この作品のレビュー
平均 4.0 (4件のレビュー)
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フリードリヒ・リストは「自由放任」を批判して、「保護貿易政策」の必要性を主張した。本著は、そのリストから学ぼうとするもので、‟貿易自由化の問題点“について、リストの理論を援用したものだ。
自由貿易が…望ましいとした主張として有名なものは、リカードの定理。二つの国が自由貿易を通じて相対的に得意とする産業分野に特化することで、両国とも経済厚生を高めることができると言う比較優位論である。しかし、リカードの定理は、二つの国で1つの生産要素のみが存在する、労働は完全雇用されている、運送費用はゼロである、などの前提条件の上に成立するもので、現実には、あり得ないと著者は述べる。また、一般的に高所得者よりも低所得者の方が、所得に占める消費の割合が高い。高所得者から低所得者への所得の再配分は、消費の拡大をもたらし、経済成長を促すのだが、貿易自由化は格差を拡大させ、経済成長はより阻害されるのだと。
また、産業の国際分業化を進める際、労働者が産業間を移動することにより、技能や経験が失われれば生産性の低下を招く。自由貿易は産業構造の変化をもたらすため、その変化によって生産性が低下するというのだ。これを回避するためにも、ある程度産業を保護し、雇用を継続的に維持するために政府が介入する必要がある。自由貿易論者はこれを認めたくない。
理屈は通っている。自由貿易派とのバランスを取っていく。そして、実際的な観点だ。
― 一方で、保護の過剰による失敗の可能性もある。保護関税をいつ、どれくらいにするのが適当であるか理論的に決める事は難しい。そのため、保護主義は理論的には容認され得るものの、複雑な現実を直視しつつ、保護主義を実践するのは面倒だから、単純な自由貿易の原則に従っていれば良いという論理をフリードリヒ・リストは見抜いていた。
― 富と言う価値であれ、勇気と言う美徳であれ、それが人間や社会に及ぼす効果は、本質的に状況依存的である。何が善であり、何が正義かと言う普遍的な原理原則を抽象論理によって発見することは不可能。善悪や正不正の判断は時と場所と状況によるからだ。この状況依存性というプラグマティックな洞察は、比較論的、あれは歴史学的な視点を与え、世界の多様性に対する目を開かせる。
なるべくして、自由貿易論に行き着いている。しかし、状況に応じた保護の努力は相変わらず重要だという事だ。続きを読む投稿日:2024.03.05
自由貿易というドグマは、なぜかくも強い影響力をもつのか。なぜ、それを疑うことすら許されないのか。
この謎を解く鍵となるのが、ドイツの政治経済学者フリードリヒ・リストである。
本書の目的は、このリストと…いう人物の理論と実践を、彼の生涯とともに解釈することによって、我々が自由貿易というドグマから自由になることができない根本的な原因を明らかにすることである。
自由貿易を正当化する「リカードの定理」の、現実とかけはなれた条件について、特に、収穫逓増を捨象した主流派経済学を批判した。ポール・ローマーが先鞭をつけた「新成長理論」についても、各産業部門間の分業と結合が引き起こす収穫逓増という一般的な現象を論じたヤングの理論とはかなり異なるもので、技術進歩が経済社会から内生するメカニズムを説明したことにはならないと説明し、主流派経済学の分析枠組みに則り、数理モデルによる定式化を容易にするために、さまざまな限定的な前提を置き、その結果、本来の内生的な経済成長のメカニズムの解明を犠牲にしてしまった。
マキャヴェリの世界観である、「世界とは、循々と変転してやむことのない動態である。社会、とりわけ国家というものは、隆興しつつあるか、衰亡しつつあるかのいずれかであって、均衡点で静止し続けるということはない」というもの、
また、マキャヴェリ、リストが重要視したのは、「見たことも聞いたこともない共和国や君主国を想像の中で描くことを戒め、人間いかに生きるべきか、よりも人の実際の生き方を追求しようとした」、ことが印象的だった。続きを読む投稿日:2018.07.01
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