中上健次は、評論、エッセイの書き手としても類い希な才能を発揮した作家だった・・・・・・。彼の初心が窺える詩編にも注目!ここに収めた諸篇からは、彼の初心とその持続の跡を窺うことが出来る。長編エッセイ「犯罪者永山則夫からの報告」(『鳥のように獣のように』)は、一九六八年に無差別連続ピストル射殺事件を起こした犯人で後に作家になった同世代の青年への根底的な問いであり、同時に自身へと差し向けられた、なぜ書くのかという初発の問いであった。『夢の力』には、坂口安吾論など本格的な作家論も収録、読むことが書くこと・・・
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昭和から平成へ・・・作家としての覚悟と決意を語った「もうひとつの国」等、中上の“最後の叫び”が凝縮された1巻。
『時代が終り、時代が始まる』は、昭和の時代のカウントダウンが開始された頃のエッセイ。一九八七年、沖縄国体ソフトボール競技会場で起きた「日の丸焼棄事件」に反応した作家は、時代の潮目を読むアンテナを備えた一人のシャーマンでもあった。
長篇エッセイ「もうひとつの国」は、韓国、バリ島と旅を続ける作家の自作とその風土の解読としても刺激的な内容である。中上健次はここで、和歌山県新宮市の土木建設業者の親族が中心的な役割を果たした、現実の「路地」の解体=再開発を目の当たりにして、作家としての覚悟と決意を語っているのだ。虚構空間としての「路地」は、言うまでもなく「現実の路地」(被差別部落)と深く切り結んでいた。あるいは、ここで語られた「熊野」とは、もとより世界遺産指定以前の、「中心」に回収されることのない熊野である。
『バッファロー・ソルジャー』のタイトルは、ジャマイカのレゲエ歌手ボブ・マーリーの歌から取られている。Buffalow soldier brought to America--。
終わりなき旅を続ける中上のフットワークは、衰えを知らない。
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30代から40代にさしかかり脂ののりきった中上渾身のエッセイが一堂に! ビートたけし、坂本龍一との対談も収録!
韓国の民俗芸能の発見から語り起こされる『風景の向こうへ』の肝(きも)は、五人の作家論を配した「物語の系譜」のパート。初版の単行本に収録されたのは、折口信夫論の途中までであった。他に同じ新宮出身の佐藤春夫、谷崎潤一郎、『雨月物語』の上田秋成、そして「日本近代文学にあらわれた唯一の女性物語作者」円地文子が新たに論じられている。熊野の風土のそこかしこで、物語が発情させられていると語る作家は、その「物語」に存分に染まり、しかしまた敢然として「物語批判」に立ち向かう紛れもない「小説家」だった。あえて谷崎潤一郎を、「物語信奉を餌に肥え太ったブタ」と語ったのも、「モノガタリへの畏れ」を人一倍自らに掻き立てた作家ならではの挑発的な言辞だろう。
『アメリカ・アメリカ』で中上は、アイオワを起点に米国中南部を旅する。ここではボルヘス、ボブ・マーリーというおよそかけ離れた存在が、インタビュアー中上によって、何故かキャラクター的に何らの違和感もなく共鳴を開始するのだ。
また『オン・ザ・ボーダー』では、まさにボーダーに立つ作家から次のような魂の叫びが発せられる。「ただ、東アジア、日本からしか生れえなかった文学が、さながら難破船からの救助信号のように世界に向って発信されるのである」--。
特別寄稿として、長女・紀の回想録「家族の道端」(8)、現代作家が語る「中上文学の神髄を語る」(4)島田雅彦を掲載。
付録:『鳩どもの家』サイン本等を収録した「特別資料」(8)と、を収録。
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中上健次は、評論、エッセイの書き手としても類い希な才能を発揮した作家だった・・・・・・。彼の初心が窺える詩編にも注目!
ここに収めた諸篇からは、彼の初心とその持続の跡を窺うことが出来る。長編エッセイ「犯罪者永山則夫からの報告」(『鳥のように獣のように』)は、一九六八年に無差別連続ピストル射殺事件を起こした犯人で後に作家になった同世代の青年への根底的な問いであり、同時に自身へと差し向けられた、なぜ書くのかという初発の問いであった。『夢の力』には、坂口安吾論など本格的な作家論も収録、読むことが書くことへの刺激となり、意欲となって作品世界を増殖させてゆく創造の秘密が垣間見えてくる。『破壊せよ、とアイラーは言った』は、フリージャズのアルバート・アイラーへのオマージュだ。ジャズ喫茶で知り合ったかつてのフーテン仲間を回顧しながら、中上はセリーヌやサド、ケルアックやジュネについても言及する。当時、最先端の音楽であったレゲエ、最後の前衛演劇や映画について惜しげもなく語り尽くす中上。この一連のエッセイによって明らかになるのは、高卒で肉体労働者となった彼が、新宿という街をさながら愉楽に満ちた非制度的な教養形成の場に作り替えてしまうマジックだ。
特別寄稿として、長女・紀の回想録「家族の道端」(4)を掲載。
付録:少年時代から、『文芸首都』時代、結婚式のスナップ等の若き日の中上に迫る「中上健次 写真館」(2)・・・青春の日々を収録。
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