右傾化する日本政治
中野晃一(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.9 (14件のレビュー)
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本書のユニークかつ斬新な点は、1980年代以降の政治右傾化プロセスを「支点が徐々に右に動く振り子」のような「揺り戻し」を含む曲線運動と捉えていることにある。「振り子が右に振れるとき支点も一緒に右に動…き、やがて振り子は左に振れるわけだが、前の周期の左端まではもどらず、もっと右の位置で留まる」。これにより「改革の後退」「改革の修正」とみなされる時期や政策が、結局のところ本質的には新自由主義化の動きそのものを停止させるに至らない力学が説明可能になる。
他方、今日の右傾化プロセスの因果関係を探求する上で最大の難問は、経済面でのグローバル化=自由化と、一見それに逆行するような国内政治局面でのナショナル化=反自由化の関係性をいかに矛盾なく単一の枠組で内在的に明らかにすることだが、その点はインターネットのブログ言説レベルの表層的な分析にとどまっており、正直なところ期待外れだった。偏狭な排外主義や復古的な国家主義の台頭を単に「格差社会」の矛盾から目を逸らすプロパガンダと見なしているだけでは、その意外な強靭さや拡散浸透を説明しえない。本書はこの30年余りの政治史を新自由主義と国家主義の「新右派連合」の「勝利」の過程として描いているが、例えば公共事業の在り方が小泉政権と現在の安倍政権では180度異なる点でも「新右派連合」の内実は相当な開きがあり、より精緻な解析と理論構築が必要だと思われる。続きを読む投稿日:2015.10.21
このレビューはネタバレを含みます
最近読んだ新書の中では一番面白かった。
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本書全体の内容は序章にコンパクトにまとめられているので、序章だけでも読むといい。
「右傾化する」といっても、ずっと常に「右」へとシフトしていったわけではないと…する。
「右」に揺れれば「左」への揺り戻しが起こる。その後再び「右」へと転じる。近年の日本政治はまるで振り子のようだと筆者は例える。
しかし同時に、振り子自体が徐々に「右」へとシフトしているという。
したがって、「左」への振り戻しの後の「右傾化」は、以前よりさらに「右」へと移動する。
これは言い得て妙だと思った(4ページの図1および6ページの表1は実に分かりやすい)。
近年、ネット上のみならず言論界においても、論敵・政敵に「左翼」だとか「ネトウヨ」だとかいったレッテルを貼ることが多く、政治概念での「右」「左」の概念が相当に曖昧になっている。大抵の場合、こうした表現はあてにならないどころか、ただの悪口にすらなってしまうこともある。
なので、『右傾化する日本政治』という題を見たとき、これもまた同様のレッテルの類なのではないかと思った。
しかし、本書の冒頭で何をもって「右」とするかを定義し、この定義に従い「右傾化」が生じていると論じており、理解しやすかった。
さらに「右」にも様々な立場があるとして「旧右派連合」「新右派連合」という概念を用いているのは、本書ならではと言えるだろう。
これらの概念を旧来の「保守本流」「保守傍流」と重ねつつ、中曽根政権から第二次安倍政権に至るまで徐々に「新右派連合」が勢力を伸ばしている様子を図式的にまとめているのは、非常に分かりやすかった。
また、現在の日本政治を主導している「新右派連合」の政治家らが何を目指そうとしているのかもよく分かった。
また、本書では「リベラリズム」「自由主義」「新自由主義」を明確に区分し、概念の混同を回避しようとしている。
これも「右」「左」同様、明確に図式化して描かれている。
そして、民主党内にも様々な立場があり、自民党の現在の主流と同じく「新右派連合」を形成している集団があることを指摘しているのは面白い。
民主党の各グループがどのような系譜を辿って民主党に至ったのかを見るのは、日本政治全体を理解する上でも重要と感じた。
さらに自民党と読売新聞などのメディアが裏でどのようにつながっているか、自民党がNHKや朝日新聞に対してどのような攻撃を仕掛け、朝日新聞の購読者数減少に成功したのか、などにも触れられている。
昭和から平成にかけての日本政治の見取り図を端的に描いた作品と言える。
あまりにも明確に描かれているため、議論がやや単純化されすぎていたり反証になりうる事例が出されていない、などの欠点があるのも確かだが、新書という形態をとる本書は日本政治の概説書としては分かりやすく、内容も十分であると思う。続きを読む投稿日:2023.11.17
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