「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨
大木毅(著者)
/角川新書
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ヒトラーの忠実なる“軍人”か、誠実なる“反逆者”か。第二次世界大戦を動かした男の虚像と実像を暴く。これまでの俗説を打破する決定版!!ドイツ国防軍で最も有名な将軍で、第二次世界大戦の際は連合国からナポレオン以来の名将とまで言われた男、ロンメル。最後はヒトラー暗殺の陰謀に加担したとされ、非業の死を遂げるが、北アフリカ戦線の活躍から名づけられた「砂漠の狐」の名称は広く知られている。ところが、日本ではとうの昔に否定された40年近く前の説が生きている程、ロンメル研究は遅れていた。ロンメルは、ヒトラー暗殺計画に気づいていたのか!? 知っていたとしたら、それを支持していたのか!? 最新学説を盛り込んだ一級の評伝!「日本では【略】、軍事はアカデミズムにおいて扱われない。一方、「本職」の自衛隊や旧軍人のあいだでも、戦前、みっちりとドイツ語教育を受けた世代が退くにつれ、第二次世界大戦の欧州方面の歴史に関する研究が紹介されることもなくなってきたのである。 【略】もちろん、ミリタリー本などでは、多々ロンメルが取り上げられてはいたものの、それらのほとんどは、1980年代の段階にとどまっており、なかには、アーヴィングの『狐の足跡』の歪曲を無批判に踏襲するばかりか、誇張して広めるものさえあったのだ。」(「あとがき」より)
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この作品のレビュー
平均 4.1 (21件のレビュー)
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「砂漠の狐」といえば、言わずもがなエルヴィン・ロンメル将軍の異名としてあまりにも有名で、寡兵であるにもかかわらず大量の連合軍を相手にアフリカでの砂漠戦で数々の勝利を成し遂げた名将として名高い存在である…。
しかし、ロンメルが寡兵がゆえに苦労した原因としては従来、そもそもアフリカ軍団としてドイツは2個師団しか送り込まなかった、そもそもイタリアの尻拭いの戦いでありイタリア上層部との諍いが絶えなかった、言っても言っても補給が思い通りにならなかったなどが挙げられていたかと思う。
にもかかわらず戦術的な勝利を続けたロンメル将軍は「名将」の名を欲しいままにしていたわけだが、欧米では逆に作られた「英雄像」ということでロンメル批判ともいうべき言論も展開されていたそうである。
しかし、近年になって「ロンメル」像の再評価が行われているということであり、本書はそうした最近の知見を筆者の見解とともに論述した内容となっている。
「砂漠の英雄」として祭り上げられたのは、当時「英雄」を欲していたドイツ国内の事情も大きいとのことである。
ヒトラーの引き立てに加えて、宣伝相・ゲッペルスの「英雄」としての大喧伝、ロンメル自身の自己アピールの大きさがあったということである。
ロンメルはプロイセン出でもなく中産階級の出であり、参謀養成の課程も受けたことがなかったため、本来は出生する人物ではなかったということであるが、持ち前の戦術指揮の優れた才能や常に最前線で陣頭指揮を行う姿、それらの結果として成し遂げた功やそれ以外に他人の功まで自分の功として猛烈に自己アピールする自己顕示欲の強さなどが最終的にヒトラーに認められたことにより大出世を遂げたとのことであった。
(ま、こういう人は今でも少なからずいますね・・・)
しかし、そうした性格と才能が発揮できるのは戦術レベルの指揮官までであり、戦略レベルの構想や実行、補給など軍司令官レベルに求められる才能としては失格で、常に戦術レベルの有利さを追い求め、司令官が不在となるにもかかわらず陣頭に立ち続け、補給を無視した作戦を実行するということで、それなりの上司からは有能なのは師団長までという烙印を押され続けていたようである。
(ま、周りのフォローが続く間は良かったのでしょうね。今もいますね・・・)
そして彼の悲劇は、彼を引き立ててくれたヒトラーとの関係が悪化し、ノルマンディー上陸作戦への対応を見誤り、ヒトラー暗殺計画に関与しようとしていたことなのだろう。
次第にひどくなるヒトラーの国家戦略についていけなくなり、自らも決定的な戦略的誤りを犯してしまう。
結局、政略・戦略的な才能が無い分、逆の意味の運命に翻弄されたのでしょうか。
(今もそんな人が結構いますが、その運命は・・・!?)
「砂漠の狐」の実像ということで、結構面白かったです。
ヒトラーが指示した戦争犯罪行為には加担しなかったということなので、それなりに気骨もある人物だったのかもしれません。
やっぱり後世に名を残す「将軍」ということでいいんでないかな。続きを読む投稿日:2019.05.06
第二次世界大戦に興味がない人でも、本書で主題として取り上げているロンメルという名前を聞いたことがあるという人は多いだろう。ナチスドイツの軍人としてアフリカ戦線で活躍した彼は、ドイツの軍人としては過去か…ら現在にかけて最も有名な軍人の1人だと思う。 本書はそのロンメルについて、その伝説と事実を切り分けた上で、軍人としての評価をすることを目的とした1冊だ。
最初に告白しておくと、自分は別にロンメルに対して特別な思いがあるわけでもないし、彼の伝記を読んだことがあるわけでもない。 ただ戦略と戦術の究極的な活用は求められる戦場において、卓越した能力を見せたのであれば、一度は詳しく知っておきたいと思ったのだ。
結論から先に言えば、本書におけるロンメルの評価は「勇敢にして偉大な戦術家ではあったが、戦略家としては凡庸であり師団長以上の素質はなかった」ということになる。 この評価は決して著者だけのものではなく、現代におけるロンメルの一般的な評価と言えるらしい。 本書では何故にそのような評価になったのか、そして彼がそのように評価される軍人になったのはどのような理由なのかを丁寧に解きほぐしていく。 また決して主題ではないと言え、そのプロセスの最終章としてロンメルがヒトラーの暗殺に関わっていたのかと言う疑問に対しても著者なりの回答を提示する。
本書を通読して感じるのは、戦術家と戦略家と言うのは決して同じ素養を求められるものではないし、戦略家は多くの学びと経験から生まれてくるのだと言う当たり前の事実だ。 漫画や小説ではしばし天才的な戦略家というのが登場してくるが、残念ながら現実の世界においてはそのような期待をする事はもはやできない。もちろん素養がないものが優れた戦略家になる事は決してないと言えるが、複雑な事象を大局的な観点からコントロールするためには、座学での学びと実際での経験を融合させることが不可欠なのだ。
本書によれば、プロイセンとその後のドイツにおいてメインストリームを歩んだわけではないロンメルは、そのような学びを提供される機会がなかったらしい。 また彼は、その生来の性格上、いわゆるデスクワークが好きではなかったようだし、戦場において後方から指揮を取ることも好まなかった。さらに 現在の軍事活動においては不可欠となる補給についてもあまり注意を払う事はなかったらしい。数十万人やそれ以上の軍人の生殺与奪を握る人間としては、著者が言うように失格なのだろう。
一方でそのような欠点、例えば常に前線で指揮をすることを好むであるとか、独断専行や果敢な判断と言うのは戦場の現場において指揮を行う戦術家にとっては好ましい性質となる。 本社では、彼のそのような特質により特に彼のキャリアの前半で多くの戦果を勝ちとったことが丁寧に説明されている。
本書は新書という形をとっているが、戦場に関する記述についてはあまり図表がなく、事前知識を必要とする部分が多くある。またロンメルの一生を描くと言う性質上、彼が関わった多くの人間が次々登場しては去っていくために、 人間の名前を覚えるのでも一苦労だった。 そういった意味ではわかりやすい戦場の英雄端や紋切り型の軍人に対する評価を期待する人には、あまり本書を向いてるとは言えない。 丁寧な記述を口にせず、紋切り型ではない人物評価を読みたいという硬派な読者向けの一冊に仕上がっていると思うし、 戦争や軍事史に関する本と言うのは本来はこうあるべきなのだと思う。続きを読む投稿日:2024.03.04
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