複製症候群
西澤保彦(著)
/講談社文庫
作品情報
密閉空間で起こる酸鼻な殺人事件! 兄へのコンプレックス、大学受験、恋愛。進学校に通う下石貴樹(おろしたかき)にとって、人生の大問題とは、そういうことだった。突如、空から降りてきた七色に輝く光の幕が人生を一変させるまでは……。触れた者を複製してしまう、七色の幕に密閉された空間で起こる連続殺人。極限状態で少年達が経験する、身も凍る悪夢とは。(講談社文庫)
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商品情報
- シリーズ
- 複製症候群
- 著者
- 西澤保彦
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 2002.06.15
- Reader Store発売日
- 2013.11.01
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 361ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (8件のレビュー)
-
この物語の面白いところはコピー人間も自分がオリジナルだと思っているところです。
政府からコピーは処分するという通達が来てから様子が怪しくなっていきます。閉鎖された空間の中、誰がコピーで誰がオリジナルか…も分からず、一人、また一人と仲間が死んで行く展開は緊張感があって面白かったです。
全体的にムラがあるので完成度はイマイチですが、最後まで一気読みさせるだけの魅力はあると思います。続きを読む投稿日:2013.08.09
子供のころ、藤子・F・不二雄原作のアニメ『パーマン』が好きだった。空を飛ぶマントや、トランシーバー兼水中呼吸器でもあるバッジなど魅力的なアイテムが作中に多数登場したが、僕が一番欲しかったのは「コピー…ロボット」だった。
コピーロボットは鼻のスイッチを押す事で持ち主とソックリに変身するロボットで、パーマンがヒーローとして活躍している間、代わりに日常生活を送る役回りだ。おでこをくっつける事で本物とコピーの間で記憶の共有ができるため、あのころの少年たちなら「コピーロボットさえあればコピーに勉強を全部やらせて自分は遊び回るのになあ」という妄想にふけった事が一度はあるに違いない。
もちろんコピーロボットなんて現実には存在しないし、実際したとしてもそれは世の中をますますややこしくしてしまうだけだ。同じ人間が二人存在していいはずがない。
しかしそんな状況がもし我が身に降りかかってきたら…それは楽しいアニメのような展開にはならない。
『複製症候群』はそんな極限状況における悪夢を描いたミステリー小説である。
中高一貫の私立進学校に通う貴樹は、この春から高等部に進学した。勉強だけでなく友情や恋愛、人間関係に家族との関係とこの年頃の少年に悩みはつきものだ。
そんな土曜日の午後、貴樹は数名の仲間たちと空から落下してきた虹色の「壁」に閉じ込められてしまう。世界中に突如出現した「壁」は高さ数千メートルに達し、直径は数百メートルの円筒形をしている。その形状から「ストロー」と呼ばれるようになるその壁は、ある恐るべき性質を備えていた。壁に触れた生物を複製してしまうのだ。
貴樹たちが閉じ込められた「ストロー」内には、彼の担任である先生の家があり、その隣には大きな屋敷があった。2軒の建物と閉じ込められた人々。そこで巻き起こるのは…殺人。疑心暗鬼が交錯する中、やがてさらなる事件が…。
同じ一日を何回も繰り返してしまう『七回死んだ男』や、玉突き式に人々の人格が入れ替わる装置が登場する『人格転移の殺人』など、突飛な設定のミステリーで名を馳せる西澤保彦は「SFミステリー」と分類される事も多いが、どちらかといえばミステリー寄りの作家だ。その突飛な設定は舞台装置としてのみ存在し、その謎の追求が物語の主題となることはあまりないからだ(それを主題にするのがSFである)。
そして現実離れした設定の中にも厳格なルールを設定し、その中で展開される人間心理を非常に丹念に書き込んでいる。この小説でも謎の物体に閉ざされた密室という状況と、高校一年生という微妙な時期の少年たちだからこその心理が物語に深く関わっている。これら西澤作品が味あわせてくれるのは思考実験としてのミステリーの面白さだ。
考えてみたら、同じ人間が複製されてしまう、と言ってもそれがどんな風に複製されるのかで話は全然違ってくる。
『パーマン』のコピーロボットは自分がロボットである事を認識していて、自我があり、時には持ち主に逆らうこともあった。『複製症候群』に登場する複製は、「ストロー」に触れた者の直前までの記憶を有したまま出現し、説明されないと自分が複製だという事はわからない。本書の表紙には「Clone Syndrome」と英題が記されているが、それでいけば「クローン」というより「コピー」と言った方が正しい(作中では「クローン」も「コピー」も混在して使用されている)。
そしてそんな状況で生まれてくるコピー人間は当然のように自我の危機に直面する。自分がコピーであるなんて思いもしなかったのに、突然コピーとしての人生を歩まされる。しかもオリジナルの記憶をそっくり受け継いだままでだ。それが実に恐ろしい。
西澤保彦らしい筆致で丹念に描き出される心理がやがて読者の心に重く突き刺さる。冒頭が爽やかな青春小説風の始まり方だけに、その恐怖はハリガネのように冷たく心をえぐっていく。
ただし、そこらへんの描写は西澤作品にしては若干書き込み不足な感じなので、ヘビーな西澤読者は物足りないかもしれない。肝心のミステリー部分もなんか驚くほどの展開ではないし。もっと掘り下げる事ができそうなのだが、紙幅の関係か後半駆け足になるのが残念。ラストで肩すかしをくらうかも。それでも西澤節というか、人と人との関わり合いが思いもよらぬ悲劇に発展するという展開は健在なのだけど。
文庫版あとがきで作者自身も触れているように、この小説が世に出た頃とは時代がだいぶ変わっている(原書が講談社ノベルスより刊行されたのが1997年)。今ならこんな展開にはならないだろうな、という部分も多い。その要因は主にインターネットの普及が大きいが、「外部から隔絶された世界」という舞台装置が現代においてはそれだけ作りだしにくいのだろうな。続きを読む投稿日:2013.05.04
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