COCOON
今日マチ子(著)
/エレガンスイブ
作品情報
シマいちばんの女学校に通う主人公・サンらは、クラスメイトとともに学徒隊として戦地に赴く。戦況の悪化とともに、ひとり、またひとりと仲間を喪っていく中、世界の凄惨さと自己の少女性との狭間でサンは……。 戦後65年。新世代の叙情作家が挑み描いた衝撃の長編傑作。
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商品情報
- シリーズ
- COCOON
- 著者
- 今日マチ子
- 出版社
- 秋田書店
- 掲載誌・レーベル
- エレガンスイブ
- 書籍発売日
- 2010.08.01
- Reader Store発売日
- 2014.03.07
- ファイルサイズ
- 36MB
- ページ数
- 209ページ
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この作品のレビュー
平均 4.4 (75件のレビュー)
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戦地で少女が想うこと
『センネン画報』『みかこさん』など、思春期の少年少女たちの気持ちの揺れ動きを、透明なガラス細工のように美しく繊細に描いてきた今日マチ子。
しかし一転、本作では圧倒的な暴力が少女たちに襲いかかります。
…
沖縄戦のひめゆり学徒隊をモチーフとした本書。
淡いタッチで描かれる少女の背中には大きなやけどの跡が残り、爆撃は一瞬で彼女たちの命を奪っていく。
戦争の悲惨さを見せながらも、この作品は決して「戦争もの」に留まりません。
このよう状況でも、無邪気に”女の子”であり続ける少女たち。
そして、残酷な現実に戦う方法として描かれる「想像の繭」。
単純な解釈を許さない哀しい物語は、読み手の胸に深々と刺さり、中々抜けてくれません。続きを読む投稿日:2015.02.17
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☆3.5 徹底的な男性性の排除できらきら
『編集とは何か。』(星海社新書)に、「cocoon」の秋田書店の担当編集者だった金城小百合へのインタヴューが載ってゐる。
金城といふ苗字のとほり、沖縄のか…ただ。
インタヴューによると、当時まだ20代の若手だった今日マチ子は、ひめゆり学徒隊の話を引き受けるのに躊躇した。しかし金城が作家の描く描かないの決意表明のまへに、先に沖縄につれていって取材をさせ、金城の叔父の家に泊めてもてなしもした。
つまり、編集者が「引き返せない」やりかたまでさせた作品なのだ。
そしてこの「cocoon」が、今後の作者の方向性を決定させもした。
それが気になって読んでみた。
この話は、今日マチ子のあとがきにあるとほり《時代も場所もあやふやな、夢のなかで再生される戦争の話です。》が正確だとおもふ。
どことなく少女どうしの強い結束感がありながら、戦中のグロテスクさが遍在してゐる。
しかし戦中とはおもへぬ、妙に透明で乾いたタッチにきらきらがある。作者が女性であり、かつ絵の非写実的なタッチもそれをふくらませてゐる。そしてその、どこかハードボイルドのタッチの少女世界が、ふいにあらはれるグロテスクさをきはだたせる。
この印象に残る艶っぽさは、どうやら、少女しかゐない世界にあらはれた、東京からの器量よしの転校生・マユの存在と、そして蚕の繭=ガマに代表される少女的な空想メタファー(マユといふ名前もさうだ)が大きい。そして、マユといふ自律した存在の恢復役、または頼り頼られといった関係は、どこか百合のやうに見えなくもなかった。(真相は異なるが。)
私には、いくらかきらきらが誇張されてゐるやうに感じるこの作品の少女世界が、実際に沖縄で経験されたことなのか、わからなかった。
当時の男性的な戦争のさしせまる終局に、それも人間性すら木端微塵に破壊されうる緊迫に、こんな空想する余裕が、しかも少女性がはたして残ってゐたのか? それとも空想しかできぬほど追ひ詰められてゐたのか?
この作品の主人公・サンは後者だ。グロテスクさも、まるでどこかファンタジー上のグロテスクさのやうな……
さらにマユのやうに自律して正気を保ち、自決からも逃れる人間が当時実際ゐたのか? 現在の価値観をもった作者によって設定されたキャラクターと感じなくもない。
乾いた筆致は少女の空想のうちでとまって、つきぬけなかった。いはば空想もまじへて追体験させる物語が、どれだけ実際であるか? 作者が体験したものでない以上、これが現実と地続きなのか、あやうさがつねにつきまとってゐた。
それはなかばフィクションであるゆゑの問題でもあるのだ。
やはり《夢のなかで再生される戦争の話》といふのが適当なところだらう。
私がこれを読んで思ひ出すのは、メタファーにたいするスーザン・ソンタグの決意表明である。ソンタグは大江健三郎との往復書簡でも、大江の用ゐたメタファーを批判した(『暴力に逆らって書く』朝日文庫)。
それは、危機的状況のなかでみづからメタファーに陥ることなく、むしろメタファーに抵抗する姿勢そのものだった。
そして私も、できるならばさうありたいと希求するのだ。続きを読む投稿日:2023.11.29
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