この作品のレビュー
平均 4.2 (52件のレビュー)
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おそらく、日本が負けた戦後、「これからどうしよう」という絶望に満ちた日本国民を想って坂口安吾が書いたエッセイではと思います。堕落というのは、僕たちがイメージする落ちぶれたという意味の堕落じゃなくて、「…またやり直そうよ」という意味での堕落なんだと思います。もう少し言えば、今まで伝統的であった天皇制・武士道・耐乏の精神からの脱却です。まあ、全部そういうものを脱いで裸になって、もう一回新しい人間として生まれ変わろうよ、ということだと思います。今回の東日本大震災にも似たようなことを言える気が、しないでもないのではないでしょうか。続きを読む
投稿日:2011.07.26
このレビューはネタバレを含みます
坂口安吾の『堕落論』は、戦後の混乱期に発表された エッセイで、現代社会における自由と不自由、幸福と苦悩の本質を鋭く突いた作品であると個人的に感じた。
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空襲下の極限状態では、人々は恐怖や混乱の感情を抱…くとばかり考えていたが、安吾は、深夜に戸締まりをせずとも安心して寝ることが出来たり、少年少女の笑顔は絶えていなかったりと、ある種の幸福を感じていたと指摘する。「偉大なる破壊」によって、全てを失った人々は、皮肉にも一種の安心を得ていた。対して、現代社会はどうだろう。現代社会は自由であるがゆえに、人々は多くのことを考えざるを得ず、その自由が責任や不自由につながっているという逆説を提示する。
『堕落論』の核心は、「堕落」の意味を問い直すことにあると考える。安吾にとって「堕落」とは、既成の価値観から脱却し、人間性の深淵に降りていくことで、真の自己を見出すプロセスを意味する。
現代社会に置き換えると、「何者にもならなくていい」という安住から脱し、「何者かにならなければいけない」という現代のプレッシャーに立ち向かうためには、一度徹底的に「堕落」し、自身の本質を見つめる必要があるのだと思う。
ただし、安吾は人間の弱さも指摘する。「堕落」を突き詰めるには、人間は弱すぎるとも語る。それは、「堕落」の果てに、再び自分を救い出す意志力が必要だからではないか。現代社会には、「堕落」から立ち直るための制度が整備されているが、それらを活用するためには、個人の能動的な行動が不可欠である。(その弱さと向き合うのも現代人はとても辛いものなのだと思う。)
『堕落論』は、戦時中の「何も考えなくてよい幸福」と、現代の「自由ゆえの苦悩」という二項対立を浮き彫りにする。自由な現代社会で幸福を得るためには、自ら目標を設定し、努力する自己統制能力が必要とされる。しかしながら、常にたくさんのタスクを抱え、爆発してしまう人もいる。一方、戦時中は、生存すること自体が目的となり、考えることは少なくてよい。
坂口安吾の『堕落論』は、戦後の混乱期に書かれたエッセイでありながら、現代社会の根源的な問いを投げかける。自由と不自由、幸福と苦悩の関係性を探求し、「堕落」という概念を通じて、人間存在の本質に迫る。安吾の思想は、現代を生きる我々に、自己と社会のあり方を問い直す契機を与えてくれるのである。
(あくまで自身で読んで感じたものであり、人や時代背景により様々な解釈の余地があると考えます。)続きを読む投稿日:2024.04.04
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