2045年問題
松田卓也(著)
/廣済堂新書
この作品のレビュー
平均 3.5 (62件のレビュー)
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「コンピュータが人類を超える日」という副題。
本書では2045年(2099年という学者もいるそうだが)にコンピュータが人類の知能を超えるという予測と、それが起こった場合の影響を考察している一冊である…。
しかし、そもそもコンピュータの知能とは何だろうか。本書がそれに回答しているのは、本書の後半であり、読み手にとってはイライラします。
だって、本書の前半では、計算のスピード=知能の高さという説明が100ページ続くのですもの。
スーパーコンピュータといわず、一般の家庭用のPCでも今はCPUクロック数が2GHz程度あるのだから、1秒間に10^9回程度計算ができるわけだ。
つまり、人間が10秒に1回程度とすると、PCは人間と比較して10^10倍知能が高くなるというロジック。
少し考えればわかるが、それは知性とはいわない。
計算能力に物を言わせ、人間よりも計算が早く頭が良いでしょ、というのは違う。
一般には、PCの知性とは、Alan Mathison TuringのいわゆるTuringテストをパスできることを判断基準として使用するのが普通であり、必ずしも計算能力は必要ではないように思える。
本書では、むしろ過去の研究結果と現在の進捗を説明して、2045年にはこれくらいの能力までになるでしょう、というやや消化不良気味の説明。
さらに一歩進んで、計算にものをいわせるPCではなく、知性をPCに持たせるための具体的な研究状況と課題を詳細に説明し、それを踏まえ、2045年に人間以上の知性を持ったPCが誕生したときに我々の生活にどのような影響を与えるのかを考察してほしい。
前者は、ニューラルネットワークによる実装という古典的な方法を簡単に説明するだけで、冗談だろうと思ってしまいます。
後者は、ロボットが仕事を奪うとかこれもありきたりなことしか書いていないです。
もう少し、実現可能性と実現した場合の影響評価をまとめて欲しかったです。
しかし、PCの知性とはという問題意識を提起する上では良い一冊であると思う。続きを読む投稿日:2013.07.20
積読本をかたづけようシリーズ。
2013年の出版。
コンピュータが人類の能力を超える「技術的特異点」。2045年に技術的特異点を迎えるという予測の可能性を論じる。
著者は宇宙物理学者なの…だが、SF好きだそうで、『2001年宇宙の旅』、『マトリックス』、『攻殻機動隊』、そしてもちろん『ターミネーター』などを引用しつつ、特異点の未来を予想する。
また、現在欧米で行われている人工知能開発計画から特異点到達の可能性を探る。
「特異点」はSFではおなじみで『月は無慈悲な夜の女王』のマイクも、『ぼくらのよあけ』のナナコも特異点を超えて自我をもっている。
私のイメージもそれに近いわけだけど、実際にスーパー・コンピュータが人間の脳をシュミレートできるようになって、その先に特異点があるとすると、人間の脳とネットが接続して、ネット上に思考がアップデートされて……という現在の予測だと、どちらかというと『マトリックス』とか『攻殻機動隊』の世界。
「特異点(シンギュラリティ)」自体、まじめに論じられるようになったのはレイ・カーツワイルの『ポスト・ヒューマン誕生』(2007年)あたりからだと思う。
著者は特異点を超える可能性を探ると同時に、現在のままでは『成長の限界』がきて近代文明が崩壊するというメドウズの予測も論じている。そうなると特異点どころではなくなるのだが、その悲観的な予測を覆せるのも特異点による技術革新かもしれない。
文明が崩壊するよりは『ターミネーター』や『マトリックス』のように機械やコンピュータに支配された未来のほうがましなのかもしれないが、私的にはマイクやナナコと仲良く暮らす未来がいいなと思う。
以下、引用。
(ネットと脳が接続されるようになると、引きこもり人間が増えて二次元美少女を相手にするようになるという部分は突っ込みどころ満載。)
「ターン・アラウンド・タイムとは計算を入力してから、結果が返ってくるまでの時間です。当時日本で、その研究に使えるコンピュータは大学では東大にひとつしかありませんでした。プログラムをつくってカードに打ち込み、郵便で東京に送ります。着くまでに1日かかります。向こうでの計算に1日、返ってくるのにも1日かかります。都合3日です。週6日で、1週間で2回のターン・アラウンドができました。」
「当時、そういう計算に使えるコンピュータは東大以外に、大阪のIBMにもありました。そのコンピュータは、IBM360-50でした。そこでもターン・アラウンドは1日に2回くらいでした。IBMは民間企業ですから、1秒あたりの使用料金がかかるので、私はライン・プリンタの前にはりついて出力を見て、すこしでもおかしかったら止めてもらいました。それでも大学院生の分際で30万円ほど使いました。」
「アルフレッド・インセルベルクというイスラエルの研究者は、平行座標という概念を導入して、多次元の相関関係を視覚化する技法を開発しました。たとえば13次元の空間を可視化することにより、イスラエルの軍用トラックの音を大量に集めて解析すると、エンジンにロシア製の部品が使われているというようなことがわかるそうです。」
「現在でも二次元症候群などといって、美少女アニメなどにのめり込む人たちがいますが、人間同士のコミュニケーションは基本的にはしんどいことです。技術的進歩によってその必要性がなくなれば、これを避けるようになっても不思議はありません。多くの男性が、二次元美少女を相手にするようになるでしょう。テクノロジーが進めば、二次元ではなく三次元になるでしょうが、結局は同じです。」
ジョン・D・バナール『宇宙・肉体・悪魔』
「彼の時代にコンピュータはありませんでしたが、彼は脳同士をつなぐ、いまでいえばイーサネットのようなものを想像し、人間は最後はエーテル状になって宇宙に漂うようになるのではないかといっています。エーテルとは、古代ギリシャの哲学者が空間を満たしている元素と考えたものです。19世紀の物理学者は、光を伝える仮想的な媒質をエーテルと呼びました。ちなみに「イーサ(ether)」とはエーテルの英語読みです。」
続きを読む投稿日:2019.08.11
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