この作品のレビュー
平均 3.3 (20件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
注! かなり内容に触れています
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偶然が重なることで「こと」が動き出して事件が起きる、すごく好みの話。
それって、つまり『獄門島』だし、『犬神家の一族』で、すごく横溝正史的(オドロオドロシイ怪奇趣味という意味ではない)なのだ。
その偶然(すでにあった偶然の重なり)も、ある人物がそれをしなければ、「こと」は動き出さない。
しかし、ある人物がそれをするきっかけも、すでにあった偶然との出逢いがきっかけだったりする。
といっても、決して偶然が重なっただけのご都合主義で進むストーリではない。
元々そこに別個にあった偶然に、ある人物がそれが引き金になることで、偶然ではないはずの人物が自ら大事にしているものを守ろうと、起きなくてもいいはずだった悲劇を起こしてしまうという、人の哀しさを描いたミステリー小説で、そういう意味でも横溝正史的だと思う。
(といっても、この著者の性格なのか、哀しさは意識して強調していないように思える)
ただ、この小説。話の軸、みたいなものがないんだよなーw
それがないから、読んでいて自分がこの話に噛み合ってこない。
主人公は、間違いなく真夜子(変な名前w)なのだ。ストーリーも、まあ真夜子を中心に進む。
なのに、話の軸に真夜子がいるかというと、微妙に違う。そう思って読んでいたら、はぐらかされる感じがある。
もちろん、真夜子は、主人公として読ませることで内容をこんがらがらせる、いわゆる狂言回し的な役割もあるんだろう。
でも、狂言回しなら狂言回しで、ずっとストーリーを転がらせる役割があると思うのだ。
その役割が、途中でいったん途切れてしまう感じがすると言ったらいいのか?
それとも、読者が真夜子を主人公だとした思い入れみたいなものを、はぐらかせてしまうところがあると言ったらいいのか?
だから、ストーリーに入り込めないんだと思う。
でも、それはストーリーを通す軸がないからで。
読んでいて、ストーリーの歯車に読者の歯車が巧くかみ合わないから、ストーリーを辿りにくい。
だから、すごく混み入った話のように感じてしまうんだと思う。
ゆえに、最後の真夜子の比喩的で言ったこと(というか、それは何度も出てくるのだが)を、「裏にある真相」のように勘違いしてしまう。
そのせいで、合理的な解決じゃないとイヤな人は、この小説をツマラナイと結論付けてしまう。
そういうことなんじゃないだろうか?
最後の方で、そもそもの根本にある樹来たか子の死、その3つの説を登場人物の一人が整理して言うシーンがある。
でも、その3つの説は、それぞれに関わる人の思惑や思い込み、あるいは間違いがあって。
それらに、現在、この小説の舞台である遠誉野に住む偶然のピースと、本来は関係ないのに偶然に巻き込まれた人たちの、それぞれに思惑や思い込み、間違いによる行動が関わる。
そこに、著者によって読者から遠ざけられていた、もう一つの偶然のピースによる思いが絡んでいた。
この話の構造って、実はそれだけだ。
(もちろん、枝葉は他にもあるがw)
なのに、裏表紙のあらすじ紹介に、“夭逝した童謡詩人・樹来たか子の「秋の聲」に書かれた〈しゃぼろん、しゃぼろん〉という不思議な擬音の正体は?”なんて書くから、読者はその軸で読み進めちゃって。
その結果、この話が、〈しゃぼろん、しゃぼろん〉の謎を追う話じゃないから、こんがらがるんじゃん!(^^;
それはそうだろう。だって、その〈しゃぼろん、しゃぼろん〉なんて、話の筋にはほとんど関係ないんだもんw
ぶっちゃけちゃえば、“不思議な擬音の正体”は水琴窟の音だって、途中でさらっと明かされる。
いや、それ、ネタバレするなよー!と思う人もいるかもしれないが大丈夫。それ、そもそもの事件の真相に“直接的にはつながってない”から(^^ゞ
ていうか、この話って。
その〈しゃぼろん、しゃぼろん〉が何の音なのか?と真夜子が探っていく、ということを軸にして書いた方がシンプルでよかったんじゃないかって気がするけどなー。
偶然の重なりによって起きてしまう悲劇という展開は、それでも十分表現できたはずだし。
読者は、真夜子に思い入れして読むことで、より物語に没入出来たように思う(そうすれば、最後の真夜子の比喩的表現が裏の真相だというファンタジー的勘違いにならないと思う)。
なのに、州内一馬の視点や、謎のハガキ「2-1=3」なんて入れちゃうから、話が取っ散らかっちゃうんじゃないだろうか。
特に、州内一馬の視点はなかった方がよかったように思う。
入れるなら、樹来静弥のモノローグのパート以外に、本来のその人物としてのモノローグで表して。
その人物の過去の思いも含めて表した方が、真相の印象がより強くなったように思う。
個人的には、そこがすごく惜しいなーって思うんだけど。ただ、著者の意図としては、どうだったんだろう?
やっぱり、当時、著者はデビュー間もない頃ということで、「すげぇーの書くぞー!」的な気負いや娑婆っ気みたいなものがあったってことなんじゃないのかなぁー(^^ゞ
ただ、個人的には、そこに著者に連城三紀彦っぽい気負い(ある意味過剰なw)を感じて。すごく好感を抱いた。
そんなわけで、他の本も読んでみたいんだけど、ただ、この著者って、シリーズものや連作短編が多いんだよなー。
自分はシリーズものじゃない長編が好きなので、そこがちょっと残念w投稿日:2021.07.18
舞台は東京の西の果ての遠誉野市。
童謡詩人:樹来たか子をめぐる人間が偶然?にも集まり
25年前のたか子の死に触れようとした途端に
止まっていた歯車が動き出した。
疑問に継ぐ疑問に振り回されて、眩暈すら…感じて、
最後に待っていたのは予想外の結末でした。
「秋ノ聲」に書かれた「しゃぼろん、しゃぼろん」という
不思議な擬音については、実際に見に行った事がある。
言われてみれば、「しゃぼろん、しゃぼろん」と聞こえます。
ただ、初めて聞いた時に「しゃぼろん、しゃぼろん」という
音を活字として書けるかと言われたら、無理です。
そういう言葉を使えるところも、北森氏のスゴイところだと
改めて感じました。続きを読む投稿日:2019.12.17
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