ポスドク!(新潮文庫)
高殿円(著)
/新潮文庫
作品情報
瓶子貴宣(へいしたかのぶ)は、月収10万円の私大非常勤講師。博士号を持ち実力も抜群なのに、指導教官の不祥事で出世の道を閉ざされた。しかも姉が育児放棄した甥、誉(ほまれ)を養ってもいる。貧乏でも正規雇用を諦めない貴宣の前に、千載一遇のチャンスが。だが誉を引き取りに姉が現れ、家庭問題まで勃発――。奮闘するポスドクの未来はどうなる!? 痛快かつ心温まる、極上のエンタテインメント。『マル合の下僕』改題。
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商品情報
- シリーズ
- ポスドク!(新潮文庫)
- 著者
- 高殿円
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2018.01.01
- Reader Store発売日
- 2018.06.15
- ファイルサイズ
- 8.4MB
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この作品のレビュー
平均 3.0 (17件のレビュー)
-
友人のポスドク(曰く、忍者のようにありとあらゆる学会に影のように出没し、手裏剣のように名刺を撒き散らす)のことを思い出しながら、楽しく読むことができました。
博士課程を修了したのち、非常勤の助手や講…師として大学に残る「ポストドクター」。主人公の瓶子貴宣伝(へいしたかのぶ)は女子大の非常勤講師として月収10万円のワーキングプアでありながら、実姉の置き去りにした甥を育てる三十男。大学内で専任のポストを得るべく奮闘する主人公を描いたエンタメ作品です。
大学に残るドクターの「人生」を垣間見ることもできますし、主人公や甥のキャラクター、またなにかと主人公の前に表れて鬱陶しがられる薬膳という登場人物も魅力的です。
物語としての「ヤマ場」もしっかりとありましたし、主人公のセリフ回しも痛快で、すらすらと読むことができました。
ただのエンタメ作品、というわけではなく、育児放棄をした「クズ姉」しずるとのやりとりなどから、「どう生きるか』ということについてもメッセージ性があるように思います。
特に
「俺の座右の銘はいろいろある。……中でも一番心がけているのはこれだ。”一瞬のスッキリより一生の得”。……いくらやり返したいからと言って脊髄反射的に喚きちらしたり暴力に訴えるのは節足動物のやることだ。脊椎動物は知恵をもつべきだし、自分の行動をつねに二度美味しいにするには冷静さが必要になってくる」
というセリフや、
「決して泣き寝入りはしない。心を負けたままにはしておかない。負けた事実はしかたないが、それをバネに変えるところまで頭の中にイメージを固めてしまえば、心まで負けたことにはならない。……昨今よく言われる生きやすく生きる、というキーワードはたしかに人間にとって大事なことのひとつだろう。けれど、生きやすく生きるためにはなにより知恵が必要なのだ。逆境をパワーに変え、あるいは受けたダメージを効率よくアドバンテージに変換するためには、頭を使って考えることが大事だ。だれもが生きやすく生きようと思ってできるわけではない。だったら、大人が子供に教えるべきは、この思考のスイッチだ。知恵と教養は精神を助け、いずれは身を助ける」
という述懐はとても響きました。続きを読む投稿日:2019.01.17
バカ小説。
関西の私立女子大で非常勤講師をやっている貴宣のもとに、姉の子供である誉が転がり込んできた。しかし貴宣は週に数コマの授業を請け負って、その報酬10万円をもらうだけの貧乏ポスドクである。そこ…へ、急死した教授の抱えていたプロジェクトの後任の話が持ち上がる…。
えー、取材しろ。以上。
ひどい。
まあ、歴史感性学とか男根学とか、荒唐無稽のよくわからない専攻ばかりなのは、お話なので目をつぶるとしても、そもそもの瓶子貴宣がポスドクじゃない。その時点でズッコケル。
ポスドクであるためには、まず大学内の住所に相当する研究室に属していなければならない。それに対し、この本に出てくる貴宣は、いわば「流しの講師」であり、研究室がない。つまり住所不定である。そんなやつがおるか。それに、住所不定の流しに講義を頼むバカ大学が有るか。
住所不定というのは、結局物語の最後まで不安要素として残ってしまう。そこにテーマ中に重くのしかかる「貧乏」という要素なのだが、少なくとも研究室に属していれば、日割りで月に10万円は貰えるわけで、講義の10万円を加えて20万円である。それではいかんのか?
そんないい加減な大学組織の描写のおかげで、得体のしれない脳波を取るという研究もぼんやりして、特に面白みもなく終わってしまった。
難をあげればたくさんで、書かれたという2014年時点で35歳だと、私大だろうが国立大だろうが、免除職制度は終わっているので、常勤職についても奨学金の返済義務が生じる。「”査読付きの”論文読みましたよ」も絶対言わない。洗剤の宣伝の載っている学術誌って何?そんなの業績にならんやろ?
ストーリーの方は、ここまで読んだ方なら分かる通り、大学内の話は脇道であり、家に帰ってから、甥の誉との関係の部分がメインであり、またこれがダラダラと盛り上がりもなく読むところがないのである。
全体に読めなくはないがメリハリのないストーリーであり、最低限なされていてほしかった章分けも存在しないため、とにかく締まりのない文章という印象であった。
終盤で事件とその復讐という部分も、結局は誰も悪役にしないような作り。そのくせ姉のしずるは悪人のままなんだよなあ。なんか恨みでも有るんか?
所々に、古い大学に関する妙にリアルな描写が現れるのは、この作者が修士程度は研究室に関わっていたのだろうとは推測する。特に『竹繊維による抗菌機能の解析』は、作者の修論テーマじゃないの?他の研究テーマに比べて、書き方がリアルだし。
まあしかし、取材しないなら書くな、編集も責任持ちたくないのなら書かせるな(解説がないのも責任が取れんからだろ?)というレベルの話で、小中学校生向けで、大人は読まないような少女漫画の原作くらいならいいんじゃない?
ところで、改題された元のタイトルが意味不明。『マル合』って何?理系では使わない表現?続きを読む投稿日:2021.12.23
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