牛と土 福島、3.11その後。
眞並恭介(著)
/集英社文庫
作品情報
【第37回講談社ノンフィクション賞、第58回日本ジャーナリスト会議賞(JCJ賞)受賞作】東日本大震災、福島第一原発事故で被曝地となった福島。警戒区域内の家畜を殺処分するよう政府は指示を出した。しかし、自らの賠償金や慰謝料をつぎ込んでまで、被曝した牛たちの「生きる意味」を見出し、抗い続けた牛飼いたちがいた。牛たちの営みはやがて大地を癒していく―。そう信じた彼らの闘いに光を当てる、忘れてはならない真実の記録。
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商品情報
- シリーズ
- 牛と土 福島、3.11その後。
- 著者
- 眞並恭介
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2018.02.25
- Reader Store発売日
- 2018.04.13
- ファイルサイズ
- 4.8MB
- ページ数
- 320ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (3件のレビュー)
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さらにその後はどうなっているのだろう
原発事故が発生した当初警戒区域内には約3500頭の牛がいた。それが2015年1月20日現在、安楽死処分が1747頭、処分に不同意の所有者にいる飼養継続が550頭、畜舎内で死亡した牛を合わせた一時埋却処…分が3509頭となっている。事故後に自然交配で生まれた数と餓死・病死などで死んだ数はわからない。
2011年5月11日菅総理は福島県知事に対し「家畜は所有者の同意を得て殺処分するように指示を出した。犬や猫のような愛玩動物であれば、動物愛護の精神からも殺処分になんてできないはずだ。しかし、家畜は産業動物といわれ、経済的価値がなくなれば存在理由はない。その状況下で牛飼いはどうやって牛を生かせ続ける意味を見つけるのか。
国の指示に同意した牛飼いの方が多数派で、飼養を続けるとそこにはいがみあいも起こる。「なんでおめえらは国の言うとおり、安楽死の指示に従わないんだ」「警戒区域の牛は平等に死んでもらわないと、おめえらが牛を生かしているうちは、同意したおれらがばかを見る」東電や国ではなくどうしても近くにいる意見の違う人に当たってしまうのだ。
牛を飼い続けるためには電気柵を作ったり、特に冬場は限られた時間内に餌を運んだりとやるべきことは多くある。そして殺処分に同意しない飼い主には圧力もかかる。「牛が他人の土地に侵入してものを壊したり迷惑かけたりしたら、それは飼い主であるあなたの責任ですよ」と言う県職員もいた。一時帰宅をした時に逃げ出した牛の被害を受けた人からの苦情はある。そしてここでも身近な飼い主に不満は向いてしまう。
警戒区域内への立ち入りにはオフサイトセンターの許可が要る、そして国の指示に反して牛を飼い続けることを理由にするとなかなか許可が下りない。「我々としては立ち入りを拒んでいるということではなくて、公益のルールで入っていただくなら、公益のルールの範囲で申請書の中身を、ちゃんと我々のほうで読めるものにしていただかないと、町が許可してうちが同意というかたちはとりにくいのです。」これに対する牛飼いの吉沢は警戒区域内に住んでいることを暴露し、さらに職員を責める。「僕は一生問うよ。あんたたちは逃げた、腰抜け役所ですよ。それが今更何を制限するというのか!」
農家だけでなく研究者の中からも警戒区域の牛を生かす動きが出てきた。牛がどんどん増えないように警戒区域内の牛を去勢をしてまわった医者は生体除染の見通しが立っているという。汚染されていない飼料を3ヶ月程度給餌すれば、被爆前と同じレベルまで清浄化できることがわかってきた。警戒区域の牛の40%が出荷基準を満たしており一律に殺処分する理由はないという。実際には売れないだろうが。行き場のない牛を生き残らせる可能性があるとしたら研究対象に使うしかない。被爆だけでなく牛による農地保全の研究もある。
不幸なことではあるが、事故からしか学べない科学的知見もある。今回の事故で被爆した牛の調査によって、筋肉の種類によってセシウムの残り方が違うこととその規則性がわかってきた。また、牛が汚染された山野菜を食べたエリアでは、土壌のセシウム汚染は低減し、排泄した場所の汚染度が上がる。うまく糞尿を回収すれば農地の除染ができる可能性はある。
チェルノブイリの野生生物の調査ではがんや奇形など有害な影響が数多く報告されているが、今の所福島では重大な遺伝的損傷はまだ観察されていないという。「チェルノブイリの森」によると森で見られる野生生物は健康な個体ばかりだったというが、おそらく障害を負った個体は生き残れないからだろう。家畜の肉牛の寿命は30ヶ月ほど。事故後に生まれた中にもすでにもっと長く生きている個体もいる。本書で何度も登場する双子もそうだ。続きを読む投稿日:2018.06.08
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眞並恭介(1951年~)は、主に医学・医療分野の分野を取り上げた作品を執筆するノンフィクション作家。本書は、2015年に出版され、同年の講談社ノンフィクション賞を受賞、2018年に文庫化。
我々は、2…011年3月11日の東日本大震災時に起こった福島第1原発事故により、東京23区の半分もの広さの地域が帰還困難区域となり、数万人の人びとがそれまでに住んでいた場所から未だに離れて暮らしていることを知ってはいるが、その記憶は日々の生活の中で僅かずつとはいえ薄れつつあるし、ましてや、その地域にいた動物たちのその後を意識することは、残念ながらほとんどない。
しかし、本書を読むと、原発事故発生時に警戒区域に約3,500頭の牛がいたこと(豚は約3万頭、鶏は44万羽)、そして、その牛たちと牛飼いの畜産農家の人びとの運命と生活が、その日を境に不可逆的に変わってしまったことを改めて認識する。
震災から約4年後の調査報告によると、約3,500頭の牛は、安楽死処分が1,747頭、処分に不同意の所有者による飼養継続が550頭、安楽死処分と畜舎内で死亡した牛を合わせた一時埋葬処分が3,509頭である。単純合計が元の頭数をはるかに上回るが、事故後に自然交配で生まれた牛などが把握できないことによる。
また、数百の畜産農家は、(国の命令である)安楽死処分に同意せざるを得なかった人と同意しなかった人、(人に迷惑をかけないように、餓死しないようにという思いは共通でも)牛をつないだまま逃げた人と放して逃げた人、牛飼いを続けている人・再開しようとしている人と諦めた人、故郷に帰ろうとしている人と帰らない人・帰れない人などに分かれ、更に賠償金や慰謝料の格差もあり、畜産農家間での亀裂は深まっているという。
そうした中で、本書に描かれているのは、必死になって牛の命を守り続ける牛飼いや獣医師たち、特に、帰還困難区域に指定された浪江町小丸の牧場にいる、震災時8ヶ月齢だった双子の安糸丸・安糸丸二号の運命を軸として、被曝牛に深く関わった人びとの姿と心の内である。
西洋であれば「牛は人の食料として存在する動物であり、人間が被曝の危険を冒しながら飼育する意味などない」と大半の人びとが考える状況で、国が殺処分を命じた牛、被曝した牛を生かす意味を探り求めながら飼い続ける牛飼いたちの姿。。。それは極めて日本的であるし、それ故にこそ、心からの共感を覚えずにはいられない。
「福島、3.11その後」を知ることができる、貴重かつ心に迫る一冊と思う。
(2019年8月了)続きを読む投稿日:2019.08.10
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