この作品のレビュー
平均 4.1 (10件のレビュー)
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第二次世界大戦敗戦後、日本の復興のために天皇制度護持のために奔走した人物はたくさん存在した。
有名どころだと、元首相・近衛文麿や、『終戦のエンペラー』で描かれる連合国軍最高司令官マッカーサー元帥の部下…、陸軍准将ボナー・フェラーズ。クリスチャンにして教育家・河井道。そしてウィリアム・メレル・ヴォーリズ。
メンソレータム(現在の商品名はメンターム)を日本に普及させた近江兄弟社創業者のひとり。そして教会や学校など多くの建物を手がけた建築家。彼もまた、天皇制度の護持、というより、天皇が「神から人間へ」となるために心を砕いた人だった。
明治38年、日露戦争まっただなか。現在の滋賀県の商業高校の英語教師として、24歳のヴォーリズはたったひとり、海を越えて来日した。
彼は、「大きな家をつくろう」という、生涯変わることのない願いを抱いていた。
「屋根というのはアメリカ人でも日本人でも、ペルシア人でもアフリカ人でも、ひとしく風雨からまもる。その下にあたたかい団欒の場をつくる。私たちはいずれ、地球そのものを覆う広大な一枚の屋根をかける人になりましょう」
『屋根をかける人』。アメリカに生まれ、日本に帰化し、明治・大正・昭和と続く激動の近代史のなかに大きな足跡を残した知られざる巨人。その半生を追う伝記小説。
メレルが物語の主人公として魅力的かというと、最初はそれほどでもないと思う。彼は中途半端だ。建築家として正式な資格は持たず、メンソレータムは実は万能薬ではなく、伝道者だが宣教師ではなく、日本に帰化しても、考え方はどこまでもアメリカ人。けれど第八章で昭和天皇との対話を経た後には、急に第一章のメレルが愛おしくなるから不思議だ。つねにどっちつかずだからこそ、国境や民族を超えた理想の居場所をつくり続け、いつか日本とアメリカ双方に大きな「屋根をかける人」になる青年。器用で要領が良いようで、どこか融通が利かない不器用さも併せもつ。
昭和39年、メレルが世を去って物語は終わる。最後まで読んだなら、ぜひ第一章から読み返してほしい。最初に読んだときには見出せなかった、これから不格好に珍奇な人生をいきぬいてゆく24歳のメレルに、初見の偏屈さや陰気さを補ってありあまる魅力があふれてみえる……かもしれない。
KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。
https://kadobun.jp/reviews/652/fa29c138続きを読む投稿日:2019.03.25
アメリカ人が日本に来たとか、実業家が何かを成し遂げたとか、一般化できるような話ではなかった。
この、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏でしか成し得なかったこと、彼にしか駆け抜けられなかった人生というもの…を存分に感じることができた。
まず、ヴォーリズ氏は、若くして非常に弁が立ち、向上心、野心に溢れた男で、この時点で、成功者としての素質を持っているのだった。
ヴォーリズ氏であれば、どの時代でも、どの国でも、成功することができただろう。
20代半ばで日本の近江八幡に来て、英語教師として教鞭をとったのをはじめとして、キリスト教の布教活動、建築活動、そして、メンソレータムの販売と、壮年期まで休むことなくビジネスに邁進し続ける。
賢く(ずる賢いかもしれない)、精力的なヴォーリズ氏は、さまざまな事業を成功させながらも、その人生には紆余曲折があった。
仲間の死、妻との出会い、そして第二次世界大戦…。それぞれの転機で、物語は盛り上がる。その転機も多彩で、それぞれ異なった感動を読者に与えてくれる。
還暦を迎え、老年期のヴォーリズ氏は、精力的な活動から離れ、時代の観測者として、ゆっくりと、終わりに向かって進んでいく。
衰えゆくヴォーリズ氏と反面、妻の満喜子さんは精力的な活動を続ける。ヴォーリズ氏あってこの妻と言えるだろう。似た雰囲気を感じる。
戦争が終わり、ヴォーリズ氏の命のともしびも消えていく。
その描写はあっさりとして、この物語自体も、突然の幕引きというか、カラッとした乾燥感だけを残して終わる。
まさに、外観や装飾より機能性を重視したヴォーリズ氏の建築のように、無駄を省いた最期の描写だったのだろうか、と感じた。
全体を通して、ヴォーリズ氏のエネルギッシュさに勇気づけられた。また、戦時中の雰囲気をリアルに知れる歴史小説としての側面も感じた。そして、ヴォーリズ氏と満喜子さんとの深い愛情。この2人が出会って本当に良かったと思う。
ヴォーリズ氏の人生は、破天荒すぎて真似できないなぁと思いつつ。布教、建築、輸入販売と、多くの面でまさにエヴァンジェリストとして活躍した人物に尊敬の念を抱いた。
ヴォーリズ氏とは離れるが、同じく近江八幡を礎とし、本小説にも登場する、菓子処のたねやとクラブハリエに興味を持った。食べてみようと思う。近江八幡の雰囲気を感じられるかもしれない。続きを読む投稿日:2023.09.18
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