イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北
内藤正典(著)
/集英社新書
作品情報
混迷を極める中東に突如現れたイスラム国。捕虜の殺害や少数民族への迫害が欧米経由で厳しい批判と共に報じられているが、その過激な行動の裏にある歴史と論理は何か? また、本書はイスラムそのものに対するメディアの偏見と、第一次世界大戦時に確立された欧米による中東秩序の限界を指摘。そして、集団的自衛権の行使容認で中東に自衛隊が派遣される可能性が高まる中、日本が今後イスラム世界と衝突することなく、共存するために何が必要なのかを示す。【目次】はじめに/序章 中東で起きていること/第一章 16億人のムスリムを見方にするか、敵に回すか/第二章 まちがいだらけのイスラム報道/第三章 イスラム世界の堕落とイスラム国の衝撃/第四章 日本人にとってのイスラム/おわりに 戦争は人の心の中で生まれる/あとがき
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商品情報
- シリーズ
- イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北
- 著者
- 内藤正典
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社新書
- 書籍発売日
- 2015.01.21
- Reader Store発売日
- 2015.03.13
- ファイルサイズ
- 1.4MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (21件のレビュー)
-
敵対するもの同士の対話の実践
日本人はイスラムについてあまりにも無知だと言われる。
だが、知識人レベルで見ると、日本のイスラム研究者の中には、見識の深さと誠実な姿勢において、多いに学ぶべき人物もいる。
その一人が本書の著者、内藤…正典氏であろう。
多くのイスラム研究者はアラブやイランを専門とするが、
内藤氏はトルコからイスラム世界を見る。(主にヨーロッパに移民しているトルコ人のことなど)
トルコはイスラム教徒が多数を占める国でありながら、徹底した政教分離政策を行い、
NATO加盟国で朝鮮戦争にも参戦しており、今もまた、欧米とイスラム世界の間で板挟みとなっている。
本書が中心として扱うのはトルコではなく、イスラム世界と欧米、そして日本のあり方であるが、
長年トルコを通して世界を見てきた人だけあって、
イスラムにもヨーロッパにもアメリカにも、冷静で鋭い目が向けられている。
特に、日本のイスラム理解が欧米のバイヤスが掛かりすぎていることを危惧している。
そのバイヤスについては本書の本題なので、そちらに譲ろう。
知識が豊富ゆえに話が難しくなってしまう人や、無知による単純化を行ってしまう人が多いが、
本書はそのどちらにも陥らず、豊富な知識と鋭い観察点をわかりやすい言葉で読者に伝えている。
本書の魅力は論理的に整理されていることだけではない。
かつてシリアに留学し、その後もトルコやシリアを中心にフィールドワークを重ねてきた著者。
本書では、著者が研究科長を務める同志社大学グローバルスタディーズ研究科で、
アフガニスタン大統領のカルザイ氏と、
タリバンの幹部を招き、学生たちのいきつけの酒場で鍋を囲んだ話も紹介されている。
後にカルザイ大統領が"Doshisha Process"と呼んだできごとであるが、これについて、
フランスのAFP通信が著者に対して「タリバンのようなテロ組織を招待して恥ずかしく思わないのか」と質問した。
著者は「タリバンだけでなく、政府代表も呼んだのです。
敵対するどうしが対話を開始しなくて、一体どうやって和解が成立するでしょう」と答えたという。
この信念は今も揺らがないという。
私もこの時ではないが、同志社大学での公開講演で著者のトルコについての講演や、
ユダヤ教、イスラム教の様々な人を招いた講演会に何度か出席し、いろいろ考えるところがあった。
一応言っておくが、同志社はキリスト教の学校法人である。
だが、なのか、だからこそなのか、イスラムとの対話に非常に力を入れている。
敵対するもの同士、理解しあえないもの同士だからこそ、対話を開始しなければならない、
ということを実践しているわけだ。
こうした講演に参加できる人はそれほど多くはないだろうが
(一応、「同志社大学一神教学際センター」で検索すると公開講演の案内を見ることができ、また過去の講演会の要旨や動画もある)、
新書という形で、そのような活動を知ることができるのは喜ばしいことだ。
理論と実際の取り組みを紹介する中で、著者の「対話」への誠実な姿勢を感じる。
続きを読む投稿日:2015.04.28
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正直、良く意味の分からないタイトル
「イスラムの怒り」(2009年著)は、イスラムに疎い日本人への警告書として良書と思いましたので、著者の内藤氏による、その後のアップデートと思って、こちらの本も読んでみました。
非科学的な態度を取…ると映るムスリムへの嫌悪と、欧米社会での移民の疎外感と差別体験が悪循環を作ってきたのかという背景説明については、取り上げられている事例こそ新しいですが、本質的には前作の繰り返しのように感じました。
むしろ本書でのアップデートは、
1.「集団的自衛権」の発動を可能とする安保法案は、日本をイスラムとの戦いに巻き込む危険性を高めるだけという論旨と、
2.憲法第九条を頂く平和国家として、紛争当事者の和解の場の設定する「Doshisha Process」こそが日本の役割とするの著者の主張
の2点に集約されます。
そう考えると、「イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北」を本書のタイトルとする理由が、良く分かりません。
「イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北」の意味自体は、平たく言えは以下の意味でしょう。
・現行の国境線は、欧米的価値観に基づき当時の列強が勝手に引いたものであって、ムスリムからすれば、正しい信仰の実践の結果としての、正しいイスラム世界の行を作る上で阻害要因でしかない。
・よって「イスラム国」の目的は、欧米的価値観そのものへの挑戦であり、欧米的価値観と国際秩序を守ろうとする欧米諸国と、既得権益を守ろうとする中東諸国の政府は、「イスラム国」を本気で潰そうとして戦争になっている。しかし、正しいイスラム運動の結果としての「イスラム国」勝利の暁には、西洋が作った「中東」は崩壊し、中東諸国の国境線も無くなっているということでしょう。
しかし、現実問題そんなことが可能でしょうか? 百歩譲って、非常に長い目で見て可能だとして、「イスラム国」の勝利が、世界と日本に真の平和をもたらすのでしょうか?
評者には、タイトルの意味を真に受け、極論すれば、『日本も含めて世界全体が「イスラム国」になった時が答えである』と言っているに等しいように思えます。それは、一人の日本人としての評者には、「受け入れ難い答え(=求めている答えになっていない)」です。
上記は極端な解釈かもしれませんが、何ともすっきりしない読後感でした。しかし、この「すっきりしなさ加減」こそが「イスラム国」問題の本質なのでしょうね。
続きを読む投稿日:2017.05.11
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