自我と無我
岡野守也(著)
/PHP新書
作品情報
「自我の確立」と「無我の境地」。めざすべき人格のあり方はどちらか? 現代人は自我を強調するあまりエゴイズムに陥ってしまった。一方、無我とは滅私奉公であるとの、歴史的誤解への反省も、いまだ曖昧である。本書では、大乗仏教の唯識学と現代アメリカの哲人・ウィルバー思想、さらにスイスの発達心理学者・ジャン・ピアジェの理論などを手がかりに、自我と無我の本来的意味を整理する。「無我の空の関係」「自我とエゴイズムの違い」「未我→自我→無我の成長プロセス」などをわかりやすく解説。その上で、自我と無我の対立概念を超えた大いなる宇宙観(コスモロジー)を提唱。人間の心は誰でも覚りに到達する可能性を秘めていることを理論的に証明する。東洋宗教と西洋心理学を統合し、理想の人間性を追求した思想的メッセージの書である。まさに、日本精神史百年の葛藤を解消する好著である。
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商品情報
- シリーズ
- 自我と無我
- 著者
- 岡野守也
- 出版社
- PHP研究所
- 掲載誌・レーベル
- PHP新書
- 書籍発売日
- 2000.10.01
- Reader Store発売日
- 2016.11.11
- ファイルサイズ
- 5MB
- ページ数
- 216ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (3件のレビュー)
-
私自身がトランスパーソナル心理学にもにも関心が深いので、この二分野を基盤に発言する岡野氏の著作はほとんど読んできた。が、この本はとくに興味深い。
まず戦中の大多数の仏教者が積極的に戦争協力の発言をし…、「無我とは滅私奉公である」「無我とは天皇陛下のために死ぬことである」と説いていたという。禅僧も含め、戦前の仏教指導者たちは「自我を滅ぼして国のために尽くすことが無我だ」という混同に陥っていた。
ほとんどの仏教者がそうだったという事実に驚くと同時に、今はその過ちを認識できる歴史的状況になったが、「私があの時代に仏教界の責任ある地位にいたら、本気で同じことを思い、発言していたかも知れない」という洞察にも、ある種の感動を覚えた。
自我と無我をめぐる戦前の(そして現代にまで至る)思想的な混乱をトランスパーソナル心理学と唯識仏教の視点から整理し、批判するときに開ける展望の新鮮さ。
この本の中の印象に残った話に以下のようなものがある。戦時中、中国・満州で説法し、兵隊に「国や天皇陛下のために死ぬのが仏教精神だ、思い残すことなく死ね」と説いて回った禅僧が、戦後も宗派の管長として大きな仕事をしていたが、反省して戦後だいぶたってから南方に遺骨拾いに行った。「あの状況下でつい死ねと云ってしまったが、せめて償いにお骨を拾ってお弔いをする」というのだ。
岡野は、この禅僧に心情的な反省はあっても、どうして戦争協力に至ったかの思想的な反省はないと指摘する。 仏教的な「無我」と「滅私奉公」を安易に混同してしまったところに、戦前・戦中の仏教や禅宗の、思想的未成熟があるのではないかと云うのだ。
この話を読んで最初に私が思ったのは、禅宗では覚醒、純粋経験など体験的なものが重視されるが、時代状況や歴史のそれぞれの局面で間違いを犯さないためにも、知的・思想的な探求や体験の位置付けが本当に大切なのだなということ。
いくら体験が大切だと云っても、知的な探求を怠ってはならないこと。知的な探求も同じように大切だということを肝に銘じなければならない。 と、同時に、本当に覚った人が戦争協力などするのかという疑いもいまだに残っている。 本当に覚った人が、国家エゴがぶつかり合い、それに駆り出されて無数の人々が殺し合い死んでいく戦争を是認することなどありえるのか、それは本当に知的・思想的探求の不十分さだけによるのか。続きを読む投稿日:2008.11.22
自我と無我は対立概念ではなく、未我(プレ・パーソナル)→自我(パーソナル)→無我(トランス・パーソナル)への発達段階だとする。
投稿日:2016.11.28
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