この作品のレビュー
平均 3.9 (14件のレビュー)
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自らを歴史探偵と称して、『昭和史』や『日本のいちばん長い日』などの日本の昭和史を中心に一般向けに魅力的な書籍を出し続けてきた著者が、日本の戦前期の昭和史を世界史の中で位置づけて見直したものである。
…日本で主に軍部が主導してこの時期に起こした重要な出来事として、満州事変、上海事変、国際連盟脱退、二・二六事件、日中戦争、ノモンハン事件、日独伊三国同盟締結、日ソ中立条約締結、南部インドネシア進駐、真珠湾奇襲攻撃、などが続いていく。そして同時期に、スターリンとヒトラーという歴史が生んでしまった二人の狂信的指導者による独ソの国としての動向がある。この国際情勢について知らなければこれらの出来事に当たっての日本の軍部や政府が下した判断に対する正確な評価は得られない。いずにれせよ、スターリン時代の始まりとヒトラーの全権掌握と昭和の幕開けが時を合わせているのは、歴史の皮肉だったと。ヒトラーが首相となり悪名高い全権委任法を通した1933年は、昭和8年に当たる。日本は彼らに振り回されたという感もあるが、一方で日本の戦略性のない対外交渉経緯が目に付く。
例えば、1940年の日独伊三国同盟が最後の分かれ道になり、アメリカとの戦争が避けがたく、それは日本という国にとっては致命的なものとなったというのが半藤史観でもある。日本の一部では、これをソ連も加えた日独伊ソ四国協商まで広げるというのが政府の考えであったが、現実性が乏しく、ヒトラーのソ連への侵攻によって当初より可能性なきものであったことがわかった。それにも関わらず、日ソ不可侵条約をもとにして、終戦の判断間際まで第二次世界大戦終了の仲介をソ連に頼んでいたのも今から思えば、見たいようにしかものを見ない愚かな行動であった。
また戦略の欠如という観点では、そもそもの日中戦争は日本にとってはしなくてもいい、起こってしまった以上は早期に停戦すべき、戦略的にはそう考えなければならない戦いであったとされる。それだけ戦略的意義のない戦いであったのだ。それが何を思ったか上海戦に勝利を収めてしまったことから、首都南京に攻め入ることを指示せざるを得ないことになった。首都を押さえれば日中戦争は日本側の勝利で終わるという誤解。南京侵攻の前に蒋介石と和平の可能性もあったとのこと、その後に起きたことを考えても残念な気持ちと、よくない意味での日本らしさが出ていた。
また、そういった政府や軍部の行動に、新聞が大きな役割を担っていたことは忘れない方がいい。
半藤さんは、国民とも言わず、民衆・大衆とも言わず、「民草」というのは「国」という枠に固められたものでもなく「衆」というような集まりではなく、弱々しくも流されやすい一人ひとりの人間を表すのに「民草」がもっともしっくりくるのだという。そういった「民草」をメディアは煽り、世間の空気を作り上げたのである。「バスに乗り遅れるな」と煽ったのは新聞であった。
ところどころアントニー・ビーヴァーの『第二次世界大戦』の描写が引用されているが、これはいつか読みたい本。『ベルリン陥落1945』『スターリングラード』や『赤軍記者グロースマン―独ソ戦取材ノート』をかつて読んだが、丁寧な取材をもとにした記載にとても迫力があった。
その前に『昭和史』を読まないといけないな、と思いAmazonにて購入。まずは知ることから始めないといけないのだ。
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『日本のいちばん長い日』(半藤一利)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4167483157
『十二月八日と八月十五日』(半藤一利)のレビュー
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『21世紀の戦争論 昭和史から考える』(半藤一利)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4166610724続きを読む投稿日:2020.09.21
半藤昭和史三部作・完結編。昭和史を世界史のなかでどう位置付けるか。それは日本が第二次世界大戦・太平洋戦争を通して世界からどう見られていたかを考えると見えてくる。日独伊三国同盟を結ぶに至る経緯と、日ソ中…立条約のソ連側からの急な破棄などの章を読むと世界史は一筋縄ではいかず各国の思惑が入り乱れ重層的な様相を呈す。日本はアメリカと同様にヨーロッパから見ると辺境の地、世界が欧州大戦に目が向いている間に中国に進出、領土を切り取って最初のうちは押せ押せでよかったがやがて泥沼の日中戦争に突入。英仏が常に気にしてるのはソ連とドイツの動きで、そのからみで日本が世界史の表舞台に出てくる。ドイツの考えではごく簡単にいえば日本と同盟を組んでソ連を西と東から挟み撃ちにする形にしたかったのだろう。しかしさしものドイツもナポレオン軍と同様、冬将軍には勝てなったようだ。詳細→
https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou27607.html続きを読む投稿日:2023.10.28
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