日本の面々は、まだ世界の舞台では勝っても当たり前という感覚に慣れていなかった。
五郎丸は思った。
南アフリカ戦の、あの興奮には到底及ばない。もう一度、魂を揺さぶられるような勝利が欲しい。
南アフリカに勝った時の衝撃を、体が、気持ちが求めてしまうのだ。こんなんじゃ、満足できない。だったら、どうすればいい?準々決勝に進むしかない。クォーターファイナルの舞台は、ラグビーの選手なら誰もが憧れるトゥイッケナムだ。相手はオーストラリアだろう。エディーの母国でもある。超満員の観衆が取り囲み、全世界が注視する舞台に立つしかない。
五郎丸の言葉を聞いて、広報の渡邊は驚いていた。W杯が始まってから、選手たちはどんどん成長している。どこまで、行ってしまうのだろうか?p199-200
→大舞台の興奮。ジャイアントキリングの興奮。麻薬だな。
アメリカ戦でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは、五郎丸だった。インタビューを受けている最中、「われわれの…」という言葉を発したあと、感極まった。
「目標はベスト8だったので…。くやしい…。達成感はあまりなかった。ひとりもこれで満足している選手はいないと思います。」
アメリカ戦でようやくピッチに立ったクレイブ・ウィングは、W杯の舞台に立てたことがうれしかった。4年前には、自分がW杯でジャパンのジャージを着ているなんて、想像もつかなかったからだ。うれしい、でも悲しかった。
このまま試合が続いて、W杯が終わらなければいいのに ー 。
3勝をあげたのに、準々決勝に進むことができない、歴史上初めてのチームになってしまった。もしも、スコットランド戦が南アフリカとの試合の4日後ではなく、1週間後に組まれていたら、自分はプレーできたに違いない。W杯の不公平なスケジュールに怒りを覚えた。
自分の痛みを忘れてでもプレーしたかった。全てを犠牲にしても試合に出たかった。目の前のことに人生のすべてを懸ける。それがW杯だった。p205-206
→日本はこれからもどんどん強くなっていくんだろうなぁ。すごいよ。今まで1回しか勝ってないチームが3勝したんだから。
「私にとって衝撃的だったのは、サッカーの選手は知名度もあり、メディアの露出もあって、それなりに収入も得ている。ところがラグビーは激しいコンタクトスポーツで、2部練、3部練、時には4部練をするほどのハードワークをしているのに、知名度も低いし、注目もされていない。遠征から帰ってきたとき、広報のサマリー・ミーティングで私は『絶対にこの頑張っている姿を出来るだけ多くの人に知ってもらいたい』と話したことを覚えています」
そして渡邊は、話をこう締めくくった。
「そしていま、これだけ注目されているあなたたちは、やっと報われたし、私には正当な評価を得られていると思います。本当に、よかったです」p212
→ここにも知られざる戦いが。みんながチームを思ってるんだ。
小野は『ジャパニーズ・ソルジャー』の歌声を聞きながら、このチームは本当に奇跡が現実になったのだと実感した。これまでのW杯を戦ったチームの面々も、それぞれに思い入れがあったはずだ。しかし、エディーの下での4年間は人間性が試され、日本代表であることの「プライド」を植えつけられた時間だった。そのなかでトンプソンルークをはじめ、日本での在住期間が長くなった外国出身の選手たちは、「日本への思い」を具体的なものにしようとアイデアを出すようになった。『ジャパニーズ・ソルジャー』はそのシンボルだった。p218
→実体のあるチームを作る。その為に国家の練習をさせられてたチームが、こうなるとはなぁ。
チームがひとつになるために、みんなが行動を起こす。行動の共有こそが、チームがまとまる為に必要なことなのだ。
「君が代」を、海外で生まれた自分を含め、みんなで練習すること。
国家の中で歌われている「さざれ石」「みんなで観に行ったりもした。
そのうち、W杯が近づくにつれて、自分が動かなくても、周りが動くようになってきた。
自分からチームソングが必要だと言ったことは1度もなかった。自然発生的に歌が生まれ、みんながそれを愛し、歌った。ユーモアがあって、とてもいい曲だった。
そして、フミさんはハイランダーズの経験から、スタッフ、メンバーが試合に向けての準備ができた証明として、「JAPAN WAY」のジグゾーパズルのアイデアを出してくれた。
自分の所属する集団を愛していれば、ひとりひとりから様々なアイデアが出てくるようになる。
キャプテンだけが背負い込む必要はない。
ジャパンは、それを自分に教えてくれたのだ。p242
→メンバーが自分の所属する集団を愛するようになれば、勝手に動いてくれる、アイデアが出てくる。そこに誘導するのもリーダーの仕事。
全員でスパイクを磨く。
全員で同じことをする。数字で効果を示すことはできないだろうが、チーム力は数パーセント上向いた気がした。
戦う集団を作るには、共通のカルチャーの醸成が不可欠であり、その点で、エディーさんと自分は発想が似ていた。p245
→共通のカルチャーね。なるほど。
それでも、「残念な人」はいた。
試合に出られないことがわかると、練習に身が入っておらず、口数が少なくなっていく。自分もチーム内での役割を見つけていなかったら、残念な人に成り下がり、15年9月19日目、ブライトンの現場にいなかったかもしれない。p248-249
きっと、「奇跡のチーム」のなかで、自分はオフ・ザ・フィールド、プレー以外のところで役割を見つけていたから、藤田のような熱意を示せなかったのだと思う。
ただ、それでよかったのだ。
奇跡のチームとは、それぞれの役割を率先して見つけるメンバーがいてこそ、誕生するものだからだ。p249
→どんな状況でも自分の役割を見つけチームに貢献する。みんながそうして、奇跡のチームは生まれる。
過去の代表メンバーの1人が、「W杯の舞台に立った時、初めてのスタジアムで緊張した」という経験を話したら、エディーさんは15年4月に日本代表を連れてW杯で試合をするスタジアム、ホテル、練習場をすべて視察して回った。
このときは、経費もかさむことでもあり、反対意見もあったと聞いた。しかし、それでもエディーさんは「勝つ為に必要なこと」と主張し、頑として譲らなかった。
実際、この遠征の効果は大きかった。
W杯本番でプレーした選手は「全く緊張しなかった」と言っていたし、宿泊したホテルも一緒ならば、行きつけのカフェも見つけていた。だからこそ選手たちは、試合に向けて緊張感を高めながらもリラックスできる時間を確保できた。p251
→普段通りのパフォーマンスをする為にここまでやるんだな。見知らぬ土地でも行きつけのカフェさえ見つければ、日常に落とし込むことができそう。
そして、南アフリカ戦の試合終了直前、エディーの指示に反して、選手たちがペナルティキックによる引き分けを狙わず、トライを選択して逆転勝利を成し遂げたシーン。
エディーにすれば、リーグ戦初戦だから、リスクの高いトライに賭けるよりも、高確率で同点にできるキックで引き分けを狙えと指示したのだろう。
しかし僕らは、12年の12月に対戦相手が決まって以来、「ビート・ザ・ボクス 南アフリカを倒せ」ということだけを教え込まれてきた。あの場面は勝ちを狙いに行くのは当然だった。
「日本人には自主性がない」、とよく言われるが、選手が示したように、日本人には自主性は、ある。南アフリカ戦のあのシーンは、まさに「最高の自主性」が発揮された瞬間だった。
「最高の自主性」は、自然と生まれたものではない。そこに至るには、ある程度、「強制」する必要がある。背中を押してあげて、ここからは自分で考えろ、という場所までは、指揮官が導いてあげる必要がある。
僕らには、宮崎の「狂気」の合宿が必要だった。p264-265
→ここからは自分で考えろって所まで連れてくのは指揮官の役目なんだな。投稿日:2019.10.06
生島淳のノンフィクション作品『奇跡のチーム ラグビー日本代表、南アフリカに勝つ』を読みました。
廣瀬俊朗の作品に続き、ラグビー関係の作品です… 生島淳の作品は5年半くらい前に読んた『ラグビー日本代表ヘ…ッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは「信じること」』以来なので久し振りですね。
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ラグビーW杯開幕! 必読のスポーツノンフィクション
世界が震える勝利はこうして生まれた!
2015年9月19日、ラグビーW杯イングランド大会。
強豪南アフリカに劇的な逆転勝ちをおさめ、世界を驚かせたラグビー日本代表〝エディー・ジャパン〟。
勝利に至る歩みのすべてを選手・関係者への徹底取材して明らかにした傑作ノンフィクション。
世界を舞台に勝ちたいすべての人に、示唆に富む一冊。
単行本『エディー・ウォーズ』に新章を加筆して文庫化。
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第10回ラグビーワールドカップ(RWC)2023フランス大会が開幕しました… ということで、蔵書の中からラグビー関係の書籍を選択しました。
■目次
■プロローグ
■第一章 エディー・ジョーンズ
■第二章 マインド・ゲーム
■第三章 スーパー・ラグビー・クライシス
■第四章 ボーダーライン
■第五章 カウントダウン
■第六章 ゲーム・デイ
■第七章 ドリームズ・カム・トゥルー
■第八章 ラスト・デイズ
■第九章 オン・ザ・ウェイ・ホーム
■第十章 ミラクル・チーム
■エピローグ
■解説 畠山健介
稀代の勝負師、エディー・ジョーンズは、グッドボスだったのか、バッドボスだったのか!
2015年9月19日、英国の地で世界を驚かせた、ラグビー日本代表の大勝利… あの感動的なシーンを迎えるまでには、指揮官エディー・ジョーンズとチームの間に長い戦いがあった、、、
選手やスタッフは肉体的にも精神的にも追い詰められ、極限に達していた。そこで生じたパワーが、あのワールドカップで強豪南アフリカを倒したのだ… ワールドカップ後、選手、関係者30名以上に取材をし明かされた真実は、日本ラグビー界に「成績」と共に残されるべき稀有な「プロセス」だ。
ワールドカップは、エディーの戦いであり、エディーとの戦いだった… 本書はその一部始終である。
2大会前の第8回ラグビーワールドカップ(RWC)2015イングランド大会で、史上最大の番狂わせと言われたブライトンの奇跡(The Brighton Miracle)を実現するまでのラグビー日本代表の軌跡を描いた作品… 当時、生放送でも応援していたし、再放送で何度も観た試合で、何度観ても感動する試合、、、
そこまでの道程をヘッドコーチ、スタッフ、コーチ陣、選手等の関係者約40人への取材から再構成… 華やかな試合の裏側にある、厳しい練習、徹底した準備が描かれておりノンフィクションなんですがドラマを観ているような展開でしたね。
この結果があったからこそ、第9回ラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会でのベスト8進出が実現できたと思います… ラグビーに限らず、世界の舞台で成功するために必要なものばかりなのでマネジメントのヒントにもなりそうですね、、、
試合前日に選手のモチベーションアップに使った過去3年間の軌跡をまとめたビデオ… BGMで使われたのはコールドプレイの"Viva La Vida"だったそうです、大好きな曲なので嬉しかったですね。続きを読む投稿日:2023.09.13
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