不平等をめぐる戦争 グローバル税制は可能か?
上村雄彦(著)
/集英社新書
作品情報
名だたる大企業や著名人がタックス・ヘイブン(租税回避地)を利用して“合法的”脱税を行う実態を白日の下にさらした「パナマ文書」。それが示したのは、あまりにも不公平で一方的な富の収奪の世界だった。諸国民の税により築かれたインフラを利用し巨額の利益をあげながら、ほとんど納税しない大企業や富裕層の存在。租税を回避する巨額の富に対していかにして課税できるか? グローバル税制の考え方と仕組み、そしてその可能性を示したのが本書である。環境問題から貧困問題まで、これらを一挙解決できる財源は、ここにある。【目次】はじめに/第一章 パナマ文書の衝撃/第二章 富の偏在を可視化すること/第三章 グローバル・タックスの可能性/第四章 グローバル・タックス実現のためのステップ/第五章 政治と現実を動かすために/第六章 グローバル・ガヴァナンス――EUの夢/おわりに 不平等と戦う人々/あとがき
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商品情報
- 著者
- 上村雄彦
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社新書
- 書籍発売日
- 2016.10.19
- Reader Store発売日
- 2016.12.16
- ファイルサイズ
- 2.3MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (2件のレビュー)
-
◆タックス・ヘイブンの悪用による多国籍企業・富裕層の税逃れ、彼らによる世界各地の公的インフラのタダ乗りの横行は、昨今の道義の下落の甚だしさを明示する。本書の提起するグローバル税制は、その処方箋となるか…?◆
2016年刊行。
著者は横浜市立大学学術院国際総合科学群教授、同グローバル協力コース長。
副題と標題は逆の方が判りよいかも…。
タックスヘイブンの悪用による多国籍企業・富裕層の税逃れ、つまり世界各地のインフラのタダ乗りが横行し、道義の下落も甚だしい昨今。この対策は各国の租税徴収の企画・実行部門の急務だ。
本書は、このTHの実情を概観しつつ、国家の枠組みを超えた税制、税徴収の具体的実例を開陳し、それに向け市民社会の結集と具体的行動へ誘わんとする書である。
歳入不足に悩む財務省も積極的に導入を考慮した方が…。TH企業への課税だけで概算3兆円以上の増収になるかも…。セクハラにうつつをぬかす前に…。
ただし実は、出国税(観光促進税?)もここでの航空券連帯税と同趣旨だったりして…。
本書で概説される中では、金融取引税、武器取引税、多国籍企業への共通基準での課税、グローバル通貨取引税が印象的だが、そのなかでも愁眉なのは金融取引税。
これは、一回当たりの取引税額・税率は極小に設定するだけでも、数的過当取引の問題が大きく抑制・減殺される方法論であり、基本的な取引自体は阻害せず、いわゆる投機的取引の量的抑制に繋がり、納得のそれである。
グローバル通貨取引税も類似?だろうか。
一方で、首を傾げざるを得ないのは、NGO的団体による徴税実務。
本書では、微々たる成功例は挙げられるものの、悪用の危険、多国籍企業が隠れ蓑に使う可能性は否定できない。
国家による徴税実務の制御が否定されれば、徴税に関する情報公開の問題は、今以上、更に闇の中に行ってしまう。その懸念を払拭させる方法論、説得力と実効性ある方法論は本書では開陳されなかった。
とはいえ、長期の改革において、道義の低下を克服すべく、本書にある制度改革とその実行に向けた声を、草の根から上げていかねばならないのも理解できる。息の長い作業ではあるが…。
政治家への働きかけは元より、TH企業やこれの取引先への不買運動もまた然りか。
なお、本書には、パナマ文書内の租税回避団体実名が幾つか掲載されている。参考のためにここに供する。
伊藤忠商事、ソフトバンクグループ、ワタミ、東洋エンジニアリング、丸紅、ライブドアなど公知の大企業(なおこれらの関連企業も含む)、有名企業の創業者や経営者。
またタックスヘイブン利用企業としては、金融機関の三井住友FG、みずほFGの他、東芝、日産、パナソニック、ヤマハ等のメーカー、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、住友商事など総合商社、東電・関電・九電など電力会社、KDDIや日本航空が列挙されている。
ところで、TH規制と徴税の目的としては、反社会集団のマネロン防止(具体的には、五稜会闇金融資金洗浄問題)、相続税適正徴収(具体的には、武富士創業家相続税逃れ問題)にも係ることを付言しておく。続きを読む投稿日:2018.05.18
世界の富は1%の超富裕層が握っており、中間層の総資産の4割を締めると言われている。これが上位10%になると世界の資産の8割にもなる。コロナ禍でさらに格差は広がったと言われるが原因は様々だ。中でも金融取…引で富を蓄積するケースや、企業活動としての儲けを挙げて租税回避措置を講じた結果、組織の上位者に莫大な富が集中するケースが顕著だ。一時期はパナマ文書の漏洩事件でいかに税金を納めずに富を蓄積する人が多いかが世界中の人の目に晒された。そうした事もあってか、個人に限らず企業の多くが利用する所謂タックスヘイブンに注目が集まった。恐らく多くの方が自社に存在する海外子会社の中に、一体何をしているか判らないプロパー数人(役員と管理職のみのような)で構成される組織の存在に気付いたであろう。何となくはわかっていたものの、個人であれ企業であれ、資本主義社会において利益を追求する事と節税対策はセットの様なものだと納得してしまっていると思う。
然し乍ら、たまに眼にする前述の様な富の集中を書いた記事を読むたびに、果たしてこれで良いのか疑問を抱かざるを得ない。SDGsを誰もが叫びアフリカの貧困や国内の生活保護者のニュースを見るたびに、なぜそう言った部分にきちんとお金が再配分されないのか、誰しも疑問に思うことはあるだろう。あなたの周りに株で儲けてレクサスやらベントレーでコンビニに行く人が居るなら、内心そうした想いは強いと思う。
前述の租税回避地については難しい面もある。実体の全くないケースがほとんどであろうが、企業誘致の観点から税率を低く設定して呼び込むケースもあり、それであっても公平性はある程度失わざるを得ないからだ。とは言え本書が語る様に、そうしたインターナショナルなお金の動きに注目して税を課すと言う考え方には私も賛成だ。何故なら(自分が超富裕層でない事もあるが)世界には地球温暖化や就学すらままならない貧困層、内戦などで生きることすら容易ではない人々が多く居る。それを尻目に食べ切れもしない料理の山とシャンパンで好きなだけ贅を尽くす人間がいることに道義的に違和感を感じるからだ。
やり方は色々あるだろうが、本書に記載するグローバル税制にも基本的には賛成だ。記載の通り資本主義社会への挑戦的な側面も強いから、中々一気には進められないだろう。どこから手をつけるか以前に誰がその税収を負担する関係者となるか、また国家間の関係性など推進の壁はいくらでもある。まずは「税金を取られる」意識改革と税の使い道が支払ったものに対して納得感ある内容にならなければならない。技術的な実現性(本書はテクニカル・フィジビリティと記載)は高度にネットワークで繋がる世界ではかなり見えてきた。次に政治の実現性(同じくポリティカル・フィジビリティ)にかかっているのではないか。後はルールだ。税金の使い道がしっかりとわかっていて尚且つ成果までが具体的に見えなければならない。途上国への資金援助が一部の政府役人の懐に入る様な状態ではダメだ。それこそEUの様な国家を超えた国家、言わば世界規模の組織がしっかりとしたルールづくり(グローバルに公平性を担保した入札なども)が欠かせない。本書が書かれた2016年よりも可視化する技術や高速なネットワーク網は更に整備が進んでいる。後は世界をリードし超富裕層を大量に抱える先進国の力量次第だと思う。
本書を最後まで読むと、そうした取り組みへの期待感が高まり、少しでも貧困に喘ぐ子供達の姿が無くなる未来を想像したくなる。そして税金は取られるものではなく進んで納めると言う意識に変わっていく世界を期待する。続きを読む投稿日:2023.06.09
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