犬と鬼 知られざる日本の肖像
アレックス・カー(著)
/講談社学術文庫
作品情報
美しい自然、練磨された文化遺産、高度な技術、優秀な教育制度……。世界をリードするような新文明を築こうとした日本は、1990年代に失速した。明治維新、敗戦を超え、「近代化」を推進してきた日本は、本質的に「近代化」で失敗した。「有能な官僚制度」に誘導された土建国家は、伝統日本を破壊してしまった。この国の問題は、慢性的・長期的なもので、日本をこよなく愛する著者が怒りと悲しみを込めて警告する。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 犬と鬼 知られざる日本の肖像
- 著者
- アレックス・カー
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社学術文庫
- 書籍発売日
- 2017.01.11
- Reader Store発売日
- 2017.01.27
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 448ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (6件のレビュー)
-
長年日本に住んできた米国人による、これはなかなか面白い日本社会論である。
本書のスポットは特に日本の行政(官僚)を中心とした社会・経済・環境破壊の動きに向けられており、ここでは「ビューティフル」と日本…文化を褒め讃えるのではなく、ひたすら「異常さ」を追究している。
明治以降、とりわけ戦後において日本式「官僚制」がすべてをコントロールする強大な権力の中心となってきたことを指摘する。この「官僚制」はマックス・ウェーバーも詳細に議論したように、どこの国にも見られる腐敗・硬直化する構造物なのであるが、とりわけ日本のそれは甚だ強烈で、政治家の力を持ってしても歯止めをかけることは難しい。
戦後の日本はとにかく建設業を推進するべく、国の財源をひたすらそこにつぎ込んで、「成長」を目指した。それはある程度成功し、経済成長の著しさによって各国を驚かせたが、しかしそこには「病」と呼ぶべき異常な構造があった。そのしわよせは必ずやって来る。そして、バブルが崩壊し、その後も決して立ち直ることなく現在にまで至る。
日本の官僚については、国民はこれを監視できない。だから選挙によって選ばれた(ということになっている)内閣が行政をコントロールするはずなのだが、長年官僚と癒着してきた自民党に、行政を本当に改革するつもりはさらさらない。この点は完全に制度の不備であり、憲法を改正するというなら、ここだろう。
行政組織はトップダウンで、いったん方針が上の方のどこかで決められたら、黙って延々とそれをやり続けるのである。その事業自体の善悪も、現実世界における有効無効もまったく判断されない。これがお役所仕事だ。
しかし、日本人(というか、日本文化によって育成された人間)は、官僚制と極めて親和性が高く、一般の企業ですら官僚制のシステムに従っている。
日本の労働者は、役人も一般サラリーマンも、ただひたすら沈黙して「組織」に隷従するようしつけられている(そのはじまりは学校教育にある)ため、たとえ組織において明らかな「悪」があっても、それを告発する従業員はほとんどいないのだ。だからかつての三菱自動車の商品の欠陥隠蔽のような、「組織的隠蔽」がはびこるわけだ。
本書のタイトル「犬と鬼」は、韓非子に載っているエピソードで、皇帝に尋ねられた画家が
「犬は描くのが難しいが、鬼は想像しながらただ派手に描けば良いので、簡単だ」
と答えという話に因っている。
つまり官僚組織がかかげる「大義」は、現実から遊離した「建て前」すなわち虚構にすぎず、その虚構をエネルギーとして国内のすべてをコントロールしようとしているのである。
意味のないところにもひたすら舗装道路や無用な橋を作り続け、海岸線をすべてコンクリートで固めてテトラポッドを並べ、あらゆる山林を破壊する。つかうわけでもない巨大な建造物を「モニュメント」として各地にうちたてて景観を壊し、そういうくだらない、シュールなまでに無意味な公共事業を繰り返す割には、民衆が本当に必要とすることには全く目もくれない。
戦後の無意味で無残な環境破壊・文化破壊を本書は大量に列記しており、なかなかに切実である。
それと、もう一つ重要なのは、官僚システムが多用する「建て前」という嘘による、「情報の隠蔽」である。
「情報の隠蔽」というと、3.11後、特に安倍自民党によるあくどいやり口が目立っているが、それはもっとずっと昔からの、日本社会の得意技であったようだ。
官僚たちは作文することによって、黒も白と言ってのける。数値のデータでさえ、かなりのごまかしが混入しているから、一般の国民はまんまとだまされてしまう。
つまり、アメリカが今ごろになって「ポスト・トゥルース」などと言って騒いでいるのはアホらしい、日本社会にはそもそもトゥルースの時代はなかったのである。いわば、永遠に「プレ・トゥルース」のままなのだ。
やはり日本社会は幼稚な三流社会であり、近代社会にさえなりきれなかったようだ。
そんな幼稚な国の幼稚な国民は、最近では「かわいい」という子どもっぽい価値観に席巻されており、本書はこのへんの滑稽な動向も指摘している。
要するに非常に面白い読み物だった。一読をおすすめする。続きを読む投稿日:2017.03.29
日本文化をこよなく愛する筆者だからこそ書ける、日本への厳しい批判が並びます。
出版は20年以上前ですが今読んでも刺さる部分がかなりあります。つまり日本は中々変わることが出来ていないというのが実感出来ま…す。続きを読む投稿日:2024.01.04
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。