江戸川乱歩と横溝正史
中川右介(著)
/集英社学芸単行本
作品情報
日本の探偵小説を牽引した二大巨頭、江戸川乱歩と横溝正史。盟友として、ライバルとして、お互い認め合い、時に対立しつつ、一方が作家として執筆するとき、他方は編集者として支えた。太陽と月にも喩えられる日本文学史上稀な関係は、どのように生まれ育まれたのか。二人の大作家の歩みを辿りながら、日本のミステリ史のみならず、日本の出版史をも描き出す、空前の対比評伝! 【目次】はじめに/第一章 登場―「新青年」 ~一九二四年/第二章 飛躍―『心理試験』『広告人形』 一九二五~二六年/第三章 盟友―『江戸川乱歩全集』 一九二六~三一年/第四章 危機―『怪人二十面相』『真珠郎』 一九三二~四五年/幕間―一九四〇~四五年/第五章 再起―「黄金虫」「ロック」「宝石」 一九四五~四六年/第六章 奇跡―『本陣殺人事件』 一九四六~四八年/第七章 復活―『青銅の魔人』 一九四八~五四年/第八章 新星―『悪魔の手毬唄』 一九五四~五九年/第九章 落陽―乱歩死す 一九五九~六五年/第十章 不滅―横溝ブーム 一九六五~八二年/あとがき
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商品情報
- シリーズ
- 江戸川乱歩と横溝正史
- 著者
- 中川右介
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社学芸単行本
- 書籍発売日
- 2017.10.26
- Reader Store発売日
- 2017.12.01
- ファイルサイズ
- 1.7MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (7件のレビュー)
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「第6章 奇跡」はタイトルどおり「奇跡」の章
正直言って乱歩に興味はなかったが、2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山の真備町が、かつて横溝の疎開先だったことを思い出し、そこだけ拾い読みしようと読み始めた。
いまだにこの地域ではファンと…の間で交流があり、支援の手も多数差し伸べられたという。
第6章の「奇跡」というタイトルが付いた章で何度もこみ上げるものを感じ、結局すべて読んでしまった。
読み終えてもう一度この章を読み返したが、感慨はより深まり、涙が止まらなくなった。
しばらく会っていなかった二人の二度の再会のシーンは、とりわけ胸を熱くさせられた。
正史は遠く離れた疎開先で、友人から乱歩は人が変わってしまったから注意しろと忠告を受ける。
戦中・戦後と困窮の中でも東京の文壇でボス的な存在として幅広く活躍していた乱歩と、岡山の田舎で食にも困らずひとり創作に打ち込んだ正史とでは、すれ違いが生じても仕方がないほど経験に差ができていた。
同時に正史は、その後の自身の人生だけでなく日本の探偵小説界に金字塔となる作品も世に問うたばかりで、乱歩にとっては友としての喜びとは別に、先を越されたという嫉妬にも似た複雑な感情が綯い交ぜになっている。
その乱歩が疎開先の正史に会いに来たのが一度目の再会シーン。
最初はお互いに警戒心があったのかもしれないが、そこは同好の士、言葉を交わすうちに話が止まらなくなり、気づいたら朝の5時まで語り合っていたという。
「三晩泊って岡田を離れていったときには、やっぱり昔の乱歩さんでありました」という正史の感想が印象的だ。
二度目の再会シーンは、乱歩が正史を東京に呼び寄せたときで、それは同時に岡田村の人々との別れでもあった。
決して社交的ではなかったし、"奇人"と見られていた正史を多くの村人が見送り、駅まで行列ができたという。
「こんなよい人をあとに残してなぜ自分は、東京みたいな殺風景なところへ帰らなければならないのだろうかと思うと、つい私も泣けてきて、滂沱として涙が溢れた」。
東京に向かう汽車の中でも、「私は腹の底がつめたくなるようなかんじだった。なんの因果で、こんなところへかえらねばならなかったのかと、臍をかむ気持だった」と振り返る。
そんな絶望的な気分の横溝を、成城の新居で待ち受けていたのが乱歩で、「地獄で仏にあった」と安堵する。
ここまでくると、単なる同好の士を超えた友情を感じるが、そこは山あり谷ありで、諍いや確執ともとられる時期もあった。
二人の関係性は"太陽と月"にも例えられ、乱歩が旺盛に書いていると正史は書かず、正史が旺盛に書いているとき乱歩は沈黙するという塩梅だ。
また、作家とそれを助ける編集者・批評家という関係性もあり、お互いが相手を納得させる作品を書こうと切磋琢磨する。
なので読者の誰よりもお互いの感想が一番こたえるらしく、「負けるもんか」と一人つぶやいていたりする。
八歳差もあるので、横溝にとって乱歩は終生の兄なのだろう。
二人を通して日本出版界の興亡を描くとあるとおり、そのドラマは実に劇的だ。
当時は「発表のあてもなく小説を書く」なんてありえない時代で、二人もまず掲載誌から依頼を受け、その雑誌の読者の傾向に合わせて小説の味付けを変えていた。
『八つ墓村』の伝奇性も、必ずしも作品に不可欠な要素というわけではなかったが、マニアではない読者を退屈させないようにと一話ごとに山場を設けていた結果生まれた要素で、その伝奇ロマンが後に横溝ブームを生むキッカケになるのだから、世の中なにが幸いするかわからない。
ちょっと危うさを感じるのが二人の少年愛趣味で、ある少年を追って二人で旅行まで出かけるほどの熱を入れようだった。続きを読む投稿日:2019.07.29
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学校の図書館に並んでいたポプラ社の江戸川乱歩シリーズの、半分ほどが他の作家の手によるリライトであり、リライトされた過程が詳しく書かれていたのが自分にとっては最大の収穫。
投稿日:2020.12.23
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